「勘ちゃん、俺はどうすればいいと思う?」
そう言われて勘右衛門は最早苦笑いしか出なかった。
今朝、学校に来て一番最初に聞いたのは竹谷が犯した大失態の話だった。
失態と言うか、なんと言うかと勘右衛門は首を傾げるしかなかったのだが。
目の前で、机に突っ伏して今にも泣きださんばかりの友人の背中を見ながら、別にそこまで落ち込むようなことではないだろうと思う。
こういう形であっても、想いは伝わったかもしれないのだ。
それに、勘右衛門としてはその方がいいと思っていた。
恐らく、いや確信に近いが三郎だとて竹谷憎からず思っていると、彼は感じていた。
一緒に居る時の二人の空気には誰も入っていけないだろう。
それくらい二人は絵になっていた。
なのに、どうしてこうも手をこまねく必要があるのか、彼には解らない。
とはいえ、それを言っても竹谷はだってだって、と泣きそうな声を上げるんのだろうけれど。
それが容易に想像できて勘右衛門は何も言えないでいるのだった。
とはいえ、もう半日経っているわけで、そろそろ三郎がノートを返しに来てもおかしくはない、そんな時間だった。
その時こいつはどんな顔をして会うつもりなのだろうかと其方の方が心配だった。
下手すれば逃げ出すんじゃないかと、勘右衛門は勘繰っている。
「ねぇ、竹谷。そんなにぐだぐだ悩むならちゃんと言えばいいじゃない。ノートの中全部見たのか聞いてさ、鉢屋の気持、聞いた方が良いよ?」
「そう、だけど…さ。…でもやっぱり格好悪いって言うか…」
うぅ、と小さく唸ったのを見て、勘右衛門ははぁと小さく息を吐いた。
扱いづらい、というのが今の彼の心境である。
面倒くさい扱いづらい、もう投げ出したいと今度こそ本気で思った。
とはいえ、友達である以上そうもいかない。
それが出来るのならばどれだけ楽だろうかと、自分の情に厚い性格を少し恨んだ。
「あのさぁ、ノートに鉢屋の名前まで書いてたんだろう?じゃあ、もういまさらだって。それに、それでグダグダ悩んでぎくしゃくする方が嫌だって竹谷だって解ってるんじゃないの?…嫌でしょそう言うの。鬱陶しいしさ」
「勘ちゃん、今、さり気に鬱陶しいって…」
「気のせいだよ」
そうずばんと切り捨てられてしまったのだが、そうか、鬱陶しいのかと竹谷は少しばかり遠い目をしてしまう。
「まぁ、どうするかは竹谷次第だと思うけどね。…俺はこれ以上関与しないよ」
そう言って勘右衛門は時計を見つめる。
そろそろかなぁと思いつつ、廊下を見れば案の定特徴的な茶色のふわふわのポニーテールが見えた。
「ほら、竹谷」
そう言って、机に投げ出された腕をつついて竹谷を起こす。
そろりと、竹谷は視線を廊下に投げてその後びくりと弾かれた様に体を起こした。
三郎だ、と彼はごくりと唾を飲み込む。
控えめに近くに居たクラスメートに竹谷を呼んでくれるように頼んだらしい、直ぐに扉の近くに居た男子生徒が竹谷の名前を呼んだ。
「あ、う…うぅ…心の準備が…」
「あぁもうほら!さっさと行けって!あんまりうじうじしてると友達辞めるよ?!」
そう言って勘右衛門は竹谷の背中を思い切りたたく。
それにいてっと声を上げつつも、竹谷は意を決して立ちあがった。
心臓がドキドキと、早鐘を打って、まるで証言台に上がる証人や被告人の気分だと思う。
とはいえ、三郎も三郎で何処かぎこちなく視線をちらちらと竹谷と床とを彷徨わせていた。
もどかしいなぁ、と思いつつ勘右衛門は自分のカバンから携帯を取り出した。
誰かからメールでも来てないかなぁと、一時、自分の興味をそらすことにしたのだった。
教室の扉の前で、三郎と竹谷は向かい合って、無言で立ちつくしてしまっていた。
どうしよう、と三郎は床を見つめてしまう。
手にしているのは竹谷から借りた生物のノートだ。
それに書かれた内容、三郎が好きだという言葉の真実。
それを聞きたいのに上手く言葉に出来ないでいる。
もう、いっそのこと見なかったことにしてしまおうとか、三郎はそのノートを竹谷にさし出した。
「あの、…竹谷、これ」
「中、全部見ちゃったよ、な?やっぱり…」
話を切り出してきたのは、竹谷の方だった。
そろりと、視線を上げれば照れたように視線をそらす彼が居る。
どうやら、竹谷自身、何とか腹をくくったようだった。
もう、このまま言ってしまえというくらいの勢いが彼の中で渦巻いている―と言っても、踏ん切りがつかないのは人の目があるからなのだが。
「…うん、見た。悪いと思ったけど…、全部…」
そう、正直に告白すると微かに三郎自身の手が震える。
なかったことに、あれは単なる落書きだからとか言われたら、それもショックだと思う。
でも、でも、もしかしたらと三郎は何処か期待して、竹谷を見つめた。
「あの、さ、三郎。俺、本気だから」
「え、え?」
「そこに書いてる事全部、俺、本気だから。三郎の事、そこに書いてるように思ってるから」
そう言った彼の眼は真剣で、三郎は眼を見開いた。
三郎の事、それはまちがいなく自分の事なのだと、竹谷の眼は言っている。
それだけで、嬉しくて泣きそうになるのが解って、三郎はきゅっと一度だけ目を閉じた。
駄目だこのままここに居たら泣いてしまうと、それだけはっきり解った。
「…だから、さ、三郎、俺…」
返事が、と言いかけたところでノートが引っ込む。
「ハチ、このノートもうちょっと借りて良い?」
そう言われて、竹谷は「はい?」と面喰ってしまった。
俺の告白は?あれ?とスルーされた気分になって、ぽかんとしてしまう。
「書き忘れたところがあるんだ、だから…放課後また返しに来る」
良いだろう?と言われて、竹谷は「お、おぅ」と肯いた。
じゃあ、後でなと言って三郎はそのまま踵を返した。
ふわりと、ポニーテールとスカートが翻る。
それを見ながら、竹谷は「あ、あれぇ?」と思わず声を上げてしまった。
返事、もらえなかった…と、竹谷はうなだれつつ席へと戻る。
その様子を見ながら、勘右衛門は首をかしげた。
「どうだったの?」
そう問えば「ノート、返してもらえなかった」とだけ呟いて、竹谷は再び机に突っ伏したのだった。
そして、放課後、竹谷が戻ってきたノートを握りしめ凄い勢いで走りだし、昇降口で靴を履き替えていた三郎を捕まえて、「本当か?!なぁ、ホントか?!」と、問いただしている姿が幾人かのクラスメートに目撃されたのだった。
彼の握りしめているノートのページ、そこには「私もハチが好きだ」と言う言葉が書かれていたのは、二人だけが知ることだけれど。
後書き
ってことで、両想いになるまでです。
こういう告白って可愛いと思うんだ!にしても半端じゃなく甘いですねwww青春って良いと思うよ(棒読み)
一応、くっついたのでこっちは完結というか、一区切りですが、またネタが思いついたら書くかもしれないです。にしても楽しいです(え)