風邪薬を切らしてた

「あ」
僕の部屋を片づけていた留三郎は気が付いたように声を上げた。
僕の部屋の片づけをするのは大抵彼の役目だ。
理由は一つ。
不運に見舞われて片づけなんて名目だけになるから、だそうだ。
まぁ、否定できないんだけど…あんまりはっきり言われると流石に僕も傷つくんですけどね。
「留さん、どうしたの?何かみっけた?」
炬燵に入って、留さんが入れてくれたココアを飲みながら尋ねる。
「いや、風邪薬がないと思って…」
ほら、と一年中切らすな、と言われている僕の御用達の風邪薬の空き瓶を揺らした。
「え。別に良いじゃない、僕も留さんも風邪引いてないし…」
「予防策って前に言っただろうが。お前大抵、そんな事言ってる間に風邪引くんだから」
「そんなことないよぅ」
「有るんだよ。毎年似たようなこと言って、お前風邪引いて、俺に移して完治するだろうが」
もう嫌だと言いそうな留さんの言葉に、そうだっけ?と僕はココアを啜る。
まだ熱いと感じるのは僕が猫舌だからだろうけど。
「だって、風邪引くと留さん看病に来てくれるじゃないか」
「……お前が死にそうな声で電話するからじゃないか」
「でも、嫌って言いながら来てくれるよね?」
そう言って言い募ると留さんは盛大に溜息を吐きながらコートを手にした。
どっか行くの?と聞くと、薬局と返事が返ってくる。
「風邪薬買いに行く」
「もしかして、怒った?」
ねぇ、と笑いながら続けると留さんは暫し悩んで「いや」と言葉を切った。
「どうせ有ってもなくてもお前は風邪を引くから。俺が移されて、ここで倒れた時に使おうと思って」
それで買いに行く、と言いながら留さんは革靴を履いている。
コートは、あ、もうとっくに着込んでおいでですね。
「…留さん、もしかして、留さんの中で僕が風邪を引くことは前提ですか?」
「むしろ、予定に組み込んである」
そろそろじゃないのか?とにやと久しぶりに見る位の質の悪い笑みを浮かべて留さんは部屋を出て行った。
「…酷いや留さん」
そこまで言ったところで僕は盛大にくしゃみをした。
まさか、と僕は項垂れてしまった。
「…予想的中。流石、留さん…」
はは、と力無く笑うしかなかった。


end

病気からは逃げられない伊作と、それから移されることも込み込みで予定を立てる、あんた何処の奥さんですかと言いたくなるような留さんです。 もう、この留さんは伊作の家に住んでますよね…? いえいえ、伊作が勉強してるときは寮に帰りますよ。 ついでに文次郎の所に遊びに行ったりもしますよ。