空っぽのポケット

「お前、手袋はどうした?」
そう怪訝そうな顔で尋ねられて、俺は目の前の男を見やった。
「手袋?」
「あぁ、朝はしてただろ?」
そう言われて、あぁ、と赤くなった自分の手を見つめた。
昼間、中等部の後輩が数人遊んでいて、その中の一人が手袋を中庭の池に落としたのだ。
流石にこの季節、エアコンはまだ着かないし、しかも外は曇りだった。
乾くわけがないと泣きそうになっていたから、貸してやったのを思い出す。
「…あぁ、あれは後輩に貸した」
「何で?」
「…別にお前に話すほどじゃねーんだけど」
説明が面倒くさい、ただ、それだけでそう返事をすると文次郎は不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
何だかんだと独占欲が強いのは知っていたけど、そこまで詮索されては堪った物じゃない。
まぁいい、と言うように彼はきびすを返して何時も通り数歩先を歩む。
別に散歩後ろにという約束をしたわけではないが、歩くときはどちらかが前、どちらかが後ろという距離を保っている。 俺が前の時だって有る。
雪が舞うほどではないけれど、確かに寒い中、文次郎はマフラーのみ、俺はそれにジャケットという格好だ。
本当はこれでも負けるのは悔しいけれど、寒がりだから仕方ない。
ちょっと前に張り合おうとしたら、伊作や仙蔵から馬鹿馬鹿しいと言われて怒られたのだ。(理由は風邪を引きかけたからだ)
数歩歩く彼も寒いのかポケットに手を突っ込んでいる。
俺はそれが余り好きじゃないから、手袋を持ってきているのだけれど。
微かにはぁ、と息を吐いて指先を温めながらちらちらと背中を見ながら歩いた。
駅までの道程を一緒に帰るというのは、つき合い始めてからの習慣だ。
幾度か、はぁと息を吐いて指先を温めていれば微かに文次郎 が肩をわななかせながら此方を振り返った。
「えぇい!聞いてて寒々しい!」
「は?」
思わずそんな間抜けな声を零すと、いきなり片手を掴まれた。
そのまま俺の手は文次郎のポケットの中に収まる。
「…俺はポケットに手を突っ込むのは好きじゃないんだが」
そう言うと、「うるせぇ」と言われて睨まれた。
睨まれて、少しだけむっとするが手先が暖かいのは変わらない。
それに小さく溜息を吐いて「駅に着いたら離せ」と言うと、微かに文次郎が頷いたのが解った。
駅まで、後10分、それまでに汗でもかかなければいいと思う。

end

初文食です。
二人とも偽物ちっくですいませっ…!!
ケンカップルが大好きなのですが、どうにも上手く出来ない。
精進しなければ…(汗)