三千世界の籠の鳥

第2話

*捏造満載です。三郎の家族とか、三郎の素顔とか出てます、苦手な方はブラウザを閉じて下さいませ。*

実家に帰るのは正月振りで、新しく与えられた屋敷の私室は何処よりも余所余所しく感じられる。
正月のあの月山富田城での一件で、鉢屋家が尼子経久の覚え目出度く召し抱えられたのは手紙で知っていた。
学園を卒業したら経久に仕えることは、三郎の意思にかかわらず決まっていたのだ。
だが、その時期は思いの外早く訪れてしまった。
急な手紙は自分を呼び戻すものと、学園長への退学願いの二通だった。
手紙の内容を読んで、まさかと思ったのは今でも同じだ。
経久に自分が気に入られ、是非傍仕えにさせたいと。
それも、小姓として。
小姓というのがなんであるのか、否が応でも知っている。
しかも、そういう相手として望まれたと知って、一番衝撃を受けたのはそれは両親が二つ返事で承諾したことだ。
もう決まったことだから直ぐに帰ってこいと、手紙には書いてあった。
そんな馬鹿な話があるかと、初めて反抗したがそんな物は父親の拳で打ち消されてしまった。
そして、今日はあの月山富田城へ謁見に行くのだ。
謁見と言っても、と三郎は用意された荷を見つめた。
もう、殆ど行って帰ってくることは出来ないような物じゃないかと、溜息を吐いた。
いそいそと一族の物が用意しているのは生活道具一式にも見える。
着物を着替えて、そのまま畳みに寝ころんでいれば殺したような足音が聞こえて、慌てて起きあがった。
「…支度は?」
脅されるように言われて「出来ました」と返事をした。
そうか、という言葉を耳にして、三郎は父の後について、立ちあがった。


「ここが、三郎の実家…」
でかっ…!と思わず声を零したのは竹谷だった。
仮屋敷とは言え、かなりの大きさの屋敷は流石に驚いてしまう。
ぽかんとしている竹谷と久々知を余所にすすっと門の前に行こうとした雷蔵に、はっと肩を揺らして久々知の方が気が付いた。
「って、雷蔵、お前何処行く気だよ?!」
色々と迷わないのか?と思わず続けそうになったが、掴んだ手から振り返るけろりとした顔に拍子抜けしそうになった。
「いや、何かもうまどろっこしいの面倒だから正面から行った方が早いかと思って」
「まぁ、そりゃあ早いけど…って、違うだろ、何か事の深刻さが軽くなってない?!」
ねぇ!という抗議など無視しして、雷蔵は更に門の方へ進んでいこうとしていた。
単純な力比べなら雷蔵は久々知よりも強い。
渾身の力で引きずっているのか、ずるずると彼は雷蔵に引きずられる形になりかけていた。
「って、ハチ!はっちゃん、助けてぇえ!!」
「あああっ、悪ぃ、ちょっと呆けてた」
等と言いながら、竹谷も雷蔵の手首を掴む。
流石に二対一では分が悪いのか、雷蔵も漸く足を止めた。
「雷蔵、落ち着けって。せめて偵察とかそういうのしてからにしようって」
「そんなの!三郎の実家が何か知ってるだろ?逆に捕まっちゃうよ!」
「そうだけど!正面からいきなり行って会わせて貰える分けないだろう」
「でも、ここでうろうろしてるよりマシじゃないか」
「いや、そうだけど!でも、何か違うだろ?!」
確かに雷蔵の言うことは尤もだと竹谷も久々知も思う。
それは雷蔵も同じだったが、ふと思ったのだ。
自分達は彼の友人だ、何を引け目に思うことがあるのだと。
友人を心配してきたのだから、正面から出向いて悪いわけがない。
それが頭に閃けば、実行するより彼の頭には無かったのだ。
門の直ぐ手前でぎゃあぎゃあと騒いでいれば、その門がゆっくりと音を立てて開いた。
は、とその気配に三人の動きが止まる。
誰か家の中の人間が出てくると解れば、一番最初に動いたのは雷蔵だった。
「あ、ちょっと、待てって」
と、竹谷と久々知も続いた。
すいません、と声を出そうとした雷蔵の動きが止まる。
はっとしたような様子に久々知も竹谷もまさか、と中から出てきた人を見つめてしまった。
「…三郎」
最初にその名前を口にしたのは雷蔵だった。
中から出てきた人−三郎とその父親は一瞬こちらを見つめた。
相変わらず三郎は雷蔵の顔をしていて、それに来ている武家の衣装がやけに不自然に見えた。
「雷、蔵…?」
確かに三郎の唇がそう動いて、それから「ハチ、兵助…」と信じられないような物を見る目で彼等を見ている。
「三郎!」
もう一度、雷蔵が名前を呼んで、そちらに足を踏み出そうとした所で、父親がきっと彼等を睨んだ。
怪訝そうな、不機嫌にも見えるような表情に三郎がびくと怯えたような様子を見せる。
「…三郎、こやつ等は?」
何だ?と続きそうな言葉に、多少震えた声で「学友です。忍術学園の」と短く返す。
その怯えたような声に、三人は一瞬眉を上げた。
あの、学園では何時も飄々として怯えるなんて事はほとんど無かった彼が、自分達にも解るようにこの男に対して恐怖を抱いているように見えるのだ。
「あ、あの!僕達、三郎を訪ねてきたんです。急にいなくなって、それで何かあったのかと」
「…雷蔵」
必死にここに来た経緯を話す雷蔵に何処か困惑したような声音で、三郎が名前を呼んだ。
「こやつが経久様へ仕えることが決まっただけ。そちらに関係があることとは思えぬ。お帰り願おう」
有無を言わせぬ父親の声に、一瞬雷蔵が怯む。
それにはっ、とした様に久々知が「そんな訳っ…」と続けようとして更に睨み付けられて声が出なかった。
怖い、と確かに感じたのだ。
「行くぞ、三郎。経久様をお待たせするわけにはいかぬ」
来い、と言われて三郎は「はい」と返事をして、きびすを返し、一度足を止めた。
「雷蔵、兵助、ハチ…気持ちは嬉しいけど、もう学園に戻れない。だから、お前達も早く、帰れ」
「さぶろ…」
「じゃないと、鬼が出てしまうから」
じゃあ、と三郎は自分の幾分先を歩く父に追いつこうと歩を早めた。
「三郎…」
名前を呼んでも彼は振り返らなかった。
さっきのもの悲しい、何かを押し殺したような笑みを思い出して、三人は自分達に非力さに歯がみするしかなかった。


月山富田城についてから、いやその間も三郎は父親の後ろを歩きながら、自分の屋敷の方が気になって仕方がなかった。
雷蔵も、兵助も八左ヱ門も…確かに何も言ってこなかったけれど、まさかここまでやって来るとは思っていなかったのだ。
あの学園の教師達の事が気が付いていないわけはないと言うのに、その追っ手の気配もない。
道中で父親に言われた言葉は半分も頭に入っていなかった。
そもそも、父親が自分に向けた言葉など殆ど無かった。
精々、頭の中に残っているのは、主君には素顔を晒せという事だけだ。
鉢屋の家の慣習に倣って、自分が仕えると決めた相手と一族以外には顔を晒さないことになっているのに。
父親は城に入って直ぐに変装を解いた。
幼い頃に数度だけ見た顔、それを見て、あぁもう鉢屋の家は尼子に忠誠を誓っているのだと理解できる。
外さなければ、と思いつつ結局三郎の手は自分の顔に掛かるだけだった。
謁見の間について、父親は呆れたような息を吐いたが、それでも何も言わない。
自分の意思に任せるという事なのだろうかと、三郎はぐと拳を握る。
(私の意思など…ここに連れてきた時点で無いような物なのに…)
全部、この男が決めてしまった事ではないかと。
だがそれを顔に出すことも、彼には許されていないのだ。
「…殿」
と、言われて三郎ははっと顔を上げて、そして頭を下げる父に倣った。
一瞬、視界に移った男は彼も正月に見た時よりもずっと、一国の国主として相応しい風格に変わっていた。
三十前の、若々しい国主は堂々とした足取りで部屋に入り、一段高い所に座した。
「顔を上げよ。鉢屋…この間の働きがあるのだから、この経久の前ではその様に畏まることはない」
「ですが、主の前に頭を垂れるのは臣下として当然の事と…」
「まぁ、良い」
は、と父親は返事をして顔を上げる。
三郎もそれに倣った。
壇上にいる男は嬉しそうとも楽しそうとも取れる表情で三郎の方を見ていた。
どういう風の吹き回しかと思う。
自分達の様に素顔も晒さない、しかも自分に至っては未だに親友の顔を借りているというの。
「…三郎、久しいな」
「はい、お久しぶりで御座います」
久しぶりと言われても、自分には随分遠くの存在だと言うのに。
あの凄惨としか言いようのない、自分達の作戦を殆ど無表情でやってのけた男とは思えない程、今の経久は表情豊かだった。
「急な出仕になってしまってすまぬ。だが、どうしてもお前を傍仕えにしたくてな。無理を言った、許せ」
「いえ、主に従うは臣下の勤めと…思っていますから」
そんなわけないじゃなかと自分の口に三郎は言いたくなった。
慣れきった社交辞令とは言え、心にも無いことを言うのは胸が悪くなる。
だが経久はそれさえも見抜いているようににぃと口の端を持ち上げた。
下がれ、と父親に言ってそれに彼は素直に従う。
部屋に二人きりとなれば、三郎は正座をしたまま居心地の悪いまま目の前の主君と向かい合った。
日の傾きはまだ遅く、明るい光りが開け放った部屋に降り注いでいる。
「…その顔、お前の物ではあるまい?」
「すみません、ここに来るまでに外せと言われておりましたが、失念しておりました」
「良い。お前はまだ、ここに連れてこられたことに納得しておらんのだろう?」
そう言い当てられて、三郎は微かに目を見開く。
それを知った上で、この男は機嫌を悪くする様子を見せない。
それどころか、更に機嫌が良くなったようにさえ見えるのだ。
さっと経久は立ちあがって、三郎の正面に膝を突く。
びく、と微かに体を引いたが、それは伸ばされた経久の手であっさり捕まってしまった。
彼の手は三郎の顔の、顎にかかる。
にぃと歪められた顔、それに楽しげに光るまるで鷹のような目に三郎は微かに体を竦ませた。
彼とて幾度かは死線をくぐっているし、この前の乱では幾人も人を切ったはずなのに。
それ以上に、死を知っている目に怯えたのだ。
「…構わぬ。いずれお前からこの奥の面を晒したくなるようにしてやる」
「…どうして、私なのですか?」
思わず、零れた質問はここに来るまでずっと胸に有った物だ。
どうして、自分を見初めたのか、そしてこんな強引な手を使ってまで呼び戻して召し抱えたのか。
「惚れた。それだけでは足りぬか?」
「…いえ、」
そう言いかけた所で、三郎の唇は経久のそれで塞がれた。
気が付いて、目を更に見開いて、そして体を剥がそうと手を伸ばして、それはあっさりと経久の手で遮られた。
唇を唇で塞がれて、昼の中にはあまりにも不釣り合いな程、深く口づけられる。
柔らかく、だが厚い舌が入ってきて、三郎の薄いそれを絡め取る。
似つかわしくない程、はっきりとした水音が耳に着いた。
「……っ、ぅ」
微かに声を零したところで、三郎の唇は解放された。
「儂とて、ここで盛る訳にはいかぬ。この先は、今夜…」
解っておろう、と言われてまだ乱れる呼吸の中で小さく頷いた。
頷くしか出来なかった。
その返答に経久は満足そうにして漸く三郎を解放した。
呆然と、床を見つめる彼を楽しそうに見つめて「部屋を用意してある。侍女に案内させよう」と告げて彼はその場を後にした。
遠くで、雲雀の鳴く声がやけに響いていた。
三郎は、自分の濡れた唇に手の甲を宛てる。
解っていたのに、こうされることを解ってここまで来たのに。
いざ、唇を奪われるとその嫌悪感で今にも逃げ出したかった。
「…っくそっ」
何度も、あの感触を消そうと三郎は唇を擦った。
何度も何度も、微かに唇が切れて、そこから腫れて痛がゆい。
それも消してしまおうと彼は必死に唇を擦り続けた。




捏造経久様です。
やっぱりなんか、エロ親父みたいになってしまった…orz
一応史実で調べた結果経久様は28歳くらいみたいです。
三郎とは14歳差!年齢の丁度倍です!
すいません、格好いい大人の男の人ってどうやったら書けるんですか?教えてくださっ……!!


 テンプレート製作者:オペラ 高橋