爪痕におわびのキスを。
背中を見れば、くっきりと赤い跡が残っていた。
背中が痛いのは何時もの事で、雷蔵は痛い、と小さく呟きながら体を起こした。
隣には、未だに猫耳が取れない三郎が眠っている。
呑気なもんだなぁ、と笑いつつ彼は鏡の前に後ろ向きに座った。
丁度、鏡に背中を向けるように。
くっきりと残った爪の痕は、昨晩彼がどれだけ自分に熱を上げたかの証拠だった。
猫に近くなったせいか、三郎の爪は伸びやすくとがり易くなった。
時々だが、それを木で引っ掻いてといでいるらしい。
勿論、プライドの高い彼の事だ、人に見られるような場所ではやらないが。
爪の間に木の表皮が入り込んでいる事があるのだから、何となく想像はついていた。
「…これ、沁みるかな」
雷蔵はその傷がどれくらい深いものか、確かめるように背中に腕を伸ばす。
指で触れたそれは意外と深くえぐられていて、ひりりとした刺激が背筋を襲った。
「らいぞう、おきたのか?」
鼻にかかった、まだ呂律の回らない声が聞こえる。
「あ、三郎起きちゃった。まだ寝てていいよ、今日は休みだからさ」
「良い…私も起きる」
そう言いながら、身を起こした三郎は眠そうに眼を擦る。
ぴこぴこと、頭から生えた猫の耳が動いている。
まだ眠気自体は飛んでいないのか、彼はくあっと大きくあくびをして、その尖った歯をのぞかせた。
「…雷蔵、君、何をしてるんだ?」
そう言えば、と鏡を後ろに、腕を背に回している様子を見て三郎は首をかしげた。
まだ、空が白んでいる程度の灯りでもその様子ははっきり見えたらしい。
夜目が何時もより効くようになっているのだ。
「うん、ちょっとね」
「背中に何かあるのか?」
そう言って三郎は身を乗り出すようにして雷蔵に問うた。
「え、うーん…」
言うべきか言わざるべきか、雷蔵は悩んでしまう。
傍若無人を絵にかいたような三郎だが、どういうわけか恋仲である自分に対してはとてもしおらしい。
それは彼なりの愛情表現だと、雷蔵は理解しているが、その分こいいう傷を見せるには抵抗があった。
普通の任務で負った傷でさえ、三郎は過剰に気にする節がある。
なのに、今回はその三郎が自分に負わせた傷だ。
しょげ返ってしまっては折角の休日が台無しだと雷蔵は視線を彷徨わせた。
それをあやしいと思ったのか、三郎は更に体を寄せてくる。
「…雷蔵、もしかして昨日の夜、私雷蔵の背中に爪を立てた?」
「へ?」
ズバリ、良い当てられてしまえば不意打ちをくらったように変な声を上げるしかできなかった。
図星か、という様に三郎はしゅんとしてその三毛の耳を伏せてしまう。
「すまない、雷蔵…、もしかしてって思ったんだけど…、私無意識で手加減出来なくて、思いっきり…。痛いだろう?」
ごめん、と三郎は更にうなだれてしまった。
心なしか、尻尾もへにゃと力が抜けているようだ。
「三郎、僕は別に構いやしないよ?それに、言うじゃないか背中の傷は男の勲章だってさ」
だから、気にする事はないよ、と続ければ少しだけ三郎の顔が上がる。
「…お風呂の時沁みたりしない?」
「んー、どうだろう、それまでには瘡蓋になってる気がするんだけど」
そこまで酷いかな?と雷蔵は首をかしげた。
「なら、私が見ようか?あまり酷そうなら薬を塗らないと…、化膿したりしたらいけないから」
「じゃあお願いしてもいい?」
そう言って今度は背中を三郎へと向ける。
寝間着を上だけはだけ、背中にはくっきりとした10の爪痕が浮き上がっていた。
それを見れば、三郎の眉は自然と下がってしまう。
痛そうだな、と小さく紡ぎつつそっとその背中に指を這わせた。
傷口に触れる指の感触に雷蔵は思わず笑いをこぼす。
痛いと言うよりは最早むずがゆいと感じるほどに治ってきてはいるらしい。
笑っている事がばれたのか、三郎は不満そうに唇を尖らせた。
「…平気そうだな、雷蔵」
「だから気にしないでっていったでしょ?」
そう言ってまたくつくつと笑いをこぼせば、ふてくされた様に三郎はじっとその爪痕を見つめた。
深く抉られた傷口は、喩え平気だと解っても罪悪感が募るらしい。
拗ねた耳はぴくりと、動いてそれから、尻尾は少し悪戯っぽく左右に揺れた。
「雷蔵…、」
名前を呼ばれて、振り返ろうとしてふと傷口に触れる感触に雷蔵は微かに眉を上げた。
音もなく、ただ静かに三郎は唇で傷口に触れた。
ぺろり、と以前よりもざらつく舌で舐めてそれから、甘えるように雷蔵の胴体へ腕をまわした。
「ねぇ、三郎…」
そう呼びかけても、三郎は返事などなくただ尻尾だけがゆらゆらと床を這うように動いていた。
「三郎、誘ってるって思っても良いの?」
「…さぁ」
私は知らないよ、とくぐもった声が背中に響いて背骨が震えた。
end
背中が痛いのは何時もの事で、雷蔵は痛い、と小さく呟きながら体を起こした。
隣には、未だに猫耳が取れない三郎が眠っている。
呑気なもんだなぁ、と笑いつつ彼は鏡の前に後ろ向きに座った。
丁度、鏡に背中を向けるように。
くっきりと残った爪の痕は、昨晩彼がどれだけ自分に熱を上げたかの証拠だった。
猫に近くなったせいか、三郎の爪は伸びやすくとがり易くなった。
時々だが、それを木で引っ掻いてといでいるらしい。
勿論、プライドの高い彼の事だ、人に見られるような場所ではやらないが。
爪の間に木の表皮が入り込んでいる事があるのだから、何となく想像はついていた。
「…これ、沁みるかな」
雷蔵はその傷がどれくらい深いものか、確かめるように背中に腕を伸ばす。
指で触れたそれは意外と深くえぐられていて、ひりりとした刺激が背筋を襲った。
「らいぞう、おきたのか?」
鼻にかかった、まだ呂律の回らない声が聞こえる。
「あ、三郎起きちゃった。まだ寝てていいよ、今日は休みだからさ」
「良い…私も起きる」
そう言いながら、身を起こした三郎は眠そうに眼を擦る。
ぴこぴこと、頭から生えた猫の耳が動いている。
まだ眠気自体は飛んでいないのか、彼はくあっと大きくあくびをして、その尖った歯をのぞかせた。
「…雷蔵、君、何をしてるんだ?」
そう言えば、と鏡を後ろに、腕を背に回している様子を見て三郎は首をかしげた。
まだ、空が白んでいる程度の灯りでもその様子ははっきり見えたらしい。
夜目が何時もより効くようになっているのだ。
「うん、ちょっとね」
「背中に何かあるのか?」
そう言って三郎は身を乗り出すようにして雷蔵に問うた。
「え、うーん…」
言うべきか言わざるべきか、雷蔵は悩んでしまう。
傍若無人を絵にかいたような三郎だが、どういうわけか恋仲である自分に対してはとてもしおらしい。
それは彼なりの愛情表現だと、雷蔵は理解しているが、その分こいいう傷を見せるには抵抗があった。
普通の任務で負った傷でさえ、三郎は過剰に気にする節がある。
なのに、今回はその三郎が自分に負わせた傷だ。
しょげ返ってしまっては折角の休日が台無しだと雷蔵は視線を彷徨わせた。
それをあやしいと思ったのか、三郎は更に体を寄せてくる。
「…雷蔵、もしかして昨日の夜、私雷蔵の背中に爪を立てた?」
「へ?」
ズバリ、良い当てられてしまえば不意打ちをくらったように変な声を上げるしかできなかった。
図星か、という様に三郎はしゅんとしてその三毛の耳を伏せてしまう。
「すまない、雷蔵…、もしかしてって思ったんだけど…、私無意識で手加減出来なくて、思いっきり…。痛いだろう?」
ごめん、と三郎は更にうなだれてしまった。
心なしか、尻尾もへにゃと力が抜けているようだ。
「三郎、僕は別に構いやしないよ?それに、言うじゃないか背中の傷は男の勲章だってさ」
だから、気にする事はないよ、と続ければ少しだけ三郎の顔が上がる。
「…お風呂の時沁みたりしない?」
「んー、どうだろう、それまでには瘡蓋になってる気がするんだけど」
そこまで酷いかな?と雷蔵は首をかしげた。
「なら、私が見ようか?あまり酷そうなら薬を塗らないと…、化膿したりしたらいけないから」
「じゃあお願いしてもいい?」
そう言って今度は背中を三郎へと向ける。
寝間着を上だけはだけ、背中にはくっきりとした10の爪痕が浮き上がっていた。
それを見れば、三郎の眉は自然と下がってしまう。
痛そうだな、と小さく紡ぎつつそっとその背中に指を這わせた。
傷口に触れる指の感触に雷蔵は思わず笑いをこぼす。
痛いと言うよりは最早むずがゆいと感じるほどに治ってきてはいるらしい。
笑っている事がばれたのか、三郎は不満そうに唇を尖らせた。
「…平気そうだな、雷蔵」
「だから気にしないでっていったでしょ?」
そう言ってまたくつくつと笑いをこぼせば、ふてくされた様に三郎はじっとその爪痕を見つめた。
深く抉られた傷口は、喩え平気だと解っても罪悪感が募るらしい。
拗ねた耳はぴくりと、動いてそれから、尻尾は少し悪戯っぽく左右に揺れた。
「雷蔵…、」
名前を呼ばれて、振り返ろうとしてふと傷口に触れる感触に雷蔵は微かに眉を上げた。
音もなく、ただ静かに三郎は唇で傷口に触れた。
ぺろり、と以前よりもざらつく舌で舐めてそれから、甘えるように雷蔵の胴体へ腕をまわした。
「ねぇ、三郎…」
そう呼びかけても、三郎は返事などなくただ尻尾だけがゆらゆらと床を這うように動いていた。
「三郎、誘ってるって思っても良いの?」
「…さぁ」
私は知らないよ、とくぐもった声が背中に響いて背骨が震えた。
end
後書き
微裏ですらないですが、なんか誘い受け三郎。
不器用に誘う子は可愛いと思うんです。勿論、普段のノリノリ誘い基襲い受け三郎でもバッチ来いですが!!