お買い物
かぽかぽと馬の蹄の音が長閑な田舎道に木霊していた。
その上には、三郎と経久、轡を引くのはどういう訳か兵助だ。
不満そうにちらりと馬上を見上げれば、経久の膝の上で三郎がきゃっきゃと声を上げている。
(何で私がこんな事を……)
と、不満そうに唇を尖らせたのだった。
朝、三郎に起こされて直ぐに「町に行こう!」と楽しそうに言われた。
寝起き直ぐの頭ではなかなか理解できずに、首を傾げれば三郎が「お殿様が町に連れてってくれるって。だから兵助も一緒に行こう!」と言われて彼は直ぐに覚醒した。
町に?!三郎と経久が!?
思わず邪な事まで考えたのはさておき、彼はその申し出を二つ返事で了解してしまった。
可愛い三郎とあの経久を二人で行かせるものか、とさっと用意をして外に出れば、馬に乗った二人が自分の目の前に現れたのだった。
「轡を取れ、兵助。流石にこの馬に三人は乗れぬ」
そう言われて、兵助は思い切り嫌そうな顔をしたけれど、ここで引き返すという選択肢は無いような物だった。
渋々、彼は馬の轡を取ってここまで来ていた。
「へぇすけ、お殿様!見て見て、彼岸花が咲いてる。父上が好きな花だよ」
田圃に咲く花を指さしている。
真っ赤なそれは死人花などとも呼ばれたりするが、日中で見れば随分美しい。
「そうなのか?あやつの好きな花などよう知っておったのう」
「はい、父上が前にお散歩してたときにじっと見てたんです。それで、摘んで渡したら、お部屋に飾ってくれて。侍女に聞いたら好きなお花なんですよって言ってました」
それを覚えていたのだと笑みを浮かべながら話している。
(ホント、素直じゃないんだなあの人…)
と、一度会ったことのある三郎の父親を思い浮かべてしまった。
確かに冷たい印象を受けたけれど、息子の贈り物は大事に扱うらしい。
しかもそれを息子自身にははっきり伝えてない辺りが、親子だなぁと思ってしまう。
「そういや、今回は何で、町に行こうとか思ったんですか?別に市なんて珍しくも無いでしょうに…」
と、多少の嫌味も含めて言えば、経久は、んと微かに首を縦に振る。
「土産を買おうと思ってな」
「そんなの堺で寄り道でもすれば良いじゃないですか」
そう溜息を吐きながら言えば、経久は「風情の無い」と小さく呟いた。
「その土地の物を贈るのが良いのではないか。家臣達にも奥にもそれなりに好みの物を贈らねばならんし…」
「へぇ……って、アンタ結婚してたんですか?!」
うそぉ、と言いながら振り返れば楽しそうに笑みを浮かべる男の顔が目に入った。
それなのに小姓を色目的で囲おうとしたのか、と軽蔑の混じった目で見れば、微かにその表情も崩れた。
「この年で嫁を取らぬ方が珍しいわ」
「奥さんがいるのに、良くも三郎をそう言う意味で側におこうとか思えますね」
と、言うとくつくつと経久は喉の奥で笑った。
「萩はようできた女でなぁ。多少のことでは嫉妬などもせぬ。それに…武家では男色の方が優先される故。むしろ萩は男を側に置かぬ方が可笑しいと言ったくらいだからなぁ」
萩と言うのが奥方の名前らしい。
楽しげに話す様子を見ながらやはり武士は解らないと、兵助は眉根を寄せた。
「女は子供を残す為と実家と嫁ぎ先を繋ぐ為にいると、あれは言って憚らぬ。おまけに頭も良く、懐が広い。武家の女としては十二分よ」
「…理解しかねます」
其の言葉に経久はやんわりと目細めて笑みを浮かべた。
「そなたもどこぞに仕えるようになれば、嫌でも解る様になろう…そう言うものだ」
そんな風にはなりたくない、と口を開こうとして結局兵助はそれを止めた。
恐らく「子供」と一言言われて終わってしまうのだろう。
不満そうにしている彼の背中を見ながら、経久はまた楽しげに喉の奥で笑った。
町まで降りれば流石に目立つと、経久と三郎は馬を下りて歩くことにしたらしい。
前の方を手を繋いで歩いているのを見ながら、兵助はやっぱり馬を引いていた。
土産物屋に入るわけではなく、市に並んでいる物を見ながら経久は幾つか物を買っている。
土産を買いに来たと言うのは嘘ではないらしく、買ったものは全部馬の背に乗せている。
「萩にはこの小袖が良かろう…。出雲では見ぬ柄だ」
とか言いながら、幾つかの小袖を注文している。
何だかんだと奥方の事も好きなんだなぁと思いつつ、兵助は店の入り口付近で待っている。
三郎は三郎で、はしゃいだ様子で店の中を見て回っていた。
「へぇすけ、着物がいっぱいある」
「あぁ、まぁ着物屋さんだからね」
と、返事をするとそうなんだ、と呟いてまたぐるりと店の中を見渡した。
「物ってこういうところで買うんだね」
呟かれた言葉にん?と兵助は首を傾げながら腰を折る。
「何?三郎はこういうところ来たことがないの?」
「うん。市の中を通った事はあるけど、父上はお店に入ったりしなかったから。いっつも見てるだけだった」
「…そっか。物を壊したり、汚したりしなかったら大丈夫だからもっと見ておいで」
そう言うとうん、と三郎は大きく頷いて、また反物が飾ってある棚を見つめた。
その一つ、青い色の反物の棚をじっと見つめている。
「…青、好きなのか?」
そう尋ねると、こくんと首を縦に振った。
「私じゃなくて、母上が好きって聞いたことある。私が前に会った時も青の小袖を着てて、綺麗ですねって言ったらありがとうって言ってくれたの」
「三郎は、お母さんと一緒に住んでないのか?」
「住んでないよ。母上達は離れに居るの。兄上も姉上もみぃんな父上のいる母屋に住んでるから。母上達と一緒に居ると甘えるからって父上がだめって…」
そう言って、寂しそうにしながら青い小袖をじっと見つめた。
飾られている鮮やかな青がやけに目に残る気がする。
「三郎、そなた、小袖が欲しいのか?」
そう声を掛けられて、さっと三郎が経久を振り返った。
ちょいと手招きをされて、一度兵助の方を見てから彼は経久の方へと歩み寄っていく。
「欲しい訳じゃないけど、母上に似合うかなぁって思って…」
「そうか。なら、儂が買ってやろう」
「…お殿様が?」
ぽかんと、ちょっと意外そうにして三郎がまた小袖の方をみやった。
良いのだろうか、そんな風に迷っているように見える。
「でも…」
やっぱり悪いと言いたげなそれを制して、経久は幾つか見せるように店主に申しつけている。
「構わぬ。土産の一つや二つ増えたとて今更変わらぬかなな。どうせなら父の分も選べばいい」
「父上のも?」
あぁ、と促されて三郎はまた兵助を見やった。
本当に良いのかと、同意を得たいのだろう。
そんな目で見られて、兵助は一度経久へと視線を向けた。
別に良いと言うような目で見られて、「折角だし、買って貰えば良いよ」と言うと、三郎は嬉しそうに頷いてまた経久の方に向き直った。
「じゃあ、お願いします」
そう言って、にっこりと笑みを浮かべた。
結局青の小袖と、縹色の着物を買って貰うことになった。
「…随分、太っ腹なんですね」
と、最後に入った茶屋で団子を食べながら兵助が経久に話しかける。
三郎は今度は兵助の膝の上で餡子の入った餅を頬張っていた。
茶を啜りながら隣を見れば、経久はくつくつと楽しげに笑いを零していた。
「臣下に心を砕くのは、奴等を纏めるために必要な事よ」
「…でも、あの二つは三郎からって渡すんでしょう?」
そう言われて経久はまぁな、と頷いた。
元からそのつもりでここに来たのは、母親にと言った辺りから何となく解っていた。
多少は、鉢屋家の親子関係に心を砕いているのだろう。
仲裁と言うわけではないが、あまり良い物だとは思ってない気がした。
「儂から無理にでも渡さなければ、あれは受け取るか解らぬからな」
「あれって…三郎のお父さん、ですか?」
もしかして、と続けると経久は小さく頷いた。
「嬉しくても決して顔には出さないし、それを隠そうと突っぱねる事もあろう。それに、こんな事をしている暇があれば、修行に精を出せと言いかねんからな。本当に…」
はぁ、と溜息を吐きながら空を見る彼に兵助はやっぱりと一人ごちた。
この人が本当に好きなのは、三郎じゃなくて彼の父親じゃないのかとこの間からずっと思っていた。
三郎を見ているときの顔は、凄く優しいけれど、彼の父の話をする時は何処か影さえも落としている。
どうしても手に入らないのは、三郎じゃなくて多分父親の事だと何だか確信してしまった。
重ねた相手が、自分の好いた相手というのは許し難い事実だが。
「……言えばいいのに。ちゃんと伝えれば少しは変わるんじゃないんですか?」
何をとは言わずに、兵助は膝に乗せている三郎の頭を撫でながら言葉を零した。
それで巻きこまれた自分達は何だと言うのだろう。
それでも面と向かって怒れないのは、ここ数日の相手を見ていたからだろうか。
「変わる見込みがあるなら、とっくに言っておるわ」
「決めつけているだけじゃなくて?」
そう言って自分よりも幾分か背の高い相手を見上げれば、その顔は何処か寂しそうに歪んでいる。
彼は眉根を寄せて、ふ、と息を吐いた。
「若いと言うのは…良いことだな、兵助」
「は?」
と、思わず聞き返して経久は小さく笑うばかりだ。
「…明日、儂は出雲に発とう。幼い三郎を堪能させて貰ったからのう」
「堪能って…」
アンタ…と呟けば彼はすいと立ちあがった。
手にはここのお題を持っているのだろう、店員にそれを渡している。
「気が済んだと、そう言うことだ」
そう笑って、彼は行くぞと声を掛ける。
それに兵助も三郎を抱いたまま慌てて立ちあがった。
買い物も終わって、後は学園に帰るだけだった。
その上には、三郎と経久、轡を引くのはどういう訳か兵助だ。
不満そうにちらりと馬上を見上げれば、経久の膝の上で三郎がきゃっきゃと声を上げている。
(何で私がこんな事を……)
と、不満そうに唇を尖らせたのだった。
朝、三郎に起こされて直ぐに「町に行こう!」と楽しそうに言われた。
寝起き直ぐの頭ではなかなか理解できずに、首を傾げれば三郎が「お殿様が町に連れてってくれるって。だから兵助も一緒に行こう!」と言われて彼は直ぐに覚醒した。
町に?!三郎と経久が!?
思わず邪な事まで考えたのはさておき、彼はその申し出を二つ返事で了解してしまった。
可愛い三郎とあの経久を二人で行かせるものか、とさっと用意をして外に出れば、馬に乗った二人が自分の目の前に現れたのだった。
「轡を取れ、兵助。流石にこの馬に三人は乗れぬ」
そう言われて、兵助は思い切り嫌そうな顔をしたけれど、ここで引き返すという選択肢は無いような物だった。
渋々、彼は馬の轡を取ってここまで来ていた。
「へぇすけ、お殿様!見て見て、彼岸花が咲いてる。父上が好きな花だよ」
田圃に咲く花を指さしている。
真っ赤なそれは死人花などとも呼ばれたりするが、日中で見れば随分美しい。
「そうなのか?あやつの好きな花などよう知っておったのう」
「はい、父上が前にお散歩してたときにじっと見てたんです。それで、摘んで渡したら、お部屋に飾ってくれて。侍女に聞いたら好きなお花なんですよって言ってました」
それを覚えていたのだと笑みを浮かべながら話している。
(ホント、素直じゃないんだなあの人…)
と、一度会ったことのある三郎の父親を思い浮かべてしまった。
確かに冷たい印象を受けたけれど、息子の贈り物は大事に扱うらしい。
しかもそれを息子自身にははっきり伝えてない辺りが、親子だなぁと思ってしまう。
「そういや、今回は何で、町に行こうとか思ったんですか?別に市なんて珍しくも無いでしょうに…」
と、多少の嫌味も含めて言えば、経久は、んと微かに首を縦に振る。
「土産を買おうと思ってな」
「そんなの堺で寄り道でもすれば良いじゃないですか」
そう溜息を吐きながら言えば、経久は「風情の無い」と小さく呟いた。
「その土地の物を贈るのが良いのではないか。家臣達にも奥にもそれなりに好みの物を贈らねばならんし…」
「へぇ……って、アンタ結婚してたんですか?!」
うそぉ、と言いながら振り返れば楽しそうに笑みを浮かべる男の顔が目に入った。
それなのに小姓を色目的で囲おうとしたのか、と軽蔑の混じった目で見れば、微かにその表情も崩れた。
「この年で嫁を取らぬ方が珍しいわ」
「奥さんがいるのに、良くも三郎をそう言う意味で側におこうとか思えますね」
と、言うとくつくつと経久は喉の奥で笑った。
「萩はようできた女でなぁ。多少のことでは嫉妬などもせぬ。それに…武家では男色の方が優先される故。むしろ萩は男を側に置かぬ方が可笑しいと言ったくらいだからなぁ」
萩と言うのが奥方の名前らしい。
楽しげに話す様子を見ながらやはり武士は解らないと、兵助は眉根を寄せた。
「女は子供を残す為と実家と嫁ぎ先を繋ぐ為にいると、あれは言って憚らぬ。おまけに頭も良く、懐が広い。武家の女としては十二分よ」
「…理解しかねます」
其の言葉に経久はやんわりと目細めて笑みを浮かべた。
「そなたもどこぞに仕えるようになれば、嫌でも解る様になろう…そう言うものだ」
そんな風にはなりたくない、と口を開こうとして結局兵助はそれを止めた。
恐らく「子供」と一言言われて終わってしまうのだろう。
不満そうにしている彼の背中を見ながら、経久はまた楽しげに喉の奥で笑った。
町まで降りれば流石に目立つと、経久と三郎は馬を下りて歩くことにしたらしい。
前の方を手を繋いで歩いているのを見ながら、兵助はやっぱり馬を引いていた。
土産物屋に入るわけではなく、市に並んでいる物を見ながら経久は幾つか物を買っている。
土産を買いに来たと言うのは嘘ではないらしく、買ったものは全部馬の背に乗せている。
「萩にはこの小袖が良かろう…。出雲では見ぬ柄だ」
とか言いながら、幾つかの小袖を注文している。
何だかんだと奥方の事も好きなんだなぁと思いつつ、兵助は店の入り口付近で待っている。
三郎は三郎で、はしゃいだ様子で店の中を見て回っていた。
「へぇすけ、着物がいっぱいある」
「あぁ、まぁ着物屋さんだからね」
と、返事をするとそうなんだ、と呟いてまたぐるりと店の中を見渡した。
「物ってこういうところで買うんだね」
呟かれた言葉にん?と兵助は首を傾げながら腰を折る。
「何?三郎はこういうところ来たことがないの?」
「うん。市の中を通った事はあるけど、父上はお店に入ったりしなかったから。いっつも見てるだけだった」
「…そっか。物を壊したり、汚したりしなかったら大丈夫だからもっと見ておいで」
そう言うとうん、と三郎は大きく頷いて、また反物が飾ってある棚を見つめた。
その一つ、青い色の反物の棚をじっと見つめている。
「…青、好きなのか?」
そう尋ねると、こくんと首を縦に振った。
「私じゃなくて、母上が好きって聞いたことある。私が前に会った時も青の小袖を着てて、綺麗ですねって言ったらありがとうって言ってくれたの」
「三郎は、お母さんと一緒に住んでないのか?」
「住んでないよ。母上達は離れに居るの。兄上も姉上もみぃんな父上のいる母屋に住んでるから。母上達と一緒に居ると甘えるからって父上がだめって…」
そう言って、寂しそうにしながら青い小袖をじっと見つめた。
飾られている鮮やかな青がやけに目に残る気がする。
「三郎、そなた、小袖が欲しいのか?」
そう声を掛けられて、さっと三郎が経久を振り返った。
ちょいと手招きをされて、一度兵助の方を見てから彼は経久の方へと歩み寄っていく。
「欲しい訳じゃないけど、母上に似合うかなぁって思って…」
「そうか。なら、儂が買ってやろう」
「…お殿様が?」
ぽかんと、ちょっと意外そうにして三郎がまた小袖の方をみやった。
良いのだろうか、そんな風に迷っているように見える。
「でも…」
やっぱり悪いと言いたげなそれを制して、経久は幾つか見せるように店主に申しつけている。
「構わぬ。土産の一つや二つ増えたとて今更変わらぬかなな。どうせなら父の分も選べばいい」
「父上のも?」
あぁ、と促されて三郎はまた兵助を見やった。
本当に良いのかと、同意を得たいのだろう。
そんな目で見られて、兵助は一度経久へと視線を向けた。
別に良いと言うような目で見られて、「折角だし、買って貰えば良いよ」と言うと、三郎は嬉しそうに頷いてまた経久の方に向き直った。
「じゃあ、お願いします」
そう言って、にっこりと笑みを浮かべた。
結局青の小袖と、縹色の着物を買って貰うことになった。
「…随分、太っ腹なんですね」
と、最後に入った茶屋で団子を食べながら兵助が経久に話しかける。
三郎は今度は兵助の膝の上で餡子の入った餅を頬張っていた。
茶を啜りながら隣を見れば、経久はくつくつと楽しげに笑いを零していた。
「臣下に心を砕くのは、奴等を纏めるために必要な事よ」
「…でも、あの二つは三郎からって渡すんでしょう?」
そう言われて経久はまぁな、と頷いた。
元からそのつもりでここに来たのは、母親にと言った辺りから何となく解っていた。
多少は、鉢屋家の親子関係に心を砕いているのだろう。
仲裁と言うわけではないが、あまり良い物だとは思ってない気がした。
「儂から無理にでも渡さなければ、あれは受け取るか解らぬからな」
「あれって…三郎のお父さん、ですか?」
もしかして、と続けると経久は小さく頷いた。
「嬉しくても決して顔には出さないし、それを隠そうと突っぱねる事もあろう。それに、こんな事をしている暇があれば、修行に精を出せと言いかねんからな。本当に…」
はぁ、と溜息を吐きながら空を見る彼に兵助はやっぱりと一人ごちた。
この人が本当に好きなのは、三郎じゃなくて彼の父親じゃないのかとこの間からずっと思っていた。
三郎を見ているときの顔は、凄く優しいけれど、彼の父の話をする時は何処か影さえも落としている。
どうしても手に入らないのは、三郎じゃなくて多分父親の事だと何だか確信してしまった。
重ねた相手が、自分の好いた相手というのは許し難い事実だが。
「……言えばいいのに。ちゃんと伝えれば少しは変わるんじゃないんですか?」
何をとは言わずに、兵助は膝に乗せている三郎の頭を撫でながら言葉を零した。
それで巻きこまれた自分達は何だと言うのだろう。
それでも面と向かって怒れないのは、ここ数日の相手を見ていたからだろうか。
「変わる見込みがあるなら、とっくに言っておるわ」
「決めつけているだけじゃなくて?」
そう言って自分よりも幾分か背の高い相手を見上げれば、その顔は何処か寂しそうに歪んでいる。
彼は眉根を寄せて、ふ、と息を吐いた。
「若いと言うのは…良いことだな、兵助」
「は?」
と、思わず聞き返して経久は小さく笑うばかりだ。
「…明日、儂は出雲に発とう。幼い三郎を堪能させて貰ったからのう」
「堪能って…」
アンタ…と呟けば彼はすいと立ちあがった。
手にはここのお題を持っているのだろう、店員にそれを渡している。
「気が済んだと、そう言うことだ」
そう笑って、彼は行くぞと声を掛ける。
それに兵助も三郎を抱いたまま慌てて立ちあがった。
買い物も終わって、後は学園に帰るだけだった。