三千世界の籠の鳥

第6話

*捏造満載です。三郎の家族とか、三郎の素顔とか出てます、苦手な方はブラウザを閉じて下さいませ。*

夕餉は部屋に運ばれて、三人でと言われたがどうにも食べる気になれなかった。
酒宴を開いてもと最初は言われたらしいが、そこまでされると怪しさばかりが募ってしまう。
明日は早くに帰るつもりだし、きちんと報告にいかなければいけないからと三人はその申し出を断った。
本当に毒が入ってないかと、疑心暗鬼とは恐ろしいもので殆ど箸を付けずに、捨ててしまう事になった。
夜、城の中で動き回るなら月は関係なかった。
丸い、名月と呼んでも良いくらいの月が出ているけれど、と三人は天井裏に入り込む。
来ていた鬘やら何やらは全部、持ってきた人形に着せて、寝ているように見せかけて上に登る。
埃っぽい天井裏を伝って、三人は三郎の部屋に向かった。
天井板を軽く動かすと、灯りが零れる。
本当にいた、と三人は顔を見合わせた。
まさか、と思っていたが、と特に雷蔵と竹谷は視線を交えた。
「…じゃあ、兵助。俺達はこの辺で見張ってるから。ちゃんと説得しろよ」
「え、ちょ、何で?」
一緒に来るんじゃないのか?と微かな声で話しかけると、二人は顔を見合わせた。
「…誰か来ないように見張ってて上げても良いけど。多分誰も来ないよ。それに多分、今の三郎は兵助の言葉しか聞かないから」
「でもっ」
「僕と三郎がどれくらい一緒にいたか、兵助も知ってるでしょ?その僕が言うんだから。信用できない?」
そう言われて、兵助も口を噤む。
確かに、悔しいけれど自分よりも三郎を理解しているのは雷蔵だ。
その彼が言うのだから、正しいのかも知れない。
「ほら、さっさと行けよ。多分三郎もう、気付いてるって」
ほら、と天井板の隙間から下を見るとこちらを見上げる三郎と目が合う。
じゃぁな、と竹谷と雷蔵の気配が消えて、久々知はあ、と声を上げる。
どうしよう、と微かに逡巡していれば、三郎がさっと立ちあがって自分の方を見つめた。
「…何で、来たんだよ」
「三郎…」
言葉を発せられて、漸く久々知も動いた。
天井板を外して、三郎の目の前に降り立つ。
二人して立ったまま、部屋で向き合っているのも何だか変な気分だった。
それは三郎も同じなのか、彼はすとんと床の上に腰を下ろした。
風呂上がりなのか、寝間着姿で、鬘の髪もそれっぽい様に降ろしている。
座って、俯いて、もう一度三郎はさっきの言葉を繰り返した。
「何で、ここまで来たんだよ。帰れって言ったのに…」
「帰れる訳ないだろ?三郎がどうして、ここに居るのか理由を知りたかった」
「なら、良いじゃないか。もう解ったんだろ?私がどうして、ここに連れてこられたのか」
「…解ったけど。解ったから、ここまで来たんだ。お前を、ここから連れて帰る為に」
そういうと三郎の髪がゆらと揺れた。
前髪の奥で、彼の眉間に皺が寄る。
「行ける訳ないだろう?家の為に、私はここに来た。私がここから居なくなれば、どうなるかなんてちょっと考えれば解るじゃないか。私はここにいる、それが一番良いんだ」
「…三郎はそれで良いの?」
淡々と語られる言葉に久々知がそう聞き返した。
誰に言い聞かせているのだろうと、そう思うくらいに目が揺れているのが解る。
話をするときは何時も自分の目を見てくれたのに。
今の彼はそれさえもない。
ゆらと彼の目が揺れて、それだけしか解らない。
こんな彼など、今まで見たことがなかった。
学園にいたときは、何時も飄々としていて、人を食ったような不敵な人間であるのに。
「…良いんだ。私はここ、兵助達は学園。それが一番…」
「私は嫌だ」
そう言われて、三郎の拳がぎゅと握りしめられる。
「嫌だ、何度も言ったのに。私はお前が好きだって。他の誰でもなくて、三郎じゃないとダメだって何度も言った」
また、三郎の瞳が揺らぐ。
そんなことを言われたらまた揺らいでしまう。
決めたはずだ。
家のためにここに仕えるのだと。
何をされても、あの主に仕えなければいけないのだと。
なのにどうして、彼はここまで来て、自分と一緒に帰ろうだ等と言ってくれるのだろう。
もう、自分があの男に抱かれたことだって知っているだろうに。
それでも、一緒にと言う。
じわ、と視界が滲む、また閉じ込めようとしていた感情が浮かんでくる。
「…私だって、お前が良い。お前じゃないとダメだと思った」
ぽつり、と三郎の口が言葉を紡ぐ。
「私だって、兵助が良い。雷蔵やハチと一緒に居たい。彼処に帰りたいけど…。ダメだ…私にそんな資格なんてあるわけ無いじゃないか」
「…三郎?」
「…本当は初めてなんて言葉はどうでも良いと思っていたんだ、最初。でも、そんなの詭弁だった。嫌で、仕方がなかったのに、逆らえないと言って、あの男の所に行った」
溢れるように三郎の唇から昨日の夜の事が語られているのだと、久々知は気が付いた。
何、と言いそうになって久々知は口を噤む。
手が震えている。
微かに水の気配もする。
泣いているのかと、理解するのに時間は差ほど掛からなかった。
「……嫌で嫌で、仕方がないのに。家のためと言い聞かせて抱かれるはずだったのに。香…なんて、言い訳にしかならないけど…。目の前に居るのが誰か解らなくなった。誰が自分に触れているのか、もう解らなくなって…」
「さぶ…ろ…?」
「私は、お前の名前を呼んでしまった」

「あの男に向かってお前の名前を呼んだ。それが誰か解らなくて、今自分に触れているのは、お前だって、そんな風に思ってしまった」

「…軽蔑、するだろう?一番好きだと言った相手と、自分を無理矢理組み敷いた相手を間違えたんだ。そんな、私なんかお前の傍に居られるわけがないんだ」
だから、と三郎が言葉を続ける前に久々知の腕が彼に伸びた。
思わず、その言葉を全部遮ってしまおうと、そんな風に久々知は三郎を抱きしめる。
「兵、助…?」
久々知の、腕の中で三郎が名前を呼ぶ。
「嫌だ。私はお前が良いんだ。それは、間違えるくらいに私の事を想ってくれたって思える。…私はそれくらい三郎の事が好きだよ」

「だから、資格がないなんて言うなよ。私は、お前じゃないとダメって何回言えば解るんだよ」
そう言って、久々知は腕の力を強くする。
抱きしめた腕の中で、三郎が涙を流すのが解った。
じわり、と暖かい物が広がる。
「兵、助…、へいすけっ…」
「うん」
「私は、お前の傍に、いたい…」
「うん、私も、お前に傍にいて欲しいよ」
そう言って、微かに体を離す。
軽く額を突き合わせて、視線が合った。
そっと、引き合うように目を閉じて、唇を重ねる。
触れるだけのそれが、やけに神聖で、大切な物のように思えた。





しまった、何か思いの外このシーンが長くなってしまいました。
にしても書き終わるのに3時間とか…orz
は、早いですね、自分でもびっくりです。
取りあえず、次は念願の久々鉢エロって事で。

次から久々知の表記を兵助の方にしようかと思っております。
表記揺れ?と思われる可能性があるので、エロシーンのみで、その次からは久々知表記に戻す予定ですけれど。
いや、エロの時はさ。
ほら、名前の方が愛がある感じが出る、気が…するのですけど…。
私だけですかね?(ドキドキ)


 テンプレート製作者:オペラ 高橋