3 このヘタクソめ、あとで練習だ
休日の学園は長閑な物で、雲雀が鳴く声が良く聞こえる。
窓を開け放って、久しぶりの小春日を堪能しながら雷蔵が借りてきた本を無断で拝借した。
部屋の中で読んでいるのだから、別に怒られたりはしないだろう。
内容を話さなかったり、栞を何処かにやらない限り大丈夫だ。
ついでに町で買ってきた饅頭を頬張っていれば、廊下を走っている音が聞こえてくる。
あーあ、音が消せてないと身体を起こせば、すぱぁんと音がして部屋の障子が開いた。
「ハチ…お前、もうちょっと静かに…」
「三郎!キスしよう!」
と、唐突に言われて膝に乗せていた本が音を立てて落ちた。
はぁはぁと肩で息をしているハチを見ていれば、私の目の前に正座して座る。
「お前…頭でも打ったのか?」
「違う!ただ、ちょっと…色々…」
あって、と消え入りそうになる声に首を傾げた。
また何か誰かに言われたのだろうかと、勘ぐれば、ハチはじっとこちらの方を見てくる。
「今度は誰に何を言われたんだ?」
兵助か?それとも6年生の誰かか?と続ければ、ハチは「孫兵が…」と呟いた。
「は?孫兵って、3年の伊賀崎孫兵か?」
「あぁ、孫兵がジュンコとのファーストキスの話をしてて」
「…それで?」
「自分とジュンコは出会って1週間後には、ファーストキスを終えたとか言ってたから」
「お前…蛇と私を一緒にするなよ」
確かに私とハチは付き合ってここ1ヶ月、手を繋ぐくらいしかしたことがない。
私ははっきり言ってそれ以上のことは別の奴としたことがあるし、ここまでハチが奥手だとは思ってなかったのもある。
それでも不満はなかったのだが、相手は意外と気にしていたようだ。
「や、やっぱり、普通はそれくらいでするものなのかなぁと…」
普通って言うか、比べる相手を間違っていると言ってるのだけど。
だが、相手はあのハチだ。
人間も動物も、同じくらい大事にしないといけないと思っているなら、同列に並べてしまうのだろう。
はぁー、と溜息を吐いて顔を上げれば、真剣な眼差しで此方を見ている。
「三郎…ダメなのか?」
そう聞かれてしまえば、ダメとは言えないのだけど。
仕方ない、と言うように「良いよ」と返事をすれば、ぱぁと彼の顔が明るくなるのが解った。
そっと肩を掴まれて、私は目を閉じる。
軽く顎を上げて、ハチのキスを待った。
「じゃ、じゃあ、いくぞ」
意気込むのに、はいはい、と小さく呟けばハチは本当に掠めるだけのキスをしてきた。
あー…うん、緊張しすぎ。
「どう、だった?」
と、目を開ければ顔を赤くして聞いてくるハチがいる。
「…まぁ、要練習かな?」
そう悪戯っぽく言うと、そうか、と目の前の男は肩を落としたのだった。
end
まぁ、端から上手には出来ないと言うことで。竹谷は手を出し始めるまでは時間が掛かるけど、その後はトントン拍子に進める子だと思ってます。
後、三郎がキスとか他人としたことがあるのは、そういうお仕事がたまにくるからで。別に遊んでいるわけではないのです。でも、キスまで、それ以上は多分無いと私は思ってます。