所変わって竹谷と兵助と雷蔵は、商店街の一角の喫茶店で顔を付き合わせていた。
雷蔵と竹谷は頭を抱えているし、兵助は呆れたように窓の外を見ていた。
「…何で俺ん所に来ないんだよ、三郎〜〜、雷蔵にそんなこと頼むとかひでぇよー」
と、言いながら頼んだパフェのアイスを掻き込む竹谷と、その正面でアイスコーヒーを一気に飲み干して、肩で息をしているのが雷蔵だった。
「…今回ばっかりはハチに非はないけど。どうして、こう突拍子もないことを僕に言ってくるんだろう、三郎は」
その日の昼、兵助にメールを送る前に雷蔵は三郎と会っていた。
昼ごはんを一緒に食べようと約束していたのだが、何時もの屋上の一角で彼女を待っていれば、出会い頭に「雷蔵!胸を大きくするにはどうしたらいいんだ?!」と聞かれて、流石に彼も呆然としてしまった。
その後は延々とどうしてどうしてという言葉を繰り返され、慰めていれば「私の胸を揉んで大きくしてくれ!」と、半泣きで言われてしまったのだ。
幾ら従兄弟同士でも男と女、頼むべきこととそうではないことがあるだろうと、雷蔵は昼休みいっぱいを使って彼女を説き伏せたのだった。
よくよく話を聞いてみればハチの好みのタイプが巨乳だと聞いてそうなったと白状したのだ。
本人から聞いたのかといえば首を横に振るし、まだ興奮が残っているのか支離滅裂で解らない。
仕方がないので、こうして男三人が集まることになったのだ。
「まぁ、三郎のことはおいといて。ハチ、三郎がそんなこと言ってたんだけど心当たりあるの?」
じろと雷蔵から睨まれて、竹谷はことんとパフェのグラスをテーブルへと置いた。
すでに空になっているのを見て、店員が「おさげしまーす」とそれを持って行く。
「特には思い当たらないんだけどなぁ。クラスの奴とそんな話になったこととかないしさ。第一、俺と三郎が付き合ってるのは有名だし」
「そうだね、はっちゃんが言い触らしたもんね」
てへ、と言いながらおどけてみせる竹谷を「それは別にいいから」と雷蔵が遮って、話を元に戻した。
「でも、本当に知らないって。巨乳好きとか…男なら女の子の胸に夢や希望を抱いたって良いじゃないか」
神秘の世界じゃないか、と続ければ兵助と雷蔵が顔を見合せてため息をつく。
(ハチ、何であんなに凹んでるの?)
と、竹谷に聞こえない声で雷蔵が兵助へと言葉を向ける。
言うべきかどうか、しばし悩んでから兵助はまぁいいかとあっさり友を売ることに決めた。
こういうとき彼の判断は早いのだ。
(や、三郎とエッチ出来ないって昼からずーっと喚いてたんだよ)
(は?)
そう問い返した、雷蔵の眉間に明らかに皺が寄るのが分かった。
普段は温和な彼からの雷(今月分)が竹谷に降り注ぐだろうかと、兵助はちらと正面でうなだれている友人へと視線を向ける。
それでも昼休みをまるまる潰されたことを考えれば、まぁ丁度いいだろうと自分に言い聞かせた。
罪悪感が無いわけではないというのが、兵助の人の好さを表している。
(馬鹿じゃないの?ハチ…やりたいなら、さっさとやればいいのに)
その言葉に、兵助は口にしていたお冷を盛大に吹きそうになった。
げほげほと噎せ始める友人に流石に竹谷も体を起こして「大丈夫か?!」と声を上げた。
それに、「いや、大丈夫」と取り繕いながら、雷蔵を見やった。
爽やかな顔してなんてことを言うんだと、驚きを隠せないのだ。
「まぁ、話を戻すけどね。ハチ、本当に心当たりない?そんな疑惑を持たれるようなこと言ったりしたとかないの?」
そう言われて竹谷はう〜ん、と首をかしげた。
実際、そんな疑惑を持たれるような真似をした記憶は自分にはほとんどないのだ。
あれだけ言いふらして、好きだ好きだと連呼しているのだから。
だが、ふとクラスメートとの会話が頭に引っかかった。
「あ」
と、小さくこぼした声に、雷蔵と兵助の視線が集まった。
「もしかして、あん時か?でも、あれ、そんなつもりで言ったわけじゃないし…」
「心当たり…見つかったの?」
そう問いかけられれば、竹谷はあーっと、声を上げながらテーブルに突っ伏した。
何だと二人して更に身を乗り出せば、しまったと言うような顔をしながら彼が顔を上げる。
「…何か、前にさ。クラスでエロ本読んでる馬鹿がいたんだよ」
「良く先生にばれなかったね…」
「いや、その後見つかって没収されてたんだけどさ」
それが?と言うように二人が首をかしげれば、んと竹谷はうなずいた。
「見てる時にたまたま隣で別の雑誌読んでたんだよね。三郎と出かける約束してたから、何処がいいかなぁって思ってさ」
「…デートの下準備なんて、大人になったなはっちゃん」
前は場所セレクトで怒られてたのに、と返せば竹谷は「置いといて」と話を脱線させないようにときっぱりと言った。
はいはい、と兵助が返事をすれば、でな、と竹谷も言葉を続ける。
「…そん時に、お前どれが好みー?って話振られてさ。俺としてはそんなのどうでも良いわけでさ。ってか、うるせぇって思って生返事してたんだよ」
あ、落ちが見えたと思ったのはどちらだっただろう。
そんなマンガみたいなことがあるなんて、流石竹谷とある意味関心すらしてしまう。
「もしかして、巨乳のページ見せられてるのに気付かなくて、適当に返事したらとか、そんなベタな話じゃないよね?」
そう雷蔵に問われて、竹谷はぐと言葉を詰まらせた。
つい、と逸らされる視線にあぁ、やっぱりとむしろ兵助と雷蔵が遠い眼をしたくなったくらいだった。
「ごめん、たぶん、それ…」
その返答に二人ははーっと盛大なため息をついて竹谷を見つめた。
からん、とグラスの中で転がった氷の音がやけに間抜けに響いたのだった。
毎朝一緒に登校というのが竹谷と三郎の日課である。
と言っても、三郎は電車通学なので駅で待ち合わせていくのだが。
その日は二人ともどうにも気が重かった。
三郎は三郎で、昨日聞いてしまった竹谷の好みのタイプのことで頭を悩ませていたし、竹谷も同じで三郎が変な誤解をしていることがわかって、それをどうやって解こうかと必死だったのである。
考えに考えたが結局互いに解決策は思い浮かばなかった。
三郎は電車の中でも自分の胸を見つめてはため息を吐くという具合だったのである。
三郎はクラス委員であるため人よりも登校時間が早い、ついで竹谷も生物部の関係で同じくらいに行かなければいけないので時間としてはちょうどいいのだ。
あまり人のいない改札口を出ればそこには何時もどおり、掲示板の前で待っている竹谷の姿がある。
三郎は手にしているバッグの紐をぎゅうと握った。
昨日から考えていたせいか、自分と彼が付き合っているのは惰性なんじゃないかとか、何時か飽きられるのではないかと変な事ばかりで頭がいっぱいだったのだ。
逃げ出したいと思っても、目の前にいる彼は何時もどおりの笑みでこちらに手を振ってくれた。
ブレザーのネクタイは何時もどおり引っかけるくらいにしか結んでいない。
それを見れば、三郎はつかつかと歩いて行って「おはよう」と挨拶を向けた。
「ハチ、ネクタイ」
と、短く言えば竹谷はしまったと言うように破願する。
「何回言えば分かるんだよ、おまえは」
呆れたように呟きながらネクタイを結ぼうとすると竹谷は「だってー」と拗ねたような声を上げた。
「ちゃんと結ぶと息苦しいんだよ。何か首輪付けられてるみたいで窮屈でさ」
「でも、規則は規則だろ?」
ちゃんとしろ、と言いながら少しきつめに結べば「ごめんって」と首を擦りながら謝られた。
でも、どうせ明日にはまた同じことを繰り返すのだ。
この行動は毎朝恒例といっても過言ではない。
よし、と三郎が小さくつぶやけば歩きだす合図だ。
それを聞けば、竹谷はそっと三郎の手を取ってくれる。
何時もどおり、痛くないように優しくされるのに嬉しくて、さっきまで考えていたことのせいか何だか泣きそうになってしまったのだ。
うると、三郎の眼が潤むのを見て、ぎょっとしたのは勿論竹谷だった。
何か不自然な点でもあっただろうか、自分の考えていることが三郎にばれてしまったのかとあたふたしてしまう。
「さ、三郎?どうかしたのか?…手、繋ぐの嫌だった?あ、それかもしかして強く握りすぎたとか?」
なぁ、と言われればかけられる言葉のせいか、よけいに我慢がきかなくなってしまう。
「な、何でもない…!目に、ゴミが入ったせい、だから」
気にするなと言おうとしても、そこまでは声が出なかった。
口を開いたせいもあるのか、涙はぼろぼろと目からあふれてしまうのだ。
あぁ、朝っぱらから嫌なことをしてしまったと三郎はそれで余計に悲しくなる。
こうやって泣く女は嫌いだと前に、誰かが言っていたし自分でもそう思う。
でも、どうしても竹谷のことになると涙脆くなってしまうのっだ。
自分でもコントロールできない涙を必死に手でぬぐっていれば、竹谷はもう、とか言いながら手を引いて人の少ない木の下にあるベンチへと連れて行ってくれる。
ひくひくとしゃくり上げる様子を見れば、竹谷の方は要らぬことを彼女に吹き込んだクラスメートを殴り倒したい気分だった。
向こうは無自覚でもこちらを引っかきまわしてくれたのだ、どうにも腹が立って仕方がない。
ベンチまでくれば三郎を座らせて、竹谷はハンカチを渡す。
それを「…ありがとう」と言って三郎は受取って、漸く涙を拭き始めたのだ。
「…三郎、落ち着いた?」
「ん、ごめん。急に泣いたりして…」
それに「びっくりしたんだかな」と言いながら頭を撫でてくれる。
それに目を細めながら、どうしてこんなに優しい彼が自分みたいな魅力のない女と付き合っているのかと、完全にネガティブな思考に入っている三郎は考えてしまうのだ。
「…なぁ、三郎、お前、何か変なこと聞いただろ?」
そう切り出されて、三郎は視線を下に下げた。
あぁ、従兄弟の方からとすぐに察して「雷蔵から聞いたの?」と問えば竹谷もすぐにうなずいた。
昨日の今日だけど、と言われて自分が先に帰ったからかとため息をついてしまった。
「……んで、三郎お前、たぶん誤解してるから」
「誤解?」
そう首をかしげて問い返せば、竹谷はやけに真剣な顔でうなずいてくる。
事と次第を分かったのならば特に自分から言うことはない。
後は話を聞こうと、三郎はじっとその顔を見つめた。
「…お、俺は、別に巨乳が好きなんじゃなくてだな。だから、好みとか、ぶっちゃけ、もうどうでも良いくらい、お前が、好きなんだ!…けど」
「ハチ?」
「だ、だから!俺が好きなのは、お前なの!胸が大きいとか小さいとか、そんなのどうでも良いっつてんだよ」
最後はもう勢いとしか言いようがないくらいに言われて、三郎の方がぽかんとしてしまった。
手に持っている竹谷のハンカチを握りしめていた三郎の顔がかあぁと赤くなってしまった。
それを見て、竹谷も釣られるように赤面してしまった。
「で、でも…その、あれだ。ハチは何時まで経っても、キスまでしか、してくれなくて。それで、…私、私の体に魅力がないからって、思って…」
それで悩んだと、しどろもどろに告白すると竹谷の顔の赤みがさらに増した。
うわぁああ、と声に出してしまいそうなのを懸命に抑えながら「そ、それは」と言葉を絞り出す。
「だって、その、…俺だって三郎が、嫌がったらどうしようとか、拒否されたらどうしようとか、いろいろ、考えて…」
その、ともう一度続ければ三郎が顔を伏せてしまう。
こちらはこちらで、自分の考えていたことは杞憂だったと分かったことと、そこまで考えていてくれたのだと色々と入り混じって顔があげられないのだ。
竹谷も竹谷で、感極まると感じなのだ。
嫌がられたりはしていないと、嬉しくて天にも昇りそうだった。
「だ、だから三郎、お前が心配するようなこととか、全然、ないんだ…け、ど?」
そこまで言葉を続ければ、ぎゅうと手を握られるのが分かった。
どうした?と顔を覗き込めば、彼女の口元が動くのがわかる。
「きょ、今日の夕方、お前の家に、行っても、良い?」
それがはっきり聞き取れて、竹谷は嬉しくてそのまま倒れてしまいそうになった。
誰が断るものか、と「あ、当たり前だろ!」と言いながらうなずけば、三郎の顔が更に赤くなって更に俯いてしまった。
時計は、既に登校予定時刻よりも30分ほど進んでいたのだった。
後書き
ってことで、竹鉢が何とか、お互いの誤解を解きました。それにしても、朝からする話題ではないですよね、これ。でも、高校生はこれくらいおバカなのが好きだったりします。ってか、私の理想なのですが。
ってか、この続きはやっぱりエロになったりするのだろうか?(汗)書けるかとんとわかりません、いやほんと。読みたいという方がいらしてくれれば、書くのですが…どう、でしょう?