ピンクのブラウスに、ひらひらしたスカート、マーガレットのコサージュ、白いハイソックス、レースのついた靴、それを着てポーズを取る雑誌の中のモデル、それを見て三郎は盛大にため息をついた。
「デートなんて、どんな格好をすれば良いんだ…」
そう言って彼女は枕へと顔をうずめた。
「三郎、次の日曜日って空いてるか?」
そう尋ねられたのは、一緒に帰っている途中だった。
竹谷と付き合い始めて2週間。
既に一緒に帰るのは日課になりかけていた時、金曜日の一際人の多い電車のホームで言われた。
「次の日曜って、明後日?うん…、別に何もないけど」
それがどうかした?と首を傾げれば、竹谷が嬉しそうに眼を細める。
「じゃあ、さ。あの…映画とか見に行かないかなぁ…とか思って。ほら、俺、見たい映画があって、それにつきあってほしいっていうか…さ」
「映画?…別に良いけど」
「ホントか?!じゃあ、明後日な、11時にこの駅の改札で待ち合わせな!」
そう興奮して言った竹谷に驚きながらも、三郎は了承した。
そして、それを遊びに来た雷蔵に告げた途端、彼はとても良い笑顔をした。
それこそ、面白いものでも見つけた、子供の顔だった。
「なんだ三郎、初デート?」
そう言われて漸く三郎は理解した。
どうして竹谷があんなに緊張していたのか。
OKを告げてどうして喜んだのか。
自覚したが最後、彼女の顔はこれでもかと言わんばかりに赤くなったのだ。
それを見て雷蔵は「あれ?気づいてなかったの?」とあっさり言った。
それが耳にまともに入ってこないほど、三郎は恥ずかしさで死にそうだった。
そして現在、彼女は元々持っていたファッション雑誌を開いている。
元々可愛いものが好きな彼女は持ちモノとは違って、可愛らしい服装が載っているものばかりを買っていたせいか、頭を悩ませる羽目になってしまった。
男と二人で買い物など、雷蔵以外とはないし、それに彼は幼いころから一緒に居た兄弟の様なものだ。
服装など気にしたことなどなかった。
だが今回は別だ。
相手はそう、所謂『彼氏』なのだ。
少しでも可愛く思ってほしいと言うのが女心、三郎も例外ではなかった。
ぱらぱらとページを片手で捲っては小さくため息を吐く、それを繰り返しても良いコーディネートは思いつくはずもなかった。
しょうがない、と思いつつも彼女はクローゼットへと足を向けた。
白い抽斗を手前に引いて中を確認する。
ぎっしりと詰まった色とりどりの服を全部とりだした。
この際、中身を整理する意味で出してしまおうと、その服を床に広げた。
青と黒が中心の服達を目にすれば、女らしいと言う言葉からは無縁に見えてきた。
せめてパステルカラーの物でもあればと思うが、全部何処かボーイッシュな印象を抱かせるものばかりだ。
「…新しいの買うって言ってもなぁ」
デート自体はもう明日に迫っていた。
気がついたその日は恥ずかしさでベッドの上で身もだえるしかできなかったせいか、寝付くのも遅くなり今や店も閉まる寸前という時間となってしまっている。
どうしよう、と言いつつ三郎は散らばった服を見つめた。
もうこの中から見つけるしかない。
「〜〜〜もう!何でも良い!」
煮詰まった彼女は近くにあったキャミソールを放り投げながらそう叫んだ。
ずらりと並べられた映画のパンフレットに兵助と勘右衛門はため息をついた。
その向こう側にはそれを真剣に見つめる友人の姿がある。
土曜の午後、二人が呼び出されたのは映画館の前だった。
幾つもの映画が同時上映されているそこには、このパンフレットの山を抱きかかえている竹谷の姿があった。
それを見て二人は同時に同じことを思った、そう「帰りたい」と。
だが、そんな二人だろうが、切羽詰った竹谷が逃がしてくれるわけもない。
しっかりと首をつかまれて、竹谷の家まで連行されることになったのである。
二人は竹谷の母親によって出されたカルピス(お代りはピッチャーいっぱい)を飲みながら、「どの映画ならば三郎が気に入ってくれるか」と言う竹谷の相談事を聞いていたのである。
正直言ってどうでも良かった。
告白からお付き合いまで、特に告白まではやたらと話を聞き続けてきた勘右衛門は正直辟易していたし、こっそりと三郎に想いを寄せていた兵助からすれば全くもって面白くない相談だったのだ。
と言っても、兵助の場合は軽い憧れの様なもので、恋とはっきり言うには未熟だったと兵助自身も自覚しているのだが。
がじがじと悔し紛れにストローを甘噛みすれば勘右衛門が「兵助、大丈夫?」と心配してくれた。
何が?と問い返そうになるが、それでは単なる八つ当たりだと兵助は肯くだけにした。
「やっぱり恋愛ものが良いのかな?女の子って好きだよな、そう言うの。あ、…でも三郎、前にそう言うの苦手とか言ってたし。ならアクション系?いや、ホラーもやっぱり捨てがたいよな、抱きついてもらえるし…いやでもコメディとか?お笑いとか好きとか言ってたし」
「……はっちゃん、私帰って良い?」
「駄目!俺が決めるまで話聞いてて!」
「いや、こっちに話題振ってないじゃん」
自問自答してるだけでしょ?と勘右衛門が突っ込めば竹谷はう、と言葉を詰まらせた。
その様子を見て兵助はため息をついた。
とはいえ、こいつはあの三郎の彼氏、彼女が選んだ相手なのだ。
その彼女の初デート、好きな相手が楽しく過ごすのは悪い事ではない。
しょうがないか、と兵助はもう一度息を吐く。
「三郎は意外と、動物ものとか弱いよ」
「へ?」
「恋愛ものはウソ臭くて嫌いとか言ってたし、アクションも好きだけど邦画はアウトだって。あとコメディはあたりはずれが激しいし、ホラーはアイツ冷めた目でしか見ないよ?前に雷蔵と三人で見たけど、動じるどころか爆笑してた」
「兵助、」
そう名前を呼んだ竹谷の眼はまさに救世主を見る目をしていた。
「それに動物ものははっちゃんも好きだろうし…」
「兵助!愛してる!三郎の次に!」
そう言って竹谷はテーブルを乗り越えて兵助にハグをしていた。
ぐぇ、という兵助の声と「…うざ」という勘右衛門の毒など無視して彼は当面の悩みが解決された事に喜んでいた。
後書き
初デート編、その1です。
映画とか、そういうテンプレから入る男、竹谷八左ヱ門。
ちなみに動物ものが好きなのは私です(何)でも三郎はホラーは冷めた目で見つつ、最後には爆笑すると思う。
化学的な物以外は信じない派だと思われ。
邦画のアクションは「ひでぇCG」とか言う癖に、B級映画はきらきらした目で見てる三郎とかかわいいと思います。
「カンフーハッスル」とかで大盛り上がりする5年とか可愛いww