04 / 唯一となりました。
最近、食満君の様子がおかしいと思う。
いや、もしかしたら最初からだったのかもしれないけど。
初めて会った時に僕は嬉しくて舞い上がってしまって、何か気を悪くするような事でも言ってしまったのかもしれない。
でも、どちらかというと、彼は僕に何か伝えたいんじゃないかと思う時があるのだ。
気づけば食満君の視線を感じていて、僕は目が合う、でも逸らされる。
彼はそれに気まずそうに視線をそらすのだ。
だから、二人きりの部屋は気まずい。
僕は出て行かないけれど、食満君は時々耐えきれないのか出て行ってしまう。
それを追いかけられない自分が、ちょっとだけ悔しかった。
「伊作、最近あの相部屋のやつとはどうなのだ?」
食堂でたまたま一緒になった、初等部から同じだった仙蔵に話題を振られた。
中等部になってからは余り話をしていなかったけれど、今日はたまたま食堂の出入り口で出会ったのだ。
仙蔵は最近、同じクラスになったと言う潮江君と言う人にご執心らしい。
反応が面白いのだと、元々サドっ気のある彼は楽しそうに話していた。
そんな時に僕の話を聞いたのか、それで訊ねたのだと言った。
「…どうって、普通に友達、だと思うよ」
そう返事をすると仙蔵は面白くないという顔をして、使っていたフォークをゆらゆらと指先で揺らした。
「同じ部屋の中で暮らしていて、何もないと?」
「仙蔵、君、僕と食満君に何を期待しているの?」
「ん。面白い事に決まっておろう」
やっぱりか、と肩を落とせばくつくつと楽しげな仙蔵の笑い声が聞こえてきた。
それに多少むっとしたけれど、僕は言葉を続ける。
「何もないよ。…普通に友達だ。多分、ね」
「本当か?お前は昔から嘘が下手だと、気づいているか?」
そう言って仙蔵は持っていたフォークを僕へと向ける。
きっ、と見つめられる鋭い視線に僕は、降参と言うように両手を上げた。
「仙蔵はさ、ヒトメボレって信じる?」
「一目惚れ?」
そう、と言って僕は再びスプーンを手にした。
それで今日のメニューであるオムライスを再び口に運んだ。
この食堂で一・二位を争う人気メニューは、それに見合うくらいの味だ。
つまり―比較的ましだと言う事。
「そう、一目惚れ。僕ね、多分なんだけど、彼に一目惚れしちゃったみたいなんだ」
そうはっきり告白すると、仙蔵の眼は見開かれた。
色恋沙汰など、この学園ではまず起こり得ないと言うのが一応の常識ではあるけれど。
実際、同性しかいないうえに、その感情―いや本能はあるのだから、何かしら起こってもおかしくはないと言うのが、本来の常識だ。
「本気か?」
「本気も本気。…一目見た時からってやつ、まさか自分がってのは予想外だったけどさ」
「…それで、お前はそれを言う気があるのか?」
意外だという顔を隠しもせず、だからと言って否定的な感情を向けるわけでもなく仙蔵はそう問うてきた。
その質問に、僕はんー…と悩むような声をこぼす。
「…どう、かな。僕はまだ、勉強を一番にしていたいんだよね、実際」
「何だ、お前、まだ母星に拘っているのか」
そう呆れたように言われて、僕はまぁねと返事をした。
仙蔵は母星に帰ると言う事をどうとも思っていない。
戻って何になるのか解らないのでは意味がないと言うのが彼の持論だ。
それならばまだここで将来を見つける方が、生産的だと考えているらしかった。
「でもね、不思議なんだ。食満君を見ていると、必ず母星を思い出す。…懐かしくて、切なくて…傍に行きたくなるんだ。でも…それを彼の方が許してくれない」
「逃げられた?」
そうからかう様に言われて、僕はしぶしぶ肯くしかなかった。
だってそれは事実だから。
仙蔵に嘘を言っても仕方がないんだからさ。
「食満君、僕に何か言いたい事があるのかもしれないんだけど、言ってくれなくて。時々部屋から逃げるんだ。でも、僕はそれを追いかけられない」
「いっそ、お前から聞けばいいじゃないか。何かあるのかと」
「いや、ほら。それで関係ないとか言われたらショックじゃない?こう…拒絶されるのが怖いって言うかさ」
「気持の悪い心配を…」
「酷いなぁ、僕は真剣だよ?」
そう笑いをこぼすと仙蔵は小さくため息をついた。
何か、呆れたような様子に僕は苦笑しか返せない。
「……だがこのままという訳にもいくまい。何時かは綻びが出るぞ」
「解ってるよ」
それはね、と言うと仙蔵は「どうだか」と言って、肩をすくめるだけだった。