告白します
「…三郎?どうしたんだ?」
そっと手を伸ばしてやれば、はと微かに息を飲むようにして三郎はまた顔を隠した。
あれ?と兵助はその仕草に不思議そうに首を傾げる。
普段なら、駆け寄ってくるし、喧嘩をしているのならそっぽを向いて行ってしまうはずだし。
「へぇすけ」
名前を呼んで、三郎はこちらへとそろそろと足を踏み出してくる。
落ち込んでいるような、でも、どちらかというと恥ずかしがってるのか、とどちらとも着かないような表情を浮かべている。
そのまま彼はちょこんと兵助の隣へと腰を下ろした。
一緒じゃないのか、と雷蔵や竹谷の姿を探しても気配はない。
「へぇすけ、あの、ね…お話があるの」
そう言われて、くいと着物の裾を引かれる。
じぃと見つめてくる表情は見覚えがある。
あ、これ…と彼は14歳の三郎が重なる気がした。
何時だろう、こんな風な表情を浮かべたのは。
必死に、自分に何かを伝えてくれようとしている表情は、確か、自分が告白して、その返事をくれようとした時だ。
端から、三郎は雷蔵が好きなんだと決めつけて、一度は伝えるだけで終わろうとした自分に向けてくれた目だった。
真っ直ぐにそれを見返せば、三郎はぎゅぅと自分の膝頭を掴んでいた。
どういおう、と迷っているのは相変わらずだ。
前もこんな風に、困って、時間を掛けて言葉を返してくれた。
「あの、あのね。仲直りを、しようと思って…」
「仲直り?」
うん、と三郎が小さく頷いて、またゆっくりと唇を開くのが解る。
「大嫌いって言って、ごめんなさいって…」
「あ、でも、あれは私が…いけなかったから。私の方こそ、ちゃんと話し聞かなくて、ごめんな」
そう言って茶色の髪の鬘を撫でると、こくんと三郎がまた頷いてくれる。
もしかしてこれを言いに来てくれたのか、と胸の奥がじんわりと暖かくなる気がする。
だが、三郎はまだ少しそわそわしているようだった。
あの、あのね、とまた何か言おうとして、今度は兵助の袴をきゅと握る。
「…それで、ね。私、へぇすけに聞いて貰いたいことがあって」
「私に?」
「うん、あのね…。私、ね。喧嘩してる時に、ずっとここが痛くて。それで、喧嘩してばかりだと、へぇすけの一番じゃ無くなるかも知れないって言われたら、すっごく嫌だったの」
ここ、と三郎は自分の胸を片方の手で押さえた。
「それで、ね。雷蔵と、ハチが、ね」
うん、と相槌を打ちながら聞いていれば、あのね、と三郎が顔を上げた。
「私は、兵助に恋を、しているから。だから、そうなるんだって教えてくれたの」
そう言われて、兵助の目が微かに見開かれる。
恋を?誰が?誰に?と一瞬、解らなくなる位に、それはうれしかったのかも知れない。
目の前にいる子供は、確かに三郎だ。
必死に自分に思いを伝えてくれようとしている所も、それが不器用だから上手くできない所も。
「だから、それを聞いて欲しくて」
そう言って、立ちあがろうとする三郎を抱きしめてしまったのは本当に反射みたいなものだった。
その小さな手首を引いて、腕の中に納めてぎゅうと力一杯抱きしめた。
「へぇすけ?」
どうしたの?と続けてくる、可愛らしい声にそっとその後ろ頭を撫でると、こてんと肩口に頭を預けてくれる。
「私も、三郎に聞いて欲しいことがあるんだ」
「私に?」
そう、と頷くと三郎が軽く顔を上げる。
それににこと柔らかく笑って、あのね、と口を開く。
「私は、どんな事があっても、三郎が一番好きだよ。私も、三郎に恋してるんだよ。…むしろ、愛してるんだけど」
その違いはきっとまだ相手には解らないだろうけど。
そう、三郎に告げると微かに頬が赤らむのが解った。
顔を隠さないのは、子供だから照れ隠しなんてまだ知らないのかもしれない。
「じゃあ、一緒だね。私とへぇすけは、両思いだね」
そう言って、三郎はうれしそうに笑った。
「あれ?三郎、今日はこの部屋じゃないのか?」
と、風呂上がり、自室に戻る前に顔を見ようと雷蔵の部屋を訪れた竹谷が声を上げた。
不思議そうに部屋を見渡しても、三郎の枕が無くなっていて、雷蔵が奥の机で本を読んでいるだけだ。
「うん、今日は兵助の部屋にお泊まりなんだって」
ふて腐れたように、溜息を吐く雷蔵の声に、ははと竹谷は苦笑を零した。
「何だ、雷蔵。面白くないの?」
「面白いわけ無いじゃないか。両思いだったよ、ってそれはそれはうれしそうに僕の所に帰ってきて、次の一言は今日は兵助の部屋で寝る!だもの。そんなの、喜び勇んで、羊が味付け用の塩胡椒持参で狼の所に行くようなものじゃないか」
はー…と盛大に溜息を吐く様子を見ながら竹谷はまた苦笑を零す。
「そんな、兵助だっけあの三郎に何かする程、切羽詰まってるわけじゃぁ」
「無いって解ってるけど!心配は心配じゃないか」
「お前、ホント母親みたいだなぁ」
「…父親でも間違ってないよ」
そう言って、溜息を吐く友人の頭を撫でようと竹谷は腕を伸ばした。
三郎はきっと親離れをしたのだろう、でも、子離れできてないのは親の方かも知れない。
確かにちょっと寂しいなと思いつつ、わしわしと雷蔵の頭を撫でるのだった。
自分の部屋に来て枕を並べる三郎の様子を見ながら、兵助は何とも不思議な気持ちになっていた。
うれしくないと言えば嘘になる。
むしろ、浮かれて飛んでいきそうなくらいだ。
今まで一緒に寝ようと言っても、雷蔵がダメって言うからと言って来てはくれなかった。
それが、今回は反対もされなかったし、どうしても一緒が良いと三郎が言い張ったようだった。
愛されてるなぁ、と口元が緩みそうになるけれど、それは前に三郎から変な顔と言われてしまったから出来るだけ見せないようにしなければならない。
二人で布団に入れば、いつも雷蔵にそうしているのだろうか、直ぐに枕から頭を外して、自分の腕の中に来てくれた。
腕枕なんて、昔はこちらが強請らなければしてくれたなかったというのに。
ぎゅうとその体温を感じるように抱きしめると、へへと三郎が擽ったそうに笑った。
「三郎、暑くない?」
「平気だよ。外寒いし、丁度良い」
そっか、と返事をするとこくんと頷かれた。
「じゃあ、寝ようか」
そう言うと、三郎は暫し考えるように視線を下へと向けた。 それから、ちょっと待ってと言って身体を起こす。
厠か?と思ったけれど、三郎は完全に身体を起こすことなく、そのまま兵助の頬にその小さな唇を寄せてきた。
可愛らしい、触れるだけの接吻に兵助はぱちくりと一度だけ大きく瞬きをする。
「えへへ、タカ兄ちゃんがね。好きな人には、寝る前にこうするんだよって教えてくれたの」
ほっぺにするんだって、と言って三郎はまた兵助の腕に頭を乗せた。
「じゃあ、お休み、兵助」
そう言って、三郎は隠れるように兵助の胸に頭を埋めて目を閉じた。
かぁと兵助の頬が熱くなるのが解る。
(うわぁああ、もう、三郎、お前、それ反則っ…!)
腕の中で既に寝息を立て始めている、三郎にそれを伝えることなんか出来ずに、兵助は暫く赤く火照る顔を我慢しなければ行けなかった。
そっと手を伸ばしてやれば、はと微かに息を飲むようにして三郎はまた顔を隠した。
あれ?と兵助はその仕草に不思議そうに首を傾げる。
普段なら、駆け寄ってくるし、喧嘩をしているのならそっぽを向いて行ってしまうはずだし。
「へぇすけ」
名前を呼んで、三郎はこちらへとそろそろと足を踏み出してくる。
落ち込んでいるような、でも、どちらかというと恥ずかしがってるのか、とどちらとも着かないような表情を浮かべている。
そのまま彼はちょこんと兵助の隣へと腰を下ろした。
一緒じゃないのか、と雷蔵や竹谷の姿を探しても気配はない。
「へぇすけ、あの、ね…お話があるの」
そう言われて、くいと着物の裾を引かれる。
じぃと見つめてくる表情は見覚えがある。
あ、これ…と彼は14歳の三郎が重なる気がした。
何時だろう、こんな風な表情を浮かべたのは。
必死に、自分に何かを伝えてくれようとしている表情は、確か、自分が告白して、その返事をくれようとした時だ。
端から、三郎は雷蔵が好きなんだと決めつけて、一度は伝えるだけで終わろうとした自分に向けてくれた目だった。
真っ直ぐにそれを見返せば、三郎はぎゅぅと自分の膝頭を掴んでいた。
どういおう、と迷っているのは相変わらずだ。
前もこんな風に、困って、時間を掛けて言葉を返してくれた。
「あの、あのね。仲直りを、しようと思って…」
「仲直り?」
うん、と三郎が小さく頷いて、またゆっくりと唇を開くのが解る。
「大嫌いって言って、ごめんなさいって…」
「あ、でも、あれは私が…いけなかったから。私の方こそ、ちゃんと話し聞かなくて、ごめんな」
そう言って茶色の髪の鬘を撫でると、こくんと三郎がまた頷いてくれる。
もしかしてこれを言いに来てくれたのか、と胸の奥がじんわりと暖かくなる気がする。
だが、三郎はまだ少しそわそわしているようだった。
あの、あのね、とまた何か言おうとして、今度は兵助の袴をきゅと握る。
「…それで、ね。私、へぇすけに聞いて貰いたいことがあって」
「私に?」
「うん、あのね…。私、ね。喧嘩してる時に、ずっとここが痛くて。それで、喧嘩してばかりだと、へぇすけの一番じゃ無くなるかも知れないって言われたら、すっごく嫌だったの」
ここ、と三郎は自分の胸を片方の手で押さえた。
「それで、ね。雷蔵と、ハチが、ね」
うん、と相槌を打ちながら聞いていれば、あのね、と三郎が顔を上げた。
「私は、兵助に恋を、しているから。だから、そうなるんだって教えてくれたの」
そう言われて、兵助の目が微かに見開かれる。
恋を?誰が?誰に?と一瞬、解らなくなる位に、それはうれしかったのかも知れない。
目の前にいる子供は、確かに三郎だ。
必死に自分に思いを伝えてくれようとしている所も、それが不器用だから上手くできない所も。
「だから、それを聞いて欲しくて」
そう言って、立ちあがろうとする三郎を抱きしめてしまったのは本当に反射みたいなものだった。
その小さな手首を引いて、腕の中に納めてぎゅうと力一杯抱きしめた。
「へぇすけ?」
どうしたの?と続けてくる、可愛らしい声にそっとその後ろ頭を撫でると、こてんと肩口に頭を預けてくれる。
「私も、三郎に聞いて欲しいことがあるんだ」
「私に?」
そう、と頷くと三郎が軽く顔を上げる。
それににこと柔らかく笑って、あのね、と口を開く。
「私は、どんな事があっても、三郎が一番好きだよ。私も、三郎に恋してるんだよ。…むしろ、愛してるんだけど」
その違いはきっとまだ相手には解らないだろうけど。
そう、三郎に告げると微かに頬が赤らむのが解った。
顔を隠さないのは、子供だから照れ隠しなんてまだ知らないのかもしれない。
「じゃあ、一緒だね。私とへぇすけは、両思いだね」
そう言って、三郎はうれしそうに笑った。
「あれ?三郎、今日はこの部屋じゃないのか?」
と、風呂上がり、自室に戻る前に顔を見ようと雷蔵の部屋を訪れた竹谷が声を上げた。
不思議そうに部屋を見渡しても、三郎の枕が無くなっていて、雷蔵が奥の机で本を読んでいるだけだ。
「うん、今日は兵助の部屋にお泊まりなんだって」
ふて腐れたように、溜息を吐く雷蔵の声に、ははと竹谷は苦笑を零した。
「何だ、雷蔵。面白くないの?」
「面白いわけ無いじゃないか。両思いだったよ、ってそれはそれはうれしそうに僕の所に帰ってきて、次の一言は今日は兵助の部屋で寝る!だもの。そんなの、喜び勇んで、羊が味付け用の塩胡椒持参で狼の所に行くようなものじゃないか」
はー…と盛大に溜息を吐く様子を見ながら竹谷はまた苦笑を零す。
「そんな、兵助だっけあの三郎に何かする程、切羽詰まってるわけじゃぁ」
「無いって解ってるけど!心配は心配じゃないか」
「お前、ホント母親みたいだなぁ」
「…父親でも間違ってないよ」
そう言って、溜息を吐く友人の頭を撫でようと竹谷は腕を伸ばした。
三郎はきっと親離れをしたのだろう、でも、子離れできてないのは親の方かも知れない。
確かにちょっと寂しいなと思いつつ、わしわしと雷蔵の頭を撫でるのだった。
自分の部屋に来て枕を並べる三郎の様子を見ながら、兵助は何とも不思議な気持ちになっていた。
うれしくないと言えば嘘になる。
むしろ、浮かれて飛んでいきそうなくらいだ。
今まで一緒に寝ようと言っても、雷蔵がダメって言うからと言って来てはくれなかった。
それが、今回は反対もされなかったし、どうしても一緒が良いと三郎が言い張ったようだった。
愛されてるなぁ、と口元が緩みそうになるけれど、それは前に三郎から変な顔と言われてしまったから出来るだけ見せないようにしなければならない。
二人で布団に入れば、いつも雷蔵にそうしているのだろうか、直ぐに枕から頭を外して、自分の腕の中に来てくれた。
腕枕なんて、昔はこちらが強請らなければしてくれたなかったというのに。
ぎゅうとその体温を感じるように抱きしめると、へへと三郎が擽ったそうに笑った。
「三郎、暑くない?」
「平気だよ。外寒いし、丁度良い」
そっか、と返事をするとこくんと頷かれた。
「じゃあ、寝ようか」
そう言うと、三郎は暫し考えるように視線を下へと向けた。 それから、ちょっと待ってと言って身体を起こす。
厠か?と思ったけれど、三郎は完全に身体を起こすことなく、そのまま兵助の頬にその小さな唇を寄せてきた。
可愛らしい、触れるだけの接吻に兵助はぱちくりと一度だけ大きく瞬きをする。
「えへへ、タカ兄ちゃんがね。好きな人には、寝る前にこうするんだよって教えてくれたの」
ほっぺにするんだって、と言って三郎はまた兵助の腕に頭を乗せた。
「じゃあ、お休み、兵助」
そう言って、三郎は隠れるように兵助の胸に頭を埋めて目を閉じた。
かぁと兵助の頬が熱くなるのが解る。
(うわぁああ、もう、三郎、お前、それ反則っ…!)
腕の中で既に寝息を立て始めている、三郎にそれを伝えることなんか出来ずに、兵助は暫く赤く火照る顔を我慢しなければ行けなかった。