洪水の日にボートを浮かべて

「台風が近づいているそうですよ」
合同演習の時に滝夜叉丸がそう言ってて、多分喜八郎も同じ事を聞いたのだろう。
どういう訳か、寝具一式持って彼は俺の部屋に来たのだ。
「…台風が怖いので一緒にいて下さい」
と、無表情に言われたけど、同室は確かその情報をくれた筈の滝夜叉丸じゃ無かったっけと首を傾げたけど、喜八郎は言い出したら聞かないから良いよと返事をした。
それに追い出したい訳じゃないし、台風が不安なのは実際俺の方だった。
ここに来て初めての台風だし、どういう備えをすれば良いのか解らなかったから。
二人で教えられたとおりに備えをして、夜中を待つ。
やってきた台風のせいで雨戸がカタカタと大きく揺れていた。
「今年のは激しいねぇ、長屋壊れたりしないかなぁ」
呟くと、俺の隣で本を読んでいた喜八郎がふと顔を上げた。
彼は寝る前に本を読むのは習慣なんですと、蛸壺の堀方と書かれた本を拡げて読んでいた。
やっぱり好きなんだなぁと題名を見たときに思ったけど。
「大丈夫ですよ、もし壊れても避難するところはあるらしいので」
「…喜八郎、本当に台風怖いの?」
「…………怖いです」
何でそんなに間が空くのかなぁと思いつつ俺はぽふと枕に額を着いた。
「俺はちょっと怖いけどなぁ」
そう呟くと、喜八郎が本を置いた。
ぱたんと音がして、衣擦れの音がして、彼がこちらに顔を向けたのが解る。
「…どうしてですか?」
「昔ね、俺の家の近くの川が氾濫したから。水が凄い溢れてて、父さんは大丈夫って言ってたけど流石にドキドキしたことがあるからねぇ」
ちょっとだけ、と続けると喜八郎は「そうですか」と呟く。
「私は、それはちょっと見てみたいです。むしろ、そこに舟でも浮かべてみたいと思ったこともあります」
「…それ、死んじゃうよ?」
「でも、何処か遠くに行ける気がしませんか?」
そう言われれば、と俺の頭の中にあの洪水みたいな川が浮かぶ。
流れも速くて、色んな物がどんどん流れて行っていた。
確かに、怖いけれど、今思うと…喜八郎の言ってる事は少しだけ理解できるかも知れない。
「…喜八郎も一緒に来てくれるなら、行けそうだけどね」
「……それは凄い殺し文句ですね」
そう言って、喜八郎はにこりといつもの可愛らしい笑みを浮かべた。

end

綾タカでラブラブを目指してみました。
ラブラブって言うか、なんか綾タカ綾みたいになってしまった(笑)
この二人はほのぼのと変な会話をしてくれてると萌えてしまいます。