2. 36度でやさしく溶かして(竹鉢:現パロ)

「風邪だな」
三郎は寝込んでいる竹谷を見下ろして、手にしていた体温計をテーブルへと放った。
昨日から喉の様子がおかしいと零していた彼の部屋に泊って、次の日に朝には完全にダウンしていたのだ。
朝目を覚まして隣を見れば、「ダルイ…」と唸っている恋人がいるのだから、いつもは寝起きの悪い三郎の頭はすぐに覚醒した。
今日は一緒に買い物とか言っていたが、竹谷がこの状態ではいけるはずもない。
「さぶろ、ごめっ、まさか、風邪、こんな…っ」
とそこまで言って竹谷はまた咳込んでいる。
それを見れば怒る気なんてもうさらさらなかった。
熱は38度もあるし、咳も止まらない、声は鼻声だし、起きるのもままならないのだ。
それを見ながら三郎は溜息さえも吐けなかった。
幾ら自分でもこんな状態で謝ってくる相手にそんな態度はとれなかった。
良いから寝てろと告げて、彼はキッチンへと向かった。
とりあえず薬を飲まさなければいけない。
そのためには、食事を作らなければと三郎は竹谷の部屋の冷蔵庫へと手を伸ばした。
一応、自炊はしているらしくそこそこ材料はあったので、彼はおじやを作ってやることにした。
味は煮干を使ってあっさりしたものに仕上げた。
冷蔵庫に入っていた、韮と卵を中に入れる。
それを盆に乗せて薬と水と一緒に運んでやる。
部屋へと戻れば、竹谷はぼんやりと天井を見つめていた。
「ハチ、飯できたぞ」
そう言って声をかければ赤い顔のまま竹谷は自分の方を見た。
弱った彼などそうそう見たことがなければ、三郎も少しだけうろたえてしまう。
「わりぃ、三郎。ありがとな」
そう素直に礼を言われては悪い気はしないのだが。
ベッドの近くにあったテーブルの上に盆をおいて、椅子を引っ張ってきて、それに座ったままおじやを取り分けてやる。
何とか上体を起こした竹谷にそれを渡してやれば、にこりと何時もの優しい笑顔が浮かんだ。

全部食べ終わって薬を飲ませれば、竹谷の顔色もだいぶん良くなってきていた。
それでも相変わらず熱はあるのか、顔の赤みはとれない。
「とりあえず、今日は一日寝てるしかないな」
「あー…もう、折角三郎とデートだったのに」
はぁ、とあからさまに項垂れる竹谷に三郎は漸くため息をこぼした。
呆れたような、だが何処か安堵した様子も見られる。
とん、と三郎は竹谷の隣へと腰を下ろした。
まだ熱っぽい彼は少々不安げに見えて、なんとなく帰るのがためらわれた。
そっと汗で張り付いた髪を払ってやれば、にかっと嬉しそうな笑い顔を見える。
「…三郎、俺、お願いがあるんだけど」
「あ?」
「あのさ、三郎がいいなら、添い寝、してくんね?」
そう言われて三郎は微かに瞬きをした。
何を、と言いそうになった唇は結局言葉を発さぬままむしろため息を落としてしまう。
ねぇ、ダメと竹谷はほほに添えられた手を取って、それにそっと唇を寄せた。
(こういうときだけ、男前で気障ったらしいとか…んっとに…)
と、不満そうに三郎は唇を尖らせる。
だが、それでもこんな仕草に弱いのも本当だった。
時々、見せるこんな顔がたまらないのだと、ドキドキしている自分の心臓が少しだけ憎らしい。
「…仕方ねぇな」
と、小さくつぶやけば竹谷は嬉しそうににっこりと笑ったのだった。


end

風邪っぴき竹谷と看病する三郎です。竹谷はたまに気障なことして、三郎がそれにドキドキすればいいと思ってます。