03 / だから君は

マザーとチャイルドとの間には切っても切れない絆がある。
それはチャイルド同士でも実は同じだった。
あの日、中等部に行くと不安そうに笑った留を見送ってから俺はまたベッドに縛りつけられた。
下がらない熱に浮かされながら、俺は視線だけを窓の外に投げる。
あぁ、また三郎が心配するなぁと、それは嫌だなぁと思った。
でも、同時に俺は自分が目を覚ました理由が理解できた。
こっちにやってくる一つの気配。
それは昨日ここを出たはずの留のものだ。
何かあったのかな、と不安になりつつ俺はベッドを起こす。
遠隔操作で上体ごと起こせるようになっているそれによりかかって扉が開くのを待った。
ピッいう電子音と共に扉が開いて、俺は其方へと視線を向けた。
あぁほらやっぱり、と俺はそこで今にも泣きだしそうにうつむいている留を見て思った。
何か辛い事があったんでしょう?俺にも解るよ。
俺は、留の兄弟だもの。
俺たちはみんな何処かで繋がっているんだから、兄弟に何かあったら直ぐに解るんだ。
「留、どうしたの?何か、あったの?」
今日はパートナーに会ったんでしょう?何を泣く必要があるの?嬉しくないの?という言葉は、全部声には出来なかった。
最初の言葉を紡ぐのが精いっぱいで、俺は留を近くに読んでやることしかできない。
今にも零れ落ちそうな涙を見て、近くに来た彼の黒髪を撫でてやる。
それを切っ掛けに留の切れ長の目からは洪水の様に涙があふれ始めた。
「さく…が、い、さく…が…」
そう言って多分パートナーなんだろう、相手の名前を呼びながら留は泣き続けた。
「何か酷い事を言われたの?」
そう問いかけると、留はふるふると首を横に振った。
違うそうじゃないって、留は必死に何があったのかを話してくれた。
伊作が悪いんじゃないって、自分が勝手に泣いてるだけ。
でも、部屋では泣けないから、ここにきてしまった。
ごめん、と留は泣きながら俺にまで謝ってきた。
「でも、留は辛かったんでしょう?言っちゃえばよかったのに…」
「怖かったんだ…」
「怖い?」
そう聞き返すと留はこくりと肯いてくる。
感情が高ぶっているせいで、何時もよりもずっと彼は幼く見えた。
同い年なのに俺の方がお兄ちゃんみたいだ。
「伊作に…変な顔されるのが嫌なんだ。だって、俺だけだったらどうしようって…、俺だけが、伊作を見つけたって思ったって感じてたらどうしようって思って…」
拒絶されたらどうしようと、留はまた泣き出してしまった。
マザーは言う。
そんな事はないんだと、これはお互いが思う事で決して独りよがりじゃないんだって。
既にパートナーを見つけて、でも今は引き離されている彼が、嬉しそうに話してくれた邂逅の話を思い出す。
でも、それは頭で解っていても、納得は出来ない、実感など出来ないのだ。
その不安は俺も同じだ。
もし出会っても、俺が見つめても、相手がそう思ってくれるかなど解りはしない。
「……マザーの言う事、信じてないわけじゃないんだ。でも、…不安でしょうがないんだ…」
そう言ってぎゅと俺のブランケットを握りしめる手に、自分のを重ねる。
ぐすり、としゃくり挙げた留がそろそろと視線を上げた。
「大丈夫だよ、ちゃんと話せば伝わるよ。…マザーも言ってた。怖いのは最初だけ、ちゃんと話せばもしかしたら、えっと…伊作君も解ってくれるよ」
「そう…かな……」
「そうだよ。だから、留は安心して、部屋に帰ろう?じゃないと、伊作君が心配するかもしれないよ」
「心配、してくれるかな…」
「してくれてるよ、きっと」
ほら、と言うと留は肯いて立ちあがった。
もう、さっきまでの泣き顔はなくて、微かに嬉しそうな笑みを浮かべている。
「なぁ、タカ丸、また来ても良い、よな?」
「勿論だよ。三郎も兵助も、俺だって留に会いたいよ」
だから何時でも来て、と言うと彼は嬉しそうに肯いて「じゃあな」と手を振って、部屋を後にした。
それを見送りながら、俺は未来を思う。
俺のパートナーはどんな人なんだろうって、その人のためにあんな風に一喜一憂することになるのかなって、少しだけ不安で、でもとても楽しみなまま俺はもう一度寝ることにした。