幼い頃、三郎の両親は共働きでよく雷蔵の家に預けられていた。今でこそ、責任感も強く精神的にも大分強くは成ってきたが、三郎は基本的に気の弱い子だった。小学校の頃はよく苛められて、雷蔵がそれを蹴散らしたりしていたのだが。
中学に上がって、雷蔵は少なからずショックを受けた。そう、三郎と学校が離れてしまったのだ。学区の違いは仕方がないと思っていたのだが、三郎は私立の女子校へと進学した。一言も聞いてないと抗議すれば、彼女の親が「え?言わなきゃだめだったの?」と返してきたのだった。どうやら受験自体親の希望だったし、通うことを決めたのも親だったらしい。三郎は雷蔵に涙目で「ごめんね、雷蔵」と謝って来たものだから、それ以上はなにも言えなかった。
そんなわけで、高校受験だけは誰にも邪魔させないと、入念に計画を練って、二人は晴れて同じ高校に行くことが出来たのだった。
「それが、ねぇ、何で、ハチなんかに盗られなきゃいけないんだか」
そう言って雷蔵はため息をつきながら、目の前に座っている兵助と勘右衛門へと視線を向けた。二人が付き合い始めてから、お互いの友人たちには仲良くしていて欲しいと言う二人のお願いの結果、今では三人はこうやってファミレスで溜まるくらいには仲良くなっている。追加で頼んだパフェを、店員が少しばかり迷惑そうに置いて行くのを横目で見つつ、雷蔵はそれをスプーンですくって食べた。甘い、ラズベリーの味が口に広がっていく。
正面に座る勘右衛門と兵助は、どうにも居心地が悪いとばかりにストローを齧っている。協力したつもりはないのだけれど、兵助も勘右衛門もやはり雷蔵に対しては何処か申し訳ない気持が強かった。勘右衛門は八左ヱ門の恋を遠巻きながらに後押ししたと思っている。兵助は兵助で、三郎が幸せならそれでいいか、と彼女が八左ヱ門に近づくのを止めたりもしなかった。その結果、雷蔵は大事な従姉妹を盗られたとたびたび管を巻くようになったのだった。
「僕が小さい頃から守ってきたのに…。やっぱり僕も理転すればよかったのかな…」
「…流石にそれは無理だって。雷蔵、数学絶望的なのに」
無理と言われてしまえば、雷蔵も否定は出来なかった。彼の数学の成績は悲惨すぎて、正直自分でもどうしてなのかと聞きたくなる始末だ。
「別に僕は…反対なわけじゃないんだ…」
そう言って雷蔵は持っていたスプーンを置いた。その沈んだ様子に勘右衛門と兵助も言葉を飲みこんでいる。
「ただ、心配なんだよね、どうしても。妹みたいなものだからさ。盗られた悔しいっていうのはあるけど。それ以上に…三郎が泣くのは見たくないから」
そう言われてしまえば、兵助は「そうだな…」と肯くしかなかった。兵助も兵助で三郎を大切に思っている。クラスで初めてできた友達で、それと同時に初めて可愛いと思った女の子だ。もし、八左ヱ門が出てこなければ、自分が三郎に告白していたかもしれない。だが、今の八左ヱ門と幸せそうにしている三郎を見ると、どうしてもそれは言いだせないでいる。そして、言う気ももうとうになかった。
「三郎には笑ってて欲しいな…」
そう兵助が言葉を続ければ、隣で勘右衛門が罰が悪そうに視線をそらした。解ってしまったのだ。兵助が三郎をどういう目で見ていたのか。それは雷蔵も同じで、彼もすと視線を落とす。
居たたまれない、と言うのが勘右衛門の一番の心境だった。
(俺、どうして此処に来ちゃったんだろう…)
と、そんな風に数時間前の自分を呪う。しんみりした空気の中で、兵助が小さく息を吐いた。
「…まぁ、もしはっちゃんが三郎を泣かしたりしたら雷蔵から雷が落ちるだろ?それに、はっちゃんだって自分の好きな子泣かしたりする趣味はないから、大丈夫だよ」
その言葉に、ふと小さく雷蔵が笑みを浮かべる。「まぁね、」と言った彼は顔はやっぱり片想いというよりも兄の顔だと、勘右衛門は思った。
後書き
主役二人がいない;;
雷久尾で竹鉢を見守る人々の会話、みたいな感じです。心配しつつも地味に雷蔵はまだ三郎を狙ってるんじゃないかと思う、兵助は何かあったら的な感じじゃないでしょうか。
勘ちゃんは全面的に竹谷の味方です(笑)