満たされる、空になる
もうすぐ夏休みも終わるという日、折角の休みなのだから遊びに行こうと兵助から手紙が来た。
三郎も竹谷も誘っていると言われて、すぐに解ったという文を出した。
そのあとすぐに送られてきた地図の場所、そこに行ってみたけれどまだ誰もいなかった。
時間は、と太陽を見れば一刻ほど早く来てしまっていたらしい。
しまった、と呟きながら雷蔵は近くの土手に腰を下ろしたのだ。
そこから見える空はやけに高く、雲が遠くに見えた。
ざぁと渡っていく風は夏の香りがして心地よかった。
「おや、雷蔵。今日は一番乗りじゃないか」
そんな風にぼんやりしていれば、聞き覚えのある声がして顔を正面へと向けた。
ゆっくりと下がっていく視界に映るのは彼と全く同じ顔の親友だった。
「三郎」
彼の名前を呼べば、三郎はひょいと軽く片手を挙げて「久し振りだ」と返してきた。
「うん、久し振り、元気だった?」
「まぁな。ちょっと暑さに当てられそうになったけど」
元気だったよ、と続けながら彼は雷蔵の隣へと腰を下ろした。
三郎はこちらに返事をするけれど、決して聞き返したりはしない。
それは休みの度にそうだとふと、気がついた。
詮索しないというのが彼のスタンスだと知ってはいたが、気が付いてみると少しだけさびしい気もした。
「兵助達、遅いね」
「私たちが早すぎるだけだよ。…でも、予想外だな。今回も私が一番だと思っていたのに」
「そうだねぇ、三郎はいっつも一番にいるよね」
こういう、仲のいい面子で遊びに行く時は必ずと言っていいほど三郎が一番最初に待ち合わせ場所に来ている。
確かに一刻前に来ていれば一番乗りになるのも当然なのだが。
「雷蔵は?どうして今日、こんなに早いんだ?何時もなら、もっと遅くに来るだろう?」
迷って、といろんな意味を込めた、からかい交じりの言葉を聞けば、雷蔵は「はは」と苦笑を零す。
「びっくり、させようと思って?」
そう微かに語尾を上げながら返事をすれば、三郎は何時もの悪戯っぽい笑みを浮かべて「嘘吐け」と返してくる。
「やっぱりばれた?」
「当然。雷蔵のことだ、どうせ迷うことを計算に入れて早めに出たのは良いけれど、思いのほかすんなり着いてしまったって所なんだろう?」
「正解、さっすが三郎」
そう言って小さく笑いをこぼせば、三郎も同じような笑いを返してきた。
きら、と木の葉の間から日差しがこぼれて、暫し声が消える。
隣に座る自分と同じ顔の親友を―想い人を見れば顔にはやわらかな笑みを浮かべていた。
ふ、とその視線がこちらを向いて雷蔵の視線とぶつかった。
「…元気そうでよかった」
そう、改めてこぼされた言葉に雷蔵もこくりと頷いて、地面に下ろされた手をそっと取る。
彼はよく「君が無事ならそれでいいんだ」という。
任務のあとも、休み明けも、二人で睦言を言っている間にそんな事を零す。
自分のことはどうでもいいから、君が…と言いたげな言葉に雷蔵の胸は何時も締め付けられる。
それは嬉しさ半分、悲しさ半分の気持ちからだ。
「それは僕も同じだよ」などとは決して言えない。
君が無事なら僕もそれでいいなどと、口が裂けたって彼には言えない。
三郎にとって世界のすべては雷蔵なのだと、それは彼自身が一番よくわかっているのだ。
きっと、三郎は自分がいなくなれば空っぽになってしまうのだろうと、見たこともないのに確信してしまう。
それほどに強い思いを向けられているという自覚があるのだ。
だから、雷蔵はどんな時でも無事であろうと決めている。
彼が空っぽになってしまわないように、何時までもこんな風に自分の傍で笑ってくれるように。
握った手に力を込めれば三郎は「痛いよ」と少し嬉しそうに呟いた。
「ごめんね」と言いながらも、雷蔵はその手を放す事が出来なかった。
「三郎、」
名前を呼んでこちらを振り向かせて、雷蔵は握っていた手を思い切り引いた。
太陽が、二人の頭の上できらきらと輝いて、その光が木の葉の間からこぼれる。
ぎゅう、と自分の腕の中に彼を納めて雷蔵は「会いたかったよ」と囁いた。
微かに、震える髪の毛と小さく聞こえた「私もだ」という言葉で胸がいっぱいになる気がした。
end
後書き
何か砂吐きそうになるような物になってしまいました。ってか、この自信満々な雷蔵はいったい誰?(ええっ)
離れてて寂しかったよ、会いたかったよって内容にしたかったんですが、予想外に路線がずれた気がします;;あれぇ?