深夜の焼肉、男と二人

「何でお前と二人きりなわけ?」
面と向かってそんなに嫌そうにしなくなって、と兵助もげんなりとした様な顔になってしまった。
今日四人で焼き肉をしようと話をしていたのに、言い出しっぺの竹谷が来られなくなった。
しかも、それに乗って三郎を誘った雷蔵も風邪をひいて倒れてしまったという。
結局、兵助は自分の意中である三郎と二人っきりで焼き肉をすることになったのだが…。
二人きりだと分かった瞬間に三郎は嫌そうに自分の方を見てきたのだった。
「だって、はっちゃんが用事が出来て、雷蔵が風邪で倒れて…」
「なら二人で行っても意味ないだろ。私は帰る」
じゃぁな、と言って踵を返そうとする三郎を見て、兵助は慌てた。
まさか!そんなことと兵助は帰ろうとする三郎の肩を思わずつかんでしまった。
なんだよ、とやっぱりまた嫌そうにするその顔に、えっとだなぁ、とこぼして。
「た、割引券が今日までなんだ!それで、はっちゃんも雷蔵も、二人で食べてこいって言っててだな」
「私は雷蔵が来れないならいる意味ないんだけど…」
兄に会いに来たんだ、とはっきり言われる形になれば兵助も引きさがりそうになるが、ここで帰らせるわけにはいかない。
折角二人きりになれたのに、と兵助はさらに言葉をつづけた。
「でも、ほら、その雷蔵が言ってるんだし、さ」
な、と続ければ三郎は怪訝そうな顔をして、悩むように視線を下げた。
「お前、そんなに肉がくいてぇの?」
「そ、そう!とにかく食べたいんだ!」
と、返事をすれば仕方がないというように三郎がため息をついた。
「解ったよ、だからんな必死な顔すんなよ」
怖いし、と続けられてようやく兵助の顔も明るくなる。
良かったというようにため息をついて肩から手を離せば、三郎が率先して焼肉屋へと足を進めていた。

もともと少食で、脂っこいものが苦手なせいか、三郎はすぐに箸を休めてしまった。
兵助は兵助でそこのメニューに冷ややっこがあったことをいいことに、延々とそればかり食べるものだから、炭火焼の網の上はすっかり何もない状態だ。
「お前、肉が食いたかったんじゃなかったのかよ?」
「大豆は畑の牛肉っていうし…」
駄目か?と続ければ、知るかと短く返されてしまった。
ため息をつきながら、三郎は割り箸を炭火の中に突っ込んで遊んでいる。
そんなに退屈なのか、と兵助は最後の冷奴を食べ終わって、軽く手を合わせた。
それを見れば、三郎がジャケットから煙草を取り出している。
「お前、高校生の癖に…」
兵助が眉根を寄せて呟いてもわれ関せずで、メニューのデザート欄を見ている。
「…デザート食べるの?」
「これは別腹」
と短く言われれば、ふぅんと兵助もそれ以上は何も言う気が起きなかった。
ふ、と口元からこぼれる煙は備え付けの換気口へと吸い込まれていった。
こういうとき、こんな個室の店はいいと思う。
店員を呼んで頼んだのはチョコアイスと杏仁豆腐だ。
豆腐…と、三郎が小さくつぶやいてそれを頼んだ兵助を見つめる。
「お前、どこまで豆腐食べるんだよ…」
「良いじゃないか、美味しいんだから」
そう憮然として返事をすると、「変なの」と言って、幽かに口角が上がった気がした。
あ、笑った、と兵助はその口元に視線をやってしまう。
なんか、すごく得した気分だと、二人きりにしてもらってよかったと思いつつ、明日には礼の意味も込めて雷蔵のところに見舞いを竹谷とともに持って行こうと決めたのだった。

end

後書き

焼肉屋の久々知と三郎です。まだ付き合う前なので、三郎はツンツンです。ってか、どんだけこいつは雷蔵が好きなのかと(笑)