DATEV

デート3

合流して、その後は映画館となって、竹谷は焦っていた。
駅前通りにある映画館はやけに小じんまりしているとは思っていたが、まさか、四本の映画を二つの劇場で切りましてやっているとは思っていなかったのだ。
しかも何の皮肉か、昨日確りリサーチしたは良い物の、ここで何を上映しているのかまでは調べていなかったのだ。
(何でパンフレット取ってきたとこにしなかったんだ、俺…)
兵助達のあきれた様子が、頭によぎるがそれも直ぐに消え去ってしまうほど、竹谷は狼狽していた。
どうしようとばかりに竹谷が焦っている横で、三郎はパンフレットを一つ手に取っていた。
それは最近話題のホラー映画だった。
元々、幽霊や超常現象の類いは信じていない三郎だが、これはちょっと見てみたかった。
軽いスプラッターくらいなら別に良いと言う三郎の横で、竹谷はどれが良いのか真剣に悩んでいた。
それを横目に、三郎は何となく彼の心情を理解していた。
今日のコーディネートやデートの事で浮ついてはいたものの、会えば会ったで、彼女の方は冷静だった。
大方竹谷は映画を決めたは良い物の、ここでやっているかまでは調べてなかったな、と予想をつけたのだ。
「ねぇ、ハチ。私、これが見たいんだけど…」
「これ?」
そう言って指差された映画の題名を見て、竹谷は少しばかり血の気が引いた。
そう、三郎が指差した映画は怖いと有名な物で、実際、彼は余り得意ではなかった。
(そういや、三郎と何を見るかばっかりで、自分が苦手なの考慮してなかった!!)
と、ふとそんな事に思い当たったのである。
とはいえ、今からの時間を考えればその映画を見るのが一番であり、三郎が見たいの言うのだから合わせるのも彼氏の甲斐性(かもしれない)と思えてきた。
だが、しかしである。
ここでホラーが苦手だなどと三郎に知れてしまうのは嫌だった。
臆病者と軽蔑されたりしないだろうかと困惑する。
だが、三郎は「駄目?」と小首を傾げたりしている。
「あ、苦手なら別に良いんだけど…。ゲーセンとか近くにあるし…」
「いい!見る!三郎これみたいんだろ?良いよ、俺も見たかったし」
「そう?ならチケット買いに行こう」
そう言って三郎は聞きとしてチケット売り場へと歩き出した。
あ、と竹谷は自分の口を殴りたい気分だった。
いや、実際につねった。
俺、何言ってんだ…、見たいわけねーだろーよ。
ホラー嫌いの自分が好んでホラーが見たいわけがない。
しかも怖いと有名なジャパニーズホラーだ。
海外物ならば、まだ何とか笑いを探すのだが日本のホラーはどろどろとした陰湿な雰囲気が大嫌いで、苦手なのだ。
竹谷は、もう一度自分の口を呪いつつ三郎の後を追った。


(そんな馬鹿な!!貸切ってなんだよ!しかも、ど真ん中で無駄に視界が良いとかありえねーよ!!)
チケットに記された席に座って竹谷は愕然とした。
先にチケット売り場に行った三郎はさっさと買っており、しかもど真ん中の良い席をばっちりゲットしていたのである。
しかも、土曜日の良い時間だと言うのに中は閑散としており、まさかの二人きりだった。
隣では三郎がジュース片手に映画を見ていた。
一方竹谷はと言えば、何とか映像を見ないようにしようと視線を下に下げたままだった。
だが、音は耳に入ってくる。
ヒロインの叫ぶ声、幽霊のこの世のものとは思えぬ声、時々ぐちゃやらぬととした音まで入っている。
音響だけには自信があるとばかりに、映画館はサラウンド使用だったのだ。
正直、こうして隣で三郎が平然と画面を見ているなど信じられない光景だった。
つ、と視線を上げればそこに見えるのは、楽しそうに映画を見ている三郎だ。
「…最早ここまで来るとこの顔、ギャグだよなぁ」
と、呟きながら三郎はくすくすと笑いながら目の前の恨めしそうな女の顔を見つめている。
(ありえねええええええ!俺、あれ直視できねぇってのに!何三郎、あれ平気なの?!何それ超男らしい!俺、ほれなおした!抱いて三郎!)
と、慣れない映画を見ているせいか思考は完全に混乱していた。
「あ、見て見てハチ!人が引っ張りこまれてる!」
「へ?」
ほら、と肩まで叩かれては竹谷も顔を上げざるを得なかった。
ふと思わず上げた目に映ったのは、悲鳴を上げながら闇の中に引きずり込まれる少女の姿。
そして、にたぁと笑みを浮かべた幽霊の姿。
そこで、竹谷の恐怖と混乱は最高潮に達した。
「ぎっ、ゃあああああああああああああ!!」
そんな悲鳴が上がったのは、少女が闇の中に消えた瞬間だった。


(終わった、俺の初デート…)
結局映画を最後まで見ることが出来なかった二人は、近くのカフェで一息ついていた。
ぐったりとしてテーブルに突っ伏す竹谷を見ながら、三郎は呆れたような眼で見ている。
その視線を感じながら、竹谷は今にも泣きそうである。
「苦手ならそう言ってくれたらよかったのに…」
小さく息をついたあと、三郎はくすくすと笑いだした。
「何、三郎…、笑うこたねぇだろ、笑うこた…」
「だって、ハチ、顔真っ青だよ?そんなになるくらいなら、他のにしようって言ってくれれば私だって、無理にあれを見るなんて言わないのに」
恋愛ものだけは嫌だけど、と続ければ三郎はメニューを手にする。
そう言えば、まだ何も注文していなかった。
カフェ自体も暇な時間なのか、店員達も特に急かしてきたりはしなかった。
「まぁでも、ハチが頑張ってくれたから…、さっきのは見なかったことにしておくよ」
そう言って三郎は一人で勝手に店員を呼びとめた。
さっとされる注文にもハチは茫然としてしまうほど三郎に見とれる。
先ほどの笑みは馬鹿にしているでもなく、呆れるでもなく、むしろ嬉しそうと言う言葉がぴったりな、柔らかく綺麗なものだったからだ。
それにむしろ竹谷の方が赤面してしまいそうだった。
がばりと、またテーブルに顔を伏せた彼を見て、三郎が「どうした?」と首をかしげている。
それに「…いや、何でも、ない」と何とか返して竹谷はぐるぐると回る思考を何とか落ち着けようと息を吐いた。

後書き