17 / 一番大事なんだ。
伊作が三郎と会ったと言った。
部屋に帰って直ぐに話があると言われて、俺は何時もの様に自分のベッドに座る。
伊作は、俺の正面に座って、そう言った。
「…留さん、僕ね。鉢屋君に会ってきたよ」
そう言って伊作はにこりと笑った。
会いたいと、確かに伊作は言っていた。
渋る俺に随分強引に迫る形で何処に居るのか聞いてきたから、俺もしょうがなく喋ってしまったけれど。
そうか、と返事をすれば沈黙が降りてしまう。
何か話さなければと思えば思うほど、俺の喉の奥で言葉がつっかえるのが解った。
あいつの様子はどうだった?
寂しがってたりしてなかったか?
元気だったのか?
そんな世話話だって幾つだって出てくるはずなのに。
黙って視線を下に向けていれば、伊作が「隣に行っていい?」と聞いてきた。
良いよ、と短く答えると彼が自分の隣に座ったのが解る。
そっと顔を上げると、笑顔だけど、真剣な目をした伊作がいた。
「僕ね、鉢屋君に嫉妬してたんだ」
そう言って、伊作は微かに視線を下げた。
された告白に俺はぽかんとして、そんなしょげた様子を見せる伊作を見つめてしまう。
「…留さんには、僕以外に大事な人が居るんだって思ったら、僕、いっそのことクロスをしないで二人で消えちゃおうかなって思った」
あぁ、やっぱり嫌になったのかと俺は視線を下げそうになる。
でも、伊作の唇は更に言葉を紡いだ。
「でもね、僕の答えは結局一緒だったよ」
「……」
「僕はね、留さんと生きて行きたいんだ。一緒に消えるのも確かに魅力的だなって思ったけど、やっぱり違うんだ。僕はどんなことがあっても留さんと一緒にいたいんだ。…鉢屋君に会ったのは、それを確かめたかったんだ。留さんの大事な人がどんな人か知りたかったんだ」
「それで、あいつはどうだった?」
惚れた?と冗談で言うと、伊作は「まさか」と笑った。
「でも、留さんが大事にしたいって思うのは解るかも。放っておけないんだよね、留さん、世話焼きだもの」
「元気にしてたのか?」
「うん、留さんの言うとおり凄い人見知りされたけど。元気だと思うよ」
良かった、と俺は小さく続けた。
伊作はそれにうん、と小さくうなずく。
「…だから、この人から留さんを奪うような事しちゃダメなんだって思った。それにね、留さんの一番は僕でしょ?…僕の一番も留さんだから。それで、十分だなって思った」
「なんか、恥ずかしいぞ、それ」
気恥ずかしい。
今更だと思うけど、俺の顔は少し赤くなっているのだと思う。
顔が熱い、そして、伊作の手は俺の頬に添えられる。
「ねぇ、留さん。教えて…留さんは、僕と、クロスしたいって思う?僕は留さんが消える方が良いって言うなら、そっちを選ぶ。…だから」
教えて、と唇だけで促されて俺は一度だけゆっくりと瞬きをした。
そうだ、俺はどうしたい?
二人で消えるなんて、確かにそれはそれで良いのかもしれない。
それこそ、世界で二人だけになれるのかもしれない。
だけど…。
「俺も、伊作と一緒に生きて行きたい」
そう言うと、伊作は嬉しそうに「一緒だね」と言って笑った。
その日、初めて俺達は一つになった。
どろどろに溶けて、全部全部混ざっていくような感覚。
これで二人で一つ―完全な何かになったような錯覚。
それでも、その瞬間に俺も伊作も涙した。
痛いとか、熱いとか、苦しいとか、そんなんじゃなくて…。
ただ、涙が出た。
何かが終わったのだと思った。
そして、別の何かが始まったのだとも思った。
そして、俺はこいつのために生まれて、こいつは俺のために生まれてきたんだと、瞬間的に理解した。
「留さん、僕は何があっても君と一緒だよ」
その茶色の綺麗な目から、透明な涙をこぼしながら言った伊作の顔を。
そして、それに俺が肯いた事実も。
俺は絶対に忘れないだろうと、思った。
君を見つけたよ。
世界でたった一人、僕達はお互いのために生まれてきたのだから。
だから、最期の一瞬までもこの手を離したりはしないから。