年中さん、プロポーズ事情

「さぶろー、大きくなったらわたしとけっこんしてくれる?」
砂場で兵助と遊んでいるときに、そう言われて三郎君はきょとんとしてしまいました。
しゃがみ込んで砂を掘っているときに言われたのです。
こういうお洋服を着ているときに、砂遊びはしてはダメと云われていましたが三郎君はその言いつけを破ることにしていました。
お母さんへのささやかな復讐だったのです。
隣のブランコでは八左ヱ門君と雷蔵君がどっちがいっぱいこげるかの競争をしていました。
がやがやと子供たちの声が響く一角で行われたプロポーズに三郎君はどうしたものかと首をかしげてしまいました。
別に兵助君のことは嫌いではありません、むしろ大好きです。
しかし、と三郎君は隣でブランコで遊んでいる二人を見てしまいました。
特に雷蔵君をじっと見てしまいました。
何故なら、ちょっと前に三郎君は雷蔵君から同じようにプロポーズされて返事をしていたのでした。
そして、隣の八左ヱ門君からもプロポーズされて、返事を待ってもらっていたのです。
こちらは今思い出したことだったりするのですが。
さぁ、どうしようと三郎君は困ってしまいました。
まさか兵助君からも言われるとは思っていなかったのです。
兵助君はじっと三郎君を見つめていました。
今日も可愛いなぁと思っていました。
「そうだ!」
と、三郎君は何かを思いついたように兵助君を振り返りました。
良いこと思いついた、と言いたげなそれに兵助君は首をかしげました。
「らいぞーとハチにプロポーズして、良いよっていわれたら約束してあげる」
そう言って兵助君ににっこり笑ったのです。
兵助君はぱちぱちと瞬きをしてから、ブランコをこいでいる二人を見ました。
二人はきゃぁきゃぁ言いながら遊んでいるのです。
(でも、みんなとけっこんしたら、ずっといっしょにいられるんだよなぁ)
と、昨日お母さんから聞いた言葉を思い出していました。
「わかった、わたし、はっちゃんとらいぞーにもプロポーズしてくる」
そう言って兵助君はブランコの方へと駆け出しました。
それを見ながら、三郎君は「がんばってねー」と手を振りました。
きっと八左ヱ門君も雷蔵君もいいよと言ってくれるだろうと、予想しながら三郎君は残りの砂のお城を作ってしまおうと、また砂を集め始めたのです。

兵助君はとことこと走って、ブランコのところまで行きました。
ブランコはかなりの勢いで前後に揺れていたので、近くを通りかかった年少組の担任の中在家先生は少しだけ心配そうに兵助君を見ています。
でも中在家先生は表情が変わらないので、良くわからないのですが。
「らいぞー、はっちゃぁん!」
大きな声で呼べば、ブランコをこいでいた二人はブランコをゆっくりと止めてくれました。
これで大丈夫と中在家先生は建物の奥へとはいって行きました。
「へーすけ、どうしたの?」
ブランコから降りながら雷蔵君が兵助君に尋ねました。
隣で八左ヱ門君も首をかしげています。
「さぶろーは?すなばで、あそんでたよね?」
そう尋ねると兵助君はうん、と一度だけ砂場の方を見ました。
そこではバケツをひっくり返して、砂の土台を作っている三郎君がいます。
「うん、あそんでた。でもね、それよりも大事なことができたんだ」
と兵助君は二人を真剣に見つめました。
その様子に、雷蔵君も八左ヱ門君も少し驚いてしまいます。
それをもろともせずに、兵助君はすぅと軽く息を吸い込みました。
「らいぞー、はっちゃん、大きくなったらわたしとけっこんしてください」
大きく張り上げた声は校庭中に響きました。
たまたま近くで子供たちと遊んでいた潮江先生の動きが完全に止まって、一緒に遊んでいた小平太君の蹴りが脛に決まってしまい、先生はその場に蹲りました。
騒然とした周りを余所に、雷蔵君と八左ヱ門君はきょとんとしてしまいました。
二人は二人で、三郎君はどうしようと思っているのです。
兵助君は迷っている二人を見ながら、三郎君の方を一度だけ振り返りました。
「あのね、さぶろーにね、さっきプロポーズしたの。それでね、らいぞーとハチにもプロポーズして、いいよって言われたらけっこんしてくれるって言ったんだ」
だからなのと続けると雷蔵君と八左ヱ門君はなるほどと納得しました。
「じゃあ、ぼくはへいすけともけっこんする。ハチは?」
「おれもする!っていうからいぞーともけっこんして、さぶろーともけっこんして、へいすけともけっこんしたら、4人でずーっといっしょにいられるよな」
そう言ってにかっと笑う八左ヱ門君を見て、そっか、と雷蔵君も兵助君も笑顔になりました。
「わかった、じゃあぼくもハチともけっこんする。そうしたら、みんなとずっといっしょだね」
そう言って雷蔵君も笑ってくれました。
それを見て、兵助君も頷きます。
「じゃあ、さぶろーにそれを言いに行こう」
そう言って三人は砂場にいる三郎君のところに走って行きました。

その日の夕方みんながお家に帰ったころ、担任の食満先生は頭を抱えていました。
あのあと、年中組では「しょうらいのゆめ」という題名で絵を描かせたのです。
先生の手元にはあの4人の描いた絵があります。
そんな食満先生を見ながら栄養士の善法寺先生も苦笑いをしていました。
「なぁ、伊作…俺はこれをどう教えたらいいと思う?」
そう言って、絵を差し出されても善法寺先生は笑うしかできませんでした。
そこには4人で手をつないでいる年中組の仲良しさんたちがいます。 上には「4人でけっこん」と書いてありました。
「男同士で結婚は出来ないとか、重婚なんて無理とか…どう教えれば…」
そう言って、机に突っ伏してしまった食満先生を見ながら善法寺先生は「そのうち、自分で理解するよ」としか言えませんでした。