DATEU

デート2

11時に駅の改札で、と言ったものの竹谷の眼は冴えわたり、結局一睡もすることが出来ずにいた。
ベッドに入ったは良い物の、眠ることが出来ず、かと言って何かする気もなれなかった彼は、10時には改札の前に居たのだった。
「まぁ、来るわけねぇーけど…」
時間前だし、と呟いた。
三郎の性格は、付き合い始めてから大分把握してきた。
時間きっかりに来るのが彼女なのだ。
余裕を持ってくるときもあるが、それは大事な用事がある時だけ。
今回もそれに含めて良いのか、竹谷は聊か不安だった。
自分にとっては一大決心で誘ったデートだが、三郎は単に二人で遊びに行くとしか思っていないかもしれない。
あのあっさりとした返事で、その可能性は否定できなかった。
開店前の店が多いのと、通勤ラッシュが終わったせいか駅前通りはまだ静かだ。
ぼんやりと大時計を見上げながら、その針がゆっくりと動くのを見つめる。
今日は、今日こそはキスまではいかなくても、そう、手をつなぐくらいは行きたいと彼は先日兵助と勘右衛門に熱く語っていた。
正直、思春期真っ只中の彼としては、キスくらいまで行きたいと言っていたのだが、兵助に「それは無理だ」とすっぱりと言い切られてしまった。
曰く「三郎、多分次の日から恥ずかしくて口きいてくれなくなるぞ」と言うことらしい。
あわよくばそこまで行けたとしても、その後が続かなければ意味がない。
それに、兵助と勘右衛門自身思ったけれど竹谷に言ってない事ではあるのだが、そこまで竹谷の心臓が持つわけがないと思っているのだ。
彼らの認識で竹谷は「へたれ」である。
仮にである、もし仮にそんな雰囲気に持ちこめたとしても、固まって動けなくなるだろうと言うのが二人の予想であった。
しかも、その雰囲気に持ち込むことすらできないだろうと言うのが、竹谷の友人たる勘右衛門の言である。
勿論、この会話は竹谷が何とかデートプランを立て終わり、ふたりが竹谷の家を出た後、兵助と勘右衛門の間だけで行われた会話であり、竹谷は全く知らない事である。
じわじわと聞こえてくるのは、夏を先取りした蝉の声だ。
それを聞きながら時計の針は何時も以上にゆっくりと動いているように感じた。
早く、と竹谷はその時計を見つめつつ長針が12になり、短針が11を刺すのを祈った。


「やっぱり変、かな…」
同時刻、三郎は最寄りの駅のトイレで最後のチェックをしていた。
家を出たのは良いが、どうにも気になって仕方がなかった。
買ったは良いが、着る機会などないと思っていた長め白のチュニックに、黒のミニスカート、それに黒のサンダル。
首には大きめのビーズのネックレスを付けて、チュニックにはアクセントでコサージュまでつけている。
髪は何時もの通りアップだが、グリーンのシュシュでまとめた。
流石に気合いを入れすぎただろうかと、もう一度自分の服装を見つめる。
だが、今日は初めてのデートなのだ。
大好きな、所謂彼氏に少しでも可愛く思ってもらいたいのは女として当然だろう。
三郎は、少しだけ恥ずかしさを覚えつつも決心したようにぐと持っていたバッグを握りしめた。
もう良い、時間もない、乗ってしまえば諦めもつくと、彼女は電車へと乗ることにした。


駅のホームへ出て、改札へと足を向ける。
時間は10時50分と丁度良いくらいだった。
ちょっと余裕を持って正解だったと、三郎は胸をなでおろす。
竹谷は何時も時間ぎりぎりだから、今日もそうだろうと彼女は何処で彼を待とうかと駅前の広場を見渡して、ぎょっとした。
普通は、ドキなのだが彼女の頭の中はそれで正解だろう。
そう、大時計の前に座っているのは私服姿の竹谷だった。
自分が早く来て心の準備をするはずだったのに、どうしてこういう時だけ時間前に来てるんだ、と彼女は時間を守っているにも関わらず竹谷に怒鳴り散らしたい気分になった。
とはいえ、竹谷はまだ此方に気が付いていないのか、時々時計を見つめて、それからまた携帯を見ている。
多分、11時になるのを、自分が来るのを待っているのだろう。
もうちょっとだけ、と三郎は竹谷の方を見つめた。
自分を待っている彼と言うのは珍しいと言うか、こうしてマジマジと見るのは初めてだと思う。
何時も、授業の関係で自分は生物の時間に遅れて行くけれどそれを待っている時の竹谷は見たことがなかった。
その間もこうやって時計とにらめっこしているのだろうか、それとも勘右衛門と喋っているのだろうか。
もし、前者だったら少し嬉しいと、自分の中にある独占欲が満たされる気がした。
そうやってじっと竹谷を見ていれば、ふと彼の視線が改札のある方―つまり自分の方を見た。
そして、自分を視界に入れたのだろう、彼は嬉しそうに笑って時計の前から此方へと歩いてくる。
「さぶろー!」
そう言って手を振ってくる彼には心なしか尻尾が見えた気がした。

後書き