手編みのマフラー
「留ちゃんの手編みのマフラーが欲しい」
と、満面の笑みで言われてしまって、流石に俺も面食らった。
最近、女子の間では手編みのマフラーを意中の相手に送るのが流行っているらしい。
それを見ながら、女の子は大変だなぁと思っていたけど、どうしてそれを俺に言いに来るのかと目の前の男を見つめた。
「何で?」
思わず聞き返すと小平太は小平太で、不思議そうに首を傾げた。
「だって、私達付き合ってるでしょ?」
「まぁ、間違いじゃないけど…」
確かに付き合っている。
確かにそうだけど、だからと言って俺が小平太に手編みのマフラーを編む理由には成らない気がするのだけど。
呆れたように溜息を吐くと、机に腕を着いて、覗き込んでくる顔を更に不満そうになった。
「良いじゃない、留ちゃん手先起用だから直ぐに出来るようになるって!」
「そうじゃなくて!何で、俺まであの流行に乗らないといけないんだよ」
あの、と視線をクラスの女子へと向ける。
うちのクラスだってその流行は例外ではない。
かしゃかしゃと編み棒を動かす彼女達は、楽しそうに自分の意中の相手のことを話していた。
「それにお前もてるから、マフラーなんて幾らでも貰えるだろ?」
「違うよ!」
だん、と大きな音がして俺も流石に飛び上がった。
音の主は勿論小平太で、その大きめの拳が俺の机を叩いていた。
「私が欲しいのは留ちゃんのマフラーなの。他の奴のマフラーなんて全部断ってるよ」
そんな大きな声がクラス中に響き渡って、流石に俺も顔が紅くなるのが解った。
というか、もう貰ってたのか、と改めて目の前の男がもてることを実感してしまう。
陸上部のエースで、将来も大分有望視されているし、当然と言えば当然だけど。
引く手あまたの彼が貰った物を全部断っているという言葉が、実は今、予想外に嬉しいのも事実だった。
落ち着けよ、と何とか絞り出せば、小平太は拗ねたように座り込んで、顎を机の上に置いた。
唇を尖らせて、ぶつぶつと不満そうにする其の様子に、子供かと言いたくなる。
小さく溜息を吐いて、ちらとまた先ほどの女子の方へと視線を向ければ少々粗い編み目のそれが見えた。
「…そんなに欲しいなら」
「ん?」と声を零しながら小平太が顔を上げた。
「毛糸と編み棒、買ってこい。そしたら編んでやるよ」
そう言うと、急に小平太の顔が明るくなるのが解った。
「解った、今度買ってくるから。絶対編んでよね」
「約束は守る」
そういって目を輝かせながら頷く彼をみて、やっぱり自分は小平太に対してとことん甘いのかも知れないと、ちょっとだけ思ってしまった。
end
こへ食満…です。小平太はお強請りするのも豪快だったり唐突だろうなぁとちょっと思ってたりするのですが。
何か、偽物臭く…。6年生の難しさを思い知らされた気分です。