新しいコート
「……温かい?」
口元まで赤とモスグリーンのマフラーで覆った三郎に声を掛けると、大きく頷かれた。
俺の高校の門の前で待ち合わせというのに、彼は完全防備で現れたのだ。
モスグリーンのロングコートのに、黒の手袋、それにマフラー。
帽子や耳当てがないのは彼のセンスが許さなかったのかも知れない。
ついでに、この時期になると耳のピアスは全部金属製からプラスティックに変わっている。
初めて会ってから二度目の冬だが、三郎はとにかく寒さに弱かった。
こんな日、まだつき合い始める前の彼ならば呼び出したって間違いなく部屋で寝ころんで過ごしている筈だろうに。
「…帰りに何か温かい物でも食べていく?」
そう言うとやっぱり大きく頷かれた。
こいつの寒がりは本当に筋金入りで、息が白いと解ればそれを見るのが嫌だと言って、自分だけでもと決して口を利かない。
手は手袋をしている癖に、それでもコートのポケットに入っていた。
それにしても、と俺は三郎をじぃっと見つめた。
何か、違和感があるのだ。
何時もとちょっと雰囲気が違う。
暫く見つめていると三郎の方は不機嫌そうに俺の方を睨んできた。
あ、そんなに見てたんだと俺は視線を逸らした。
にしても、この違和感は何だろう、と俺は首を傾げつつもどうしてもその原因が解らなかった。
「あ、ほら、スタバあるぞ。珈琲でも飲むか?」
俺の高校の近くには商店街があって、大抵そこの店で何か食べたりして時間を過ごす。
たまに買って、三郎の家に行くことも有るし、今回はそのコースだ。
甘党でもそうじゃなくてもそこそこに楽しめるコーヒーショップが目に入れば、俺は三郎の腕を(手は頑なにポケットから出そうとしなかった)引いて中に入る。
暖房の効いた店内に入れば、三郎は漸くマフラーを取って息を吐いた。
そして…何故か不機嫌そうに俺を見ている。
寒いからなのかなぁ、とその視線を無視してカウンターに言って、互いのいつものメニューを注文して後ろを振り返った。
三郎はやっぱりいつもの様に、通りに面した席を取っていた。
流石に、コートも脱いで、いつものだぶだぶのカーディガン姿だ。
ホットをお盆に乗せて、三郎の正面に座るとこいつは俺の方を見て、はー…と盛大に溜息を吐いた。
「何で、溜息吐くんだよ…」
流石に意味も分からずに不機嫌をばらまかれれば俺だって、不満の一つも言いたくなった。
そう問い返すと、三郎は俺が持ってきた珈琲を両手で持ちながら「…いや」と一度言葉を切る。
「…なんか、兵助が女にもてなかった理由がわかったなぁって思ってさ」
「え…?」
いや、まぁ確かに三郎が最初の恋人だけどさ。
それまで告白は数えるほどもないけどさ。
「…俺、今日コート変えたんだけどさ。お前、見てくるばっかで全然、気付かねぇのな」
「えっ?!マジで!!」
そう言われれば、確かにコートの色とデザインがちょっと違う気がする。
「同系色で変えて、わかんねぇっつーんならまだ理解してやるのに。お前…ベージュがモスグリーンになったのもわかんねぇとか…。ホント、何処見てんだか」
あーあ…と馬鹿にしたように俺の方を見ながら、三郎は態とらしく溜息を吐いた。
でも、そうかと俺は漸く納得がいった、あの違和感はコートの色だったのか。
あぁ、でもそっか、と俺は目の前の人がどうして機嫌が悪いのか何となくだけど検討が付きそうだった。
何だかんだで、気づいて欲しかったのかなぁ、三郎は。
「…三郎は、やっぱり、気が付いた方が良かったの?」
そう言うと、三郎は一瞬目を見開いて、え、と声を零す。
なぁ、と言い募ると彼はう、と小さく呟きながら視線をテーブルへと落とした。
「だって、三郎ずーっと機嫌悪かったし。最初は寒いからだと思ってたけど。もしかして、俺が気づかなかったから、とかなの?」
「…ちっげぇよ。ただ、お前もこういうの欲しがってた様な気がしたから、自慢してやろうと思ったのに気づかなかったから、面白くなかっただけだよ」
そう言って、三郎は誤魔化すように珈琲を啜る。
うん、まぁ、俺そんな事言った覚えないんだけどね、と言ったら多分もっと顔が赤くなって、困って、かんしゃくとか起こすのかなぁと思うとちょっとだけ楽しくなった。
end
乙女三郎と何か変なところ感が良い久々知です。
久々知さんは小さいところに気が付くけど、大きいところはスルーしちゃう人だと思うのですよ。
本当に典型的な男子高校生。
三郎は久々知に対してのみ乙女で。
口元まで赤とモスグリーンのマフラーで覆った三郎に声を掛けると、大きく頷かれた。
俺の高校の門の前で待ち合わせというのに、彼は完全防備で現れたのだ。
モスグリーンのロングコートのに、黒の手袋、それにマフラー。
帽子や耳当てがないのは彼のセンスが許さなかったのかも知れない。
ついでに、この時期になると耳のピアスは全部金属製からプラスティックに変わっている。
初めて会ってから二度目の冬だが、三郎はとにかく寒さに弱かった。
こんな日、まだつき合い始める前の彼ならば呼び出したって間違いなく部屋で寝ころんで過ごしている筈だろうに。
「…帰りに何か温かい物でも食べていく?」
そう言うとやっぱり大きく頷かれた。
こいつの寒がりは本当に筋金入りで、息が白いと解ればそれを見るのが嫌だと言って、自分だけでもと決して口を利かない。
手は手袋をしている癖に、それでもコートのポケットに入っていた。
それにしても、と俺は三郎をじぃっと見つめた。
何か、違和感があるのだ。
何時もとちょっと雰囲気が違う。
暫く見つめていると三郎の方は不機嫌そうに俺の方を睨んできた。
あ、そんなに見てたんだと俺は視線を逸らした。
にしても、この違和感は何だろう、と俺は首を傾げつつもどうしてもその原因が解らなかった。
「あ、ほら、スタバあるぞ。珈琲でも飲むか?」
俺の高校の近くには商店街があって、大抵そこの店で何か食べたりして時間を過ごす。
たまに買って、三郎の家に行くことも有るし、今回はそのコースだ。
甘党でもそうじゃなくてもそこそこに楽しめるコーヒーショップが目に入れば、俺は三郎の腕を(手は頑なにポケットから出そうとしなかった)引いて中に入る。
暖房の効いた店内に入れば、三郎は漸くマフラーを取って息を吐いた。
そして…何故か不機嫌そうに俺を見ている。
寒いからなのかなぁ、とその視線を無視してカウンターに言って、互いのいつものメニューを注文して後ろを振り返った。
三郎はやっぱりいつもの様に、通りに面した席を取っていた。
流石に、コートも脱いで、いつものだぶだぶのカーディガン姿だ。
ホットをお盆に乗せて、三郎の正面に座るとこいつは俺の方を見て、はー…と盛大に溜息を吐いた。
「何で、溜息吐くんだよ…」
流石に意味も分からずに不機嫌をばらまかれれば俺だって、不満の一つも言いたくなった。
そう問い返すと、三郎は俺が持ってきた珈琲を両手で持ちながら「…いや」と一度言葉を切る。
「…なんか、兵助が女にもてなかった理由がわかったなぁって思ってさ」
「え…?」
いや、まぁ確かに三郎が最初の恋人だけどさ。
それまで告白は数えるほどもないけどさ。
「…俺、今日コート変えたんだけどさ。お前、見てくるばっかで全然、気付かねぇのな」
「えっ?!マジで!!」
そう言われれば、確かにコートの色とデザインがちょっと違う気がする。
「同系色で変えて、わかんねぇっつーんならまだ理解してやるのに。お前…ベージュがモスグリーンになったのもわかんねぇとか…。ホント、何処見てんだか」
あーあ…と馬鹿にしたように俺の方を見ながら、三郎は態とらしく溜息を吐いた。
でも、そうかと俺は漸く納得がいった、あの違和感はコートの色だったのか。
あぁ、でもそっか、と俺は目の前の人がどうして機嫌が悪いのか何となくだけど検討が付きそうだった。
何だかんだで、気づいて欲しかったのかなぁ、三郎は。
「…三郎は、やっぱり、気が付いた方が良かったの?」
そう言うと、三郎は一瞬目を見開いて、え、と声を零す。
なぁ、と言い募ると彼はう、と小さく呟きながら視線をテーブルへと落とした。
「だって、三郎ずーっと機嫌悪かったし。最初は寒いからだと思ってたけど。もしかして、俺が気づかなかったから、とかなの?」
「…ちっげぇよ。ただ、お前もこういうの欲しがってた様な気がしたから、自慢してやろうと思ったのに気づかなかったから、面白くなかっただけだよ」
そう言って、三郎は誤魔化すように珈琲を啜る。
うん、まぁ、俺そんな事言った覚えないんだけどね、と言ったら多分もっと顔が赤くなって、困って、かんしゃくとか起こすのかなぁと思うとちょっとだけ楽しくなった。
end
乙女三郎と何か変なところ感が良い久々知です。
久々知さんは小さいところに気が付くけど、大きいところはスルーしちゃう人だと思うのですよ。
本当に典型的な男子高校生。
三郎は久々知に対してのみ乙女で。