01 / 僕と言う存在は

僕が初めて母星を見たのは、中等部に上がってそれまでいた寄宿舎を移動になった時だった。
それまでいた初等部の寄宿舎は第2寄宿舎で、月の裏側にあったせいか、その碧い星を目にする事はなかった。
移動中のエア・カーの中から見た光景は、どういうわけか懐かしいという感情を抱かせた。
太陽に照らされる碧い星は、僕には両腕を広げて迎えてくれているような光景に見えて、無性に帰りたいと思わせた。
あそこに帰りたい。
あの星に、碧く、青く輝くあの星に、僕は帰りたいと思った。
中等部からの教育は今までとは違うと言われた。
ここからの勉強はいわゆる競争で、あの星への移住権を獲得する為のものだと言われた。
だから、これまで行っていたものよりも数段難しくなるし、留年だって起こり得ると教師たちは画面越しに言っていた。
ここの教師たちは基本的に画面の向こうにいる。
彼らは決して、本当の姿をこちらには現さないのだ。
初等部の頃は彼らはその実体をこちらに表わしていて、確かに存在していたのに。
急に居なくなると言う。
中には彼らになついていたらしい子もいて、少しだけショックを受けていたようだったけれど。
僕はそれ以上に、あの星へと帰りたかった。
あの、青い星に…帰りたかった。
だから、教師がどうとか言うのはどうでもよくて、ただ、勉強に打ち込む事だけを考えようと思っていた。

「相部屋?中等部で?」
ある日、届いた通信に僕は目を疑った。
きょとんとしてしまったと言うのが正しいのかもしれないけれど。
諸事情で中等部の入学に間に合わずに、編入という形になる子の部屋が空いていないらしい。
君の部屋がどうやら元々相部屋様に設計されたものだからと、そこには書いてあった。
確かに、僕の部屋は他の子の部屋よりも広いからベッドを二つ位おいても問題はないだろうけど。
「今、相部屋か…」
別にそれは良いんだけど…と、僕は部屋のデスクに広げた勉強道具を見つめた。
邪魔されされなければ全然問題はないんだけどなぁ、と僕は一緒になる子が静かな子である事を願った。

ベッドが運び込まれたのはその子が来る当日の昼間になっていた。
とりあえず授業の間にやっておくからという内容の通信が入って、僕は粗方部屋を片付けてから教室へと向かった。
この時期に編入と言うのは珍しいと言うか、そもそもこの学園で編入と言うのが珍しいのか、クラスはその話題で持ち切りだった。
どんな子が来るのかと言うので騒々しいクラス、僕が相部屋だと何処から伝わったのか、もう会ったのかと数人に聞かれた。
会ってないと答えれば、直ぐに残念そうなため息が聞こえてきたけれど。
そんな風に話題が急に増えても、時間が経つのは何時もと同じだ。
始業の鐘が学校のスピーカーから聞こえれば全員はおとなしく席に着く。
でも、どんな子が来たって僕は僕の邪魔さえしなければそれでいいと思っていた。
からりと扉が開いて、いよいよ入ってくるとなればクラス中が息をのむのが解った。
それに僕は視線だけを向ける。
興味なんかないふりをして、視線だけを。
だけど、僕は本当は気になっていたのかもしれなかった。
楽しみだったのかもしれない。
入ってきた彼を見た瞬間、僕の中で何かがこみ上げてきた気がした。
見つけた!
と、誰かが僕の中で叫んだ。
見つけた、彼を見つけた。
涙が出そうだった。
今にも、僕の目からそれがあふれてこぼれそうだった。
「食満留三郎と言います、よろしく」
と彼は短い挨拶をみんなにして、僕の隣の席に座る。
席の指定はされていないから、基本的に自由に座るのだから開いている席に来るのは当然だった。
それでも、僕はドキドキして、どうしていいのか解らなかった。
見つけた、僕は、彼を見つけてしまった。
何かの始まりと終わり、何かが終わって、何かが始まるのだと、僕の中の何かが大きな声で叫んでいた。