滅せよ、野次馬

「先輩は本当に愛されてますよね」
はぁー、と盛大な溜息が目の前の一つ下の後輩の口から零れた。
あ?と眉を寄せながら、顔を上げると不満そうに治った虫かごを抱きかかえている。
子供かお前はと言いたくなるが、まぁ、子供なんだろう。
こいつの反応見ていると、大人とはとても言い難い面があるのだ。
「だって…いっつも誰かが傍にいるじゃないですか。善法寺先輩はまぁ、同室だからとしても。立花先輩も七松先輩も…酷いときは中在家先輩も。その誰かが居ない時は、潮江先輩と喧嘩してるし……」
「……そうか?」
そんなに私は誰かと一緒にいるのだろうか?と首を傾げると竹谷は更に不満そうに眉根を寄せた。
ゆっくりと体をゆすって、体全部で不満を訴えている。
「そうですよ。俺が話しかけようとしても、絶対に一緒にいる人に邪魔されるし…こうやって虫籠の修理を頼んだ時くらいです」
「…まさか、わざと壊してるんじゃないだろうな」
怪訝そうに眉根を寄せて見せれば、竹谷はまさかと軽く肩をすくめた。
流石にそれはないと言いたげな表情に、溜息をつく。
「…先輩がそういうの嫌いなのは俺も知ってます。嫌われるような真似なんて、俺ができると思います?」
そう言われて、目の前の拗ねたように唇を尖らせる後輩を見た。
確かに無理そうだ、と小さく笑い交じりに頷いてやれば「ほらね」と幽かに笑みが覗いていた。
「俺、先輩のこと好きすぎて先輩に嫌われる真似とかぜってぇできねーっすもん」
そう言ってにかっと音でもしそうなくらいに笑う竹谷に私も思わず笑いをこぼしてしまった。
あははと、用具倉庫に男二人の笑いが木霊する。
だが、それも暫くすればしんとした沈黙へと戻った。
ふと、視線を上げればこちらをじっと見てくる竹谷と視線が合った。
彼とこんな風になってもうどれくらいかと、ふとそんな事を思った。
告白されたのが5年生の終わり、それから今はもう夏になっている。
数か月の間に、この後輩がどういう人間であるかはきっと以前よりも比べ物にならないくらい知っている。
あけすけで、絶対嘘など吐けない(忍者としては別かもしれないが)
少なくとも、私に嘘をつけるような人間ではないとわかっている。
視線が合えば、竹谷の口が「せんぱい」と音もなく紡がれるのが見えた。
ふ、と、何故かそれに触れたくなって、身を乗り出した。
それに惹かれるように竹谷の顔も近寄ってくる。
あと、少し…と薄く瞼を閉じた瞬間、がたんと壁の向こうで音がした。
「「え?」」
声を発したのはどっちが先か。
二人して音のした方の壁を見れば、そこには格子がはまった窓がある。
まさか、と思って私と竹谷はその窓を覗き込んだ。
「おい、伊作お前何やってる!」
「ごめん、だって急に虫が服の下に入って…」
「お前たち声がでかいぞ、中に聞こえるではないか」
「……(こくり)」
「って、あ、留ちゃん?」
「お前たち…」「先輩…」
そう言葉をこぼせば、小平太以外の残りの面子も顔を上げた。
委員長総出で一体何を、と私はため息をついた。
「あー、留さん、これは誤解なんだ!たまたまこの辺を通りかかっただけで、別に覗きとかじゃあないんだよ?」
「…それにしても青いな竹谷。己の間が悪いのを全部私たちのせいにするとは」
「仙蔵…」
何言ってるんだ、おまえらと私がため息をつけば隣でかくんと竹谷の肩が落ちるのが見えた。
「竹谷?どうした?」
そんなに仙蔵に言われたことがショックだったのかと、そう問うてやれば彼は一言「やっぱり、この人たち嫌い」とだけこぼした。

(でも、たまには誰にも邪魔されないで二人で過ごしたい)

後書き

初・竹谷×食満です。へたれ年下×しっかり者年上は激しく好物です!
んで、邪魔されるへたれ攻が大好きです(オイ)