ライフライン
伊作が何故か手相の本を図書館から借りてきた。
今度の実習でどうやら易者の変装をするらしい。
だから、詳しくなくても良い、それっぽい知識を付けなければという事らしかった。
何とも、殊勝なんだか、阿呆なんだか解らない。
衝立の向こうでは、灯りの下で黙々と本を読んでいるのだろう。
それは壁に映し出された彼奴の影が如実に語っていた。
「お前、好い加減寝ろよ。明日も、授業があるのに……」
「……うん、知ってる」
ぺらり、と生返事と供にまた紙が捲れる音が響く。
おい、ともう一度声を掛けようとして向こうを覗き込むと、ふと顔を上げた伊作がこちらを見ていた。
思わず声を途切れさせると、伊作の唇がゆっくりと動いた。
「ねぇ、留さん、手相を見せてよ」
「何で…?」
「いや、実践してみないとなって思ってさ」
「…嘘吐け。やってみたくなっただけだろが」
そういうと、伊作は小さくまぁねと笑った。
溜息を吐きながら、衝立の向こうに向かって手を出す。
暗い、という呟きが聞こえたけれど、それは全部無視してほらと促した。
伊作はそっと私の手を取って、そこに刻まれる皺にそっと指を這わせる。
なぞるような動きに合わせて、伊作の唇が動く。
「あぁ、それでこれが生命線だね」
そう言って、つつとその指が私の手の上を滑った。
やたらに丁寧にそれをなぞるから、くすぐったいと肩をすくめて見せれば、伊作は何かを言いたげに口をへの字に曲げた。
「留さんの生命線、僕のより短いんだね」
そう言って、ふと小さく息をついた。
は?と眉根を寄せて、首をかしげれば「そのままだよ」と私の手をきゅっと握ってきた。
「生命線って長くならないのかなぁ?」
「伊作?」
名前を呼べば、落とされた視線がかすかに上がった。
「手相なんて信じてないけど…でも、やっぱり凹むよ、留さん」
「凹むってお前な…」
そう呆れたようにため息をつくと、伊作は自分の手を私の方に見せてきた。
「ほら、見てこれ。僕の生命線」
「それが?」
聞き返すと、うん、と伊作は今度は私の手をみやる。
「僕の方が長いんだよ、留さんよりも」
真剣な目でそんな事をいう伊作に流石の私も目を見開いてしまった。
手相なんて、迷信にもほどがあると言いそうになったけれどその眼を見てしまえば言葉なんて止まってしまった。
ゆらりとろうそくの灯が揺れて、手に影が出来る。
「みんなみんな、僕よりも生命線が短いんだ。解ってるんだ、手相なんて、迷信だって。でも、君まで、僕よりも…短いなんて…」
嫌だ、と小さく小さく彼はつづけた。
その肩がやけに小さくて、私は少しだけ困ったように眼を細める。
何だってこの男はそんな事を気にするというのだろう。
運命なんて、これによらなくても自分で何とかすればいいのだと。
少なくとも私はそう思っているというのに。
「…不思議だね、これだけなのに。今、僕はみんなに置いて行かれた気分になるんだ」
おかしいだろう?と、伊作が自嘲しながら言うから、私はそっとその手を握った。
何と言葉をかければいいかなど解りはしなかった。
今の言葉は全部陳腐に聞こえてしまうのだろう。
だから、私はぎゅとその手を握って、もう片方の手で伊作の頭をなでた。
「私は…今、ここにいるから」
だから、泣くなよとは続けなかったが。
それでも、伊作は少しだけ驚いた顔をして、それからにっこりと嬉しそうに笑うのだ。
end
伊…食満?(え)
心なしか食満伊に見えなくもないのですが、いいえ、私は伊食満と言い張ります!(オイ)…すいません、リバっぽいですよね。ってか、うちの伊作は何でこんなに鬱キャラなんだろうか。
今度の実習でどうやら易者の変装をするらしい。
だから、詳しくなくても良い、それっぽい知識を付けなければという事らしかった。
何とも、殊勝なんだか、阿呆なんだか解らない。
衝立の向こうでは、灯りの下で黙々と本を読んでいるのだろう。
それは壁に映し出された彼奴の影が如実に語っていた。
「お前、好い加減寝ろよ。明日も、授業があるのに……」
「……うん、知ってる」
ぺらり、と生返事と供にまた紙が捲れる音が響く。
おい、ともう一度声を掛けようとして向こうを覗き込むと、ふと顔を上げた伊作がこちらを見ていた。
思わず声を途切れさせると、伊作の唇がゆっくりと動いた。
「ねぇ、留さん、手相を見せてよ」
「何で…?」
「いや、実践してみないとなって思ってさ」
「…嘘吐け。やってみたくなっただけだろが」
そういうと、伊作は小さくまぁねと笑った。
溜息を吐きながら、衝立の向こうに向かって手を出す。
暗い、という呟きが聞こえたけれど、それは全部無視してほらと促した。
伊作はそっと私の手を取って、そこに刻まれる皺にそっと指を這わせる。
なぞるような動きに合わせて、伊作の唇が動く。
「あぁ、それでこれが生命線だね」
そう言って、つつとその指が私の手の上を滑った。
やたらに丁寧にそれをなぞるから、くすぐったいと肩をすくめて見せれば、伊作は何かを言いたげに口をへの字に曲げた。
「留さんの生命線、僕のより短いんだね」
そう言って、ふと小さく息をついた。
は?と眉根を寄せて、首をかしげれば「そのままだよ」と私の手をきゅっと握ってきた。
「生命線って長くならないのかなぁ?」
「伊作?」
名前を呼べば、落とされた視線がかすかに上がった。
「手相なんて信じてないけど…でも、やっぱり凹むよ、留さん」
「凹むってお前な…」
そう呆れたようにため息をつくと、伊作は自分の手を私の方に見せてきた。
「ほら、見てこれ。僕の生命線」
「それが?」
聞き返すと、うん、と伊作は今度は私の手をみやる。
「僕の方が長いんだよ、留さんよりも」
真剣な目でそんな事をいう伊作に流石の私も目を見開いてしまった。
手相なんて、迷信にもほどがあると言いそうになったけれどその眼を見てしまえば言葉なんて止まってしまった。
ゆらりとろうそくの灯が揺れて、手に影が出来る。
「みんなみんな、僕よりも生命線が短いんだ。解ってるんだ、手相なんて、迷信だって。でも、君まで、僕よりも…短いなんて…」
嫌だ、と小さく小さく彼はつづけた。
その肩がやけに小さくて、私は少しだけ困ったように眼を細める。
何だってこの男はそんな事を気にするというのだろう。
運命なんて、これによらなくても自分で何とかすればいいのだと。
少なくとも私はそう思っているというのに。
「…不思議だね、これだけなのに。今、僕はみんなに置いて行かれた気分になるんだ」
おかしいだろう?と、伊作が自嘲しながら言うから、私はそっとその手を握った。
何と言葉をかければいいかなど解りはしなかった。
今の言葉は全部陳腐に聞こえてしまうのだろう。
だから、私はぎゅとその手を握って、もう片方の手で伊作の頭をなでた。
「私は…今、ここにいるから」
だから、泣くなよとは続けなかったが。
それでも、伊作は少しだけ驚いた顔をして、それからにっこりと嬉しそうに笑うのだ。
end
伊…食満?(え)
心なしか食満伊に見えなくもないのですが、いいえ、私は伊食満と言い張ります!(オイ)…すいません、リバっぽいですよね。ってか、うちの伊作は何でこんなに鬱キャラなんだろうか。