第5話
*捏造満載です。三郎の家族とか、三郎の素顔とか出てます、苦手な方はブラウザを閉じて下さいませ。*
だん、と床を叩く音が竹谷と雷蔵の耳に入ったのは障子が完全に閉じられたからだった。
「へい…」
「何なんだよっ…!彼奴は…三郎は…そんなっ」
言葉に成らない怒りを叩き付けるように、彼は顔を上げない。
初めて見る、と雷蔵と竹谷は顔を見合わせた。
普段から天然などと言われて感情を露わにするのは滅多に無いというのに。
その久々知が、拳が震えるほど怒りを表に出していた。
それほど、三郎のことを大切に思っているのだろう。
それも初めて見るのだ。
自分の好いた相手をあんな風に、見せつけるように扱われて冷静でいられるほど彼は大人ではなかった。
はー…と自分を落ち着けるように息を吐いている久々知を確認すると、雷蔵と竹谷が顔を見合わせて頷く。
「…兵助はここで待ってて。僕達が城の中を見てくるからさ」
「まぁ、ああも言ってたし。何か有るって事は無いと思うけど。お前、多分まともに何か出来る訳無いし…ここで頭冷やしてろ、な」
「解った…ごめん」
頭を上げられないのは、息を吐いても登った血が上手く冷めないのだろう。
目の前が白よりも黒よりも、更に鮮明な赤に変わるような感情は初めてだった。
初めて、自分の手で誰かを殺してしまいたいと思うような、それほどの怒り。
「じゃあ、行ってくるね」
と、頭の上で雷蔵の声がした。
ぴしゃりと障子が閉まる音がして、久々知はそのまま体をうつぶせにして、板張りに寝そべる。
ひんやりとしたその冷たい床が、幾分か自分の熱を冷ましてくれる気がした。
「三郎……」
先ほど会った自分の愛しい相手の名前をつぶやく。
恋仲に成ってから幾度、唇を重ねただろう。
幾度、好きだと想いを伝えただろう。
出て行く数日前にだって、唇を重ねて、好きだよと彼に伝えたのに。
その先は結局「怖い」と言う言葉で拒絶されてしまったけれど。
それでも、少しずつ少しずつ、大切にしてきたのに。
それを難なく手に入れてしまったあの男がどうしよう無く、憎かった。
嫉妬という感情が醜いのは、頭では理解していても止めようがないのだと、初めて実感する。
自分ではどうしようもない嫉妬と怒りと、焦りと…そんな物がぐちゃぐちゃに混じり合ったような感覚が胸の奥に渦巻いている。
「…三郎」
もう一度、あの大事な人の名前をつぶやく。
自分達の前から去っていくときの、怯えたような目。
そればかりが、頭にこびりついて消えないのだ。
城の中を歩き回りながら竹谷と雷蔵は、小さく息を吐く。
ちら、と竹谷は後ろを振り返って軽く肩を落とした。
「何か…凹むな、こういうの」
「……うん、ちょっとね。三郎がそういう事で連れてこられたのは解ってたけど」
「雷蔵は?怒らないのか?」
むしろお前が一番怒りそうなのに、というのを含んで竹谷が庭へ降りようとして雷蔵に問う。
自分もそれについて、庭へと降りる。
「…怒ってるけど、多分兵助に較べたらって感じかなぁ。一応、三郎から兵助との事は聞いてたし、その時の事も知ってるから酷いって思う。でも、ちょっとだけだけど、あのお殿様が羨ましいのもあるから、複雑って言うのが一番だから」
そう言って、雷蔵は小さく笑う。
その隣に並びながら竹谷は「まぁなぁ…」と言葉を零した。
小春日の庭の空はやたらと高く、空気も高いところに有るせいか清々しくもある。
その下でするには似合わないと思いつつも、むしろこんな風景の方が話しやすいのかもなとも同時に思ってしまう。
「俺はもし、そう言うのがあったとしたら、雷蔵と三郎かなって思ってたからなぁ」
「……僕もね。ちょっと自惚れてたのあるんだ。僕は三郎がそういう意味で好きだったから、三郎も同じだと思ってた。だから告白とかそういうのしなくても、絶対に離れないって思ってた所はあったから。兵助とって聞いて、正直驚いたし悔しかったし、最初は…信じられなかったし」
「今は?」
「ん?三郎を泣かせたら、兵助を畳めば良いかぁくらいだよ?」
「……お前、結構怖いのね」
「奪うとか言わないだけ、優しいと思うけどなぁ」
確かに、と言いながら庭を歩く。
ここが、と正月に起こった乱の話を思い出せばこんな長閑な場所が血にまみれたなど想像するのも難しかった。
外観と、内部を頭に入れながら庭をゆっくりと進めば、謁見の間まで足を進めていたことに気が付く。
は、と足を止めて、目に映るのは経久が書簡を読んでいる所だった。
彼の目はその文字を追っているのか、下を向いたまま動いている。
こちらには気付いてないのかと、二人は微かに息を潜めた。
隣には誰もいない、不用心だなぁと思うが直ぐに彼の手元を見た。
刀は常に、手の届くところにおいてある。
開けた視界は誰が通っても直ぐに解るようになっているのかと、理解した。
執務室など、そんな部屋に籠もるよりはずっと安全なのかも知れない。
経久はふいと顔を上げて、ちらとこちらを見た。
気配を完全に消していなかったけれど、こんなにあっさり見つかるとも予想していない。
何より変装をしているのだから、そちらの方が逆に不自然だと気配を殺すのを止めた。
「……月山富田城はどうだ?なかなか良い城であろう?」
そう、話しかけられて二人は多少警戒しつつも、「……はい」と返事をしながら経久へと近づいていく。
一段高い壇上に座ったまま彼は、動くこともなく書簡を隣へと置いた。
視線は自分達に向かっているが、それは楽しげな物にさえ感じられた。
「要塞と呼ぶ者もおるが…中に入り込まれれば一溜まりもない所よ。攻められれば守るには良いかも知れぬが、内が崩れれば終わり…脆いものよ」
どう、返事をしたものかと二人は視線を合わせる。
其の様子を見ながら、くくっと楽しげに経久は喉の奥で笑った。
「小姓部屋は儂の私室の二つ隣。嘘は吐いておらぬ。もう一人にでも、伝えておけば良い」
「…そこに荷をお届けすればよろしいのですか?」
どういうつもりだ、と内心で思いつつも、それを表に出さない様にと竹谷が尋ねた。
何故、わざわざ今そんな事言うのだろうか。
荷など、後々自分の使用人でも運ばせれば済む話なのに。
まるで全部解った上で、自分達に動けと言っているようにさえ聞こえる。
罠でもあるのか、と疑いたくなるがそれにしても解り安い張り方過ぎる。
「どちらでも。好きにするが良い。部屋においておけば後で取りに行かせるし、お前達が届けたければ届ければ良い。今宵は部屋にいるようにと、三郎には言ってあるしな」
「…解りました」
「ならば、散策でも続けるが良い。足を止めて、悪かったな」
「いえ、お心遣い、痛みいります」
そう言って、二人は頭を下げてその場を後にする。
後ろで、くつくつと楽しげな笑い声が響くのに、怪訝な顔をしつつ、離れた場所に来れば盛大に安堵の溜息を吐いた。
「なぁ、雷蔵、あれ絶対、気付かれてるって」
ありえねぇだろ!!と竹谷が怒鳴るように雷蔵に向かって続ける。
あの口調、言葉、態度、どれをとっても自分達がどういう目的でここに来たのか、全部知っていると解りきっているから出来る物に聞こえる。
「…ちょ、声が大きいよ、ハチ。」
「あ、ああ、わりい。でも、さ、あの人絶対解ってるって気がするんだけど」
「でも、それだったら変だよ。まるで三郎をさっさと連れて行けって言ってるみたいで…」
「そうだよな。元々あの人が言い出したから、三郎はここまで連れてこられたわけだし」
何か、あんのか?と竹谷は首を傾げた。
解らない、と言いたげな様子に雷蔵も溜息を吐いて、自分達が来た方を見つめる。
「大人の余裕…?それとも三郎が絶対に帰らないっていう自信、とか…?」
「……それで、彼処までぺらぺら喋るかぁ?何か手伝ってくれてるみたいに聞こえるし」
「でも、罠とか?」
「あーっ!もう、考えれば考えるほどわっかんねぇよ!」
そこまで叫んで、竹谷は盛大に項垂れた。
侍ってわからん、と呟いた彼に雷蔵は「そっちじゃないでしょ」と苦笑を零した。
でも、それでも分からないものは分からないのだと、自分も頷くしかないのだが。
「どうする?兵助には…言う?気付かれてるかも知れないって…」
「……あんまり賛成は出来ないけど。今の兵助は何するか予想つかねぇからなぁ。予想外の事するのは雷蔵で慣れたけど、兵助は殆ど無いから、余計に怖い」
「何か、それ僕が常に無茶してるみたいに聞こえるんだけど?」
気のせいだろー?と言って、その後竹谷は「まぁ」と一度言葉を継いだ。
「あの殿さんの調子なら、何もない可能性が高いし。黙っても問題は無さそうだけど」
「そうだね、何かあっても対処できる位の装備は用意して貰ってるし。兵助には黙っておこうか」
おう、と雷蔵の言葉に竹谷が返事をする。
今夜、あの男の言葉が正しければ、三郎は部屋にいるはずだ。
ついて来てくれるだろうか、と雷蔵は心配そうに小さく溜息を吐いた。
言い訳−です。
取りあえず、5話です。
ここで切ったのは、量の関係です。
何でこんなに長くなってるんだ、これは…(汗)
一応、これ前提として雷→鉢もあったりします。
竹谷はもう保護者ポジションですね。
実はこれ、最初の時点では雷鉢Verも竹鉢Verも考えてはいました。
つっても、話の流れは全部一緒で、この後に来る話が残り二人もあるってだけなのですが。(後は3.5話で呼ぶ名前が変わるくらい)
後輩が、いっそ全員で良いじゃないですか!と言ってたのですが、私の脳内では「え?!乱交?!」という駄目な言葉が出てきました。
酷すぎます(確かに)
要は王子様役=全員で良いじゃないだったらしいのですが…。
うん、酷いのは私です、すいません…orz
次はちょっとエロとか入れて長くなるはず、です。
フルで自由に時間が使えるのは明日くらいまでなので、ががががーっと頑張ろうと思います。
テンプレート製作者:オペラ 高橋