11 / それを慰めるのも

伊作と仲直り―というか、そもそも喧嘩だったのかすら解らないけれど―してから、季節は二度目の春を迎えようとしていた。
気がつけば二人でいる部屋が当然になって、俺の世界も広がって友達も増えていた。
一人で閉じこもって、昔の世界を懐かしんでいた時とは違っている。
それでも楽しいと感じる事は増えていた。
そしてもうすぐ、4月がやってきて、三郎が中等部に入ってくる。
最近は殆ど顔を出していなかったから、久しぶりに会いに行ったら思い切り拗ねられてしまった。
「留を盗られた」
と、言って不貞寝をしたのだとこれまたベッドに寝そべっているタカ丸に告げられた。
また体調を崩したのだと、彼は何時もの柔らかい笑みを浮かべた。
兵助はそれを慰めているのだと、最早その光景はここでは日常になっているらしかった。
「…留がここに来た理由は何となく解るよ。三郎が入学するから、心配で様子を見に来たんでしょう?」
「やっぱり解るか?」
そう苦笑を浮かべれば、タカ丸は勿論と言って肯いた。
「留は昔から心配性だったから。俺も、三郎の事は心配だけど…」
「兵助も一緒だし…大丈夫だとは思うんだけどな」
生みの親と言うわけではないけれども、幼いころから一緒に育ってきた「マザー」に俺達は特別な思い入れを持っている。
それはパートナーを得た今でも変わりはしないのだけれど。
「三郎はちょっと不安なんだと思う。…本当に雷蔵君が約束を覚えててくれてるのかとか、会って前と同じで居られるのかとか。ほら、そう言うところ繊細でしょう?」
そう言って彼はふふりと笑った。
「…でも、そっちも心配だけど、俺は留も心配。ねぇ、もう伊作君とはクロスをしたの?」
そう聞かれて俺は黙ってうつむいてしまった。
やっぱりと言う様に、タカ丸は笑みを浮かべて小さく笑った。
「でも、解ってるよね。…時間、もう無くなっちゃう」
「あぁ、俺も伊作も14歳になるから…」
15歳になるまでに…。
その年齢がどうして決まるのかなんて知らないけれど、コモンズから通達された期限はそれだった。
恐らくはその年齢さえも三郎の内面に関係しているのかもしれないし、細胞の年齢とかに関係があるのかもしれないけれど。
期限があって、それがもうすぐだと言う事は俺自身も解っていた。
それでも踏み込めないは…やっぱりまだ何処かで怖いとおもっているからなのだ。
確かにあの日、伊作から「好きだよ」と言われて以来、俺達の間に遠慮だとか隠し事というのは少なくなった。
だけど、どうしても俺は自分の置かれている状況を説明する事が出来なかった。
中等部にもなればそういう行為を行っている人間も出てきて、上からの入れ知恵のせいか、話題に上る事も増えてきた。
伊作は元からそう言う話題には疎いのか、顔を赤くして黙って聞いているだけみたいだったけれど。
俺たちの中で一番最初にクロスをしたのは小平太と長次だ。
最初に聞いた時はびっくりしたけど、何となく納得したのも本当だ。
昔から小平太は長次の事ばかりだったし、多分長次も同じだったんだろう。
と言っても、この事を知っているのは仲間内でも俺だけかもしれない。
誰にも言うな、と小平太自身に釘を刺されたからだ。
その後くらいから、俺はどうするべきか悩む事が多くなった。
俺は伊作とクロスをしたいのだろうか。
必要はあっても、まだそんな風になりたいわけじゃない。
一緒に笑っていられるならそれでいいのだ。
「俺も三郎も兵助も…留に消えてほしくないよ」
だから、とタカ丸は滅多に見せない泣きそうな顔を俺に向けてくる。
お願いだからと言いたげな視線に、俺は返事すら出来ずに顔をうつむけるしか出来ない。
もうすぐ、俺たちの期限は1年を切ってしまう。
一緒に消えるのならそれでも良いと、心のどこかで思っているのも事実だった。