君と二人、また生まれる
正月の学園はとかく、人の気配がなく寂しい所になってしまっていた。
本来なら実家に帰るか、教師の家に行かなければいけないはずなのだが、上級生ということでそれは許されていた。
師走の終わりともなれば、北の方では雪が降って帰れなくなったり、休みが短くてまともに帰れないという事も出てきてしまう。
三郎と雷蔵は供に同じ様な理由で去年から学園に残ることを許されていた。
それまでは、担任に家に世話になっていたのだが、5年生になったから良いと言われたのだった。
二人きりで過ごす年末年始は初めてだった。
担任の家で枕を並べて、朝起きて一番に「明けましておめでとう」を言う相手は互いだったが。
閑散とした学園で火が有るのは本当に一部の部屋だけだ。
同じ理由で帰れなかった上級生が数人いるばかり。
二人の部屋には火鉢が出されて、その上には網がおいてある。
町に行って買ってきたものは餅やら酒やらだった。
酒には気を付けろと言われるが、それは酔っぱらってしまうなという事で、決して飲むなと言うわけではないと二人で勝手に理由を着けた。
強ち間違っている訳ではないのだが、普段の授業を思い出せば悪戯をしている、そんなわくわくした気分になったのだ。
ぱちぱちと火鉢の中で、火が爆ぜている。
その上で買ってきた餅がゆっくりと膨らんでいた。
その傍には既に空にしてしまった徳利が転がっている。
「もうすぐ、年が明けるね」
外を見れば、ちらちらと雪が舞っている。
既に庭が真っ白になる位に積もっていて、雪見酒も悪くないと褞袍まで引っ張り出して、戸口を開けていたのだ。
寒がりの三郎は最初渋ったが、くっついても良いという条件を出せば直ぐに頷いた。
戸口が開いているせいか、遠くで撞いている除夜の鐘も聞こえてくる。
「今年ももう終わりか……」
わざわざ二つ出した褞袍を着ずに、雷蔵の方に無理矢理入り込んでいる三郎が返事をする。
ふ、と息を吐いても息は白くならなかった。
「…春が来たら6年生だね」
「そう、だな」
そんな何処か感慨の薄そうな返事が返ってきた。
目の前の火鉢の上では、ぱちんと音がして餅がその薄い表面を割らせている。
それも放って、二人はぼんやりと外の雪を見つめて、鐘の音に耳を傾けていた。
こうやって交わされる会話に意味など、殆ど有りはしない。
年が変わる、ただそれだけなのに不思議と寂しくなってしまう。
互いに口には出さないまま、その決して嫌ではない物に浸りたかったのもある。
「除夜の鐘、今幾つくらいかな?」
「…多分100、くらい」
「ずっと数えてたの?」
そう問い返すと、まぁな、と返ってきた。
「人には108つだっけ、煩悩があるんだよね」
「鐘の音で払える程度なら、11月の頭に生まれる子供とか、いやしないのになぁ」
くすくすと笑いながら三郎は酒を注いだ猪口をくいと煽った。
まるで水の様に飲むのは雷蔵も同じだった。
酒に強い二人に取っては、水も同然だ、既に買ってきた徳利はあと1つに成っている。
多めに買ってきたはずなのに、随分飲んだと自分でも思ってしまう。
「お餅、食べないの?」
「私はもう満腹だから。雷蔵が食べれば良いよ」
「そんな気分じゃないんだけどね」
勿体ない事したね、と既に焦げ付き始めているそれを見て小さく笑う。
「じゃあ、もう炭の中に落としてしまえば良いさ」
「勿体ない」
「じゃあ、雷蔵が食べる?」
「……落とそうか」
そう返事をすると、耳元でくすくすと楽しそうな三郎の笑い声が聞こえる。
あぁ、大分酔いが回って来てるんだなぁと、ふと思った。
冷たい風と目の前の火鉢と、寄せ合った身体と。
血行が良くなれば、その分酒の回りは速くなる。
それは酒を飲むのを止めても変わらない。
だから、さっきから笑いを零す率が上がっているのかと、やけに三郎の機嫌が良くなってきているのに合点がいった。
「…雷蔵、」
名前を呼ばれて、何と言おうとして唇を合わせられた。
ふ、と目の前に自分とそっくりの顔が来たかと思うと、そのまま腕を引っ張られた。
拍子に、どちらかの身体に当たったのか、徳利が転がる音が響く。
「びっくりした…」
自分を引き倒した相手をじぃと見つめれば、それはうれしそうににこりと微笑まれた。
「びっくりさせようと思ってやったんだし」
三郎の顔の直ぐ傍に、片手を着いて見下ろす形になれば、くすくすとまた楽しげに笑ってそっとその手首に唇を寄せられる。
「三郎、除夜の鐘の意味がないよ、これじゃあ」
「言っただろう?あれくらいで払える煩悩なら、11月頭に子供なんて生まれやしないよ」
そうだろう?と聞き返されて、「そうなんだけどね」と困ったように返事をした。
しぃん、とした空気がもう除夜の鐘も撞き終えられている事を示していた。
「それに、あれは去年の煩悩を払うのだろう?今生まれた物は次の除夜の鐘で払うんだ」
「屁理屈だ」
「でも、間違ってない」
「……うーん、」
そう声を零すと、すいと三郎の腕が伸びてきてそれは、雷蔵の首に絡んだ。
ぐい、と引き寄せられれば酒が香る、熱っぽい吐息が近くに感じられる。
「…戸が開いてるよ?」
「この寒さで誰も外になんか出ないさ」
「風邪引くかも」
「そしたら私が看病する」
「三郎が引いたら?」
「雷蔵は看病してくれないのか?」
そこまで問い返されてはもう返す言葉など無かった。
問題ないだろう?と、言いたげな三郎の笑みに少しだけ悔しくなって今度は自分から唇を重ねた。
ぱちん、とまた餅が膨れて割れる音がする。
あぁ、もうあれは食べられないなぁなんて思いながら、二人はそのまま身体を重ねた。
本来なら実家に帰るか、教師の家に行かなければいけないはずなのだが、上級生ということでそれは許されていた。
師走の終わりともなれば、北の方では雪が降って帰れなくなったり、休みが短くてまともに帰れないという事も出てきてしまう。
三郎と雷蔵は供に同じ様な理由で去年から学園に残ることを許されていた。
それまでは、担任に家に世話になっていたのだが、5年生になったから良いと言われたのだった。
二人きりで過ごす年末年始は初めてだった。
担任の家で枕を並べて、朝起きて一番に「明けましておめでとう」を言う相手は互いだったが。
閑散とした学園で火が有るのは本当に一部の部屋だけだ。
同じ理由で帰れなかった上級生が数人いるばかり。
二人の部屋には火鉢が出されて、その上には網がおいてある。
町に行って買ってきたものは餅やら酒やらだった。
酒には気を付けろと言われるが、それは酔っぱらってしまうなという事で、決して飲むなと言うわけではないと二人で勝手に理由を着けた。
強ち間違っている訳ではないのだが、普段の授業を思い出せば悪戯をしている、そんなわくわくした気分になったのだ。
ぱちぱちと火鉢の中で、火が爆ぜている。
その上で買ってきた餅がゆっくりと膨らんでいた。
その傍には既に空にしてしまった徳利が転がっている。
「もうすぐ、年が明けるね」
外を見れば、ちらちらと雪が舞っている。
既に庭が真っ白になる位に積もっていて、雪見酒も悪くないと褞袍まで引っ張り出して、戸口を開けていたのだ。
寒がりの三郎は最初渋ったが、くっついても良いという条件を出せば直ぐに頷いた。
戸口が開いているせいか、遠くで撞いている除夜の鐘も聞こえてくる。
「今年ももう終わりか……」
わざわざ二つ出した褞袍を着ずに、雷蔵の方に無理矢理入り込んでいる三郎が返事をする。
ふ、と息を吐いても息は白くならなかった。
「…春が来たら6年生だね」
「そう、だな」
そんな何処か感慨の薄そうな返事が返ってきた。
目の前の火鉢の上では、ぱちんと音がして餅がその薄い表面を割らせている。
それも放って、二人はぼんやりと外の雪を見つめて、鐘の音に耳を傾けていた。
こうやって交わされる会話に意味など、殆ど有りはしない。
年が変わる、ただそれだけなのに不思議と寂しくなってしまう。
互いに口には出さないまま、その決して嫌ではない物に浸りたかったのもある。
「除夜の鐘、今幾つくらいかな?」
「…多分100、くらい」
「ずっと数えてたの?」
そう問い返すと、まぁな、と返ってきた。
「人には108つだっけ、煩悩があるんだよね」
「鐘の音で払える程度なら、11月の頭に生まれる子供とか、いやしないのになぁ」
くすくすと笑いながら三郎は酒を注いだ猪口をくいと煽った。
まるで水の様に飲むのは雷蔵も同じだった。
酒に強い二人に取っては、水も同然だ、既に買ってきた徳利はあと1つに成っている。
多めに買ってきたはずなのに、随分飲んだと自分でも思ってしまう。
「お餅、食べないの?」
「私はもう満腹だから。雷蔵が食べれば良いよ」
「そんな気分じゃないんだけどね」
勿体ない事したね、と既に焦げ付き始めているそれを見て小さく笑う。
「じゃあ、もう炭の中に落としてしまえば良いさ」
「勿体ない」
「じゃあ、雷蔵が食べる?」
「……落とそうか」
そう返事をすると、耳元でくすくすと楽しそうな三郎の笑い声が聞こえる。
あぁ、大分酔いが回って来てるんだなぁと、ふと思った。
冷たい風と目の前の火鉢と、寄せ合った身体と。
血行が良くなれば、その分酒の回りは速くなる。
それは酒を飲むのを止めても変わらない。
だから、さっきから笑いを零す率が上がっているのかと、やけに三郎の機嫌が良くなってきているのに合点がいった。
「…雷蔵、」
名前を呼ばれて、何と言おうとして唇を合わせられた。
ふ、と目の前に自分とそっくりの顔が来たかと思うと、そのまま腕を引っ張られた。
拍子に、どちらかの身体に当たったのか、徳利が転がる音が響く。
「びっくりした…」
自分を引き倒した相手をじぃと見つめれば、それはうれしそうににこりと微笑まれた。
「びっくりさせようと思ってやったんだし」
三郎の顔の直ぐ傍に、片手を着いて見下ろす形になれば、くすくすとまた楽しげに笑ってそっとその手首に唇を寄せられる。
「三郎、除夜の鐘の意味がないよ、これじゃあ」
「言っただろう?あれくらいで払える煩悩なら、11月頭に子供なんて生まれやしないよ」
そうだろう?と聞き返されて、「そうなんだけどね」と困ったように返事をした。
しぃん、とした空気がもう除夜の鐘も撞き終えられている事を示していた。
「それに、あれは去年の煩悩を払うのだろう?今生まれた物は次の除夜の鐘で払うんだ」
「屁理屈だ」
「でも、間違ってない」
「……うーん、」
そう声を零すと、すいと三郎の腕が伸びてきてそれは、雷蔵の首に絡んだ。
ぐい、と引き寄せられれば酒が香る、熱っぽい吐息が近くに感じられる。
「…戸が開いてるよ?」
「この寒さで誰も外になんか出ないさ」
「風邪引くかも」
「そしたら私が看病する」
「三郎が引いたら?」
「雷蔵は看病してくれないのか?」
そこまで問い返されてはもう返す言葉など無かった。
問題ないだろう?と、言いたげな三郎の笑みに少しだけ悔しくなって今度は自分から唇を重ねた。
ぱちん、とまた餅が膨れて割れる音がする。
あぁ、もうあれは食べられないなぁなんて思いながら、二人はそのまま身体を重ねた。
後書き
ってことで、アンケートで第1位を獲得致しました雷鉢で年越しです。別名「バカップルの年越し」で(え)
目標は「しっとりした年越し」だったのですが、上手くできているかどうか(汗)
この後、黒こげになったお餅は火鉢の中に投入されました、勿体ない。
フリーの期間は11/5までですので、宜しければ貰ってやって下さいませ、報告等は任意ですので。頂ければ喜び勇んで小躍りしながら、お礼に行かせて頂きます。
それでは皆様、良いお年をお迎え下さいませ。