First contact

出会い

竹谷の合格した学校は近年まれにみる進学校だった。
自分でもどうしてこの学校に合格できたのか、不思議なくらいだったが、それでも合格通知が来た時は家族そろって大喜びし、その日の夕飯は彼の希望により焼き肉の食べ放題になったほどだった。
実家が獣医と言う事もあってか、それを志すと決めた時に一番最初に相談したのは両親だった。
二人曰く、きちんと大学に進学するべきで、そうしたいのならば高校から頑張るべきだと言われたのだ。
その話をされた後、竹谷は勉強した。
元より部活もやっていなかったのだが、流石にこのままでは拙いと思ったのだ。
家に帰ってからは直ぐに勉強した。
塾になど通う気になれなかった彼は、ひたすらに家で勉強をしたのだった。
途中、友人の雷蔵に教えてもらったりはしたのだが…。
「え、同じ高校だったの?」
入学式―から数日経った時、雷蔵と学校の廊下で再開した時の竹谷の言葉である。
どれだけ自分以外に興味がなかった―というよりも自分で手いっぱいだったかが解る。
勿論、これには雷蔵も盛大に笑っていたのだが。
「ホント、ハチは周りが見えなくなるよねぇ。何かに夢中になると」
心なしか棘があるように聞こえたが、敢えて気にしないようにした。
そんな高校生活の始まりを過ぎ、そしていよいよ授業も始まるとなったのだった。
最初に数日間は親睦を深める意味でオリエンテーションばかりで、竹谷は何となく気が抜けてしまっていた。
高校って、中学と大差ないのかとちょっとがっかりしていたのだ。
「そう言えば、理科の科目って選択なんだって。竹谷は何とったの?」
同じクラスになって友達になった尾浜に聞かれて、竹谷は「あぁ、俺、生物と化学。大学のためにな」と返事をする。
「あ、俺も一緒。今の内に履修した方が受験の幅が広がるって聞いてさ」
「そうなの?」
それは知らんかった、と言いながら竹谷は席を立つ。
生物と物理、化学と地学が同じ時間に組まれて、そのたびに教室を移動するのだ。
生物の教科書を持って二人は授業の行われる生物室へと足を向けた。
中に入れば、教卓のプリントをとるようにと書かれていた。
それを手にして、尾浜と竹谷は開いている席を探す。
何処か、と二人で視線をめぐらせれば丁度窓際の真ん中あたりの席が開いている。
あそこで良いじゃないかと二人して、そこに座った。
ぽかぽかと春の日が心地よいそこで、竹谷はうつらと瞼を落としそうになっていた。
教師ともう一つのクラスの都合で授業は少しばかり遅れることになっていた。
ゆっくりと降りて行く瞼を、その重力に任せてしまっても良いだろうかと思っている時、竹谷の耳にその声は飛び込んできた。
「隣、空いてる?」
そう、女の子の声が降ってきて、竹谷は漸く現実に引き戻された。
返事しなきゃ、とその声の方を振り返って竹谷はぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
目の前にいたのは、まちがいなく女の子だった。
ふわふわの茶色の髪を一つにまとめて、切れ長の少しだけ冷めたような眼、すっきりとした鼻筋、全体的に流れる清涼感のある雰囲気。
はっとした、今までこんな子に出会った事があっただろうかと、竹谷の時間が止まった。
「あの、ここ誰か座ってる?」
彼女は心配そうに竹谷の方を見ている。
「え、いいえ!誰も座ってないです!どうぞ、座って!俺の隣で良ければ!」
「あ、うん、ありがと」
そう言いながら彼女は竹谷の隣に座る。
それだけでも竹谷の胸の高鳴りは止まらなかった。
ドキドキと、自分の心臓の音が聞こえてくる。
「あ、あのさ。もしかして、特進の人?」
「あぁ、うん。前の先生が、最初なのに張り切ってさ。ぎりぎりまで授業しちゃって…。生物の先生にも、推薦クラスの人にも迷惑かけたみたい」
「でも、授業短くなってみんな喜んでるみたいだけどな」
「授業好きなんて、滅多にいないもんね」
そう言ってくすくす笑う彼女は可愛いと、胸の奥が温かくなる。
(あ、今なんか俺、舞い上がってる)
と、自身でもそんな自覚があった。
「そういや、名前教えてもらっていい?せっかく知りあったんだしさ」
「良いよ。私、鉢屋三郎っていうんだ。そっちは?」
「俺は、竹谷八左ヱ門」
「八左ヱ門って…名前長いな」
「あ、でも、こいつの方が長いぜ。尾浜勘右衛門ってーの」
そう言って、自分の隣に座っている尾浜を指す、尾浜「え?俺?」と不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「どっちも大差ないって」
そう言ってまた笑う彼女に竹谷はまた舞い上がってしまった。
(あぁ、やっぱり高校って良いかも)
と、そんな感想まで持ってしまったのだった。

後書き