そして、貴方は来ないから

それをじっと見つめていたんです。

タカ丸さんは約束の時間の10分前には着いて、そこで久々知先輩を待っていた。
来ないと私もタカ丸さん自身も解っているのだろう。
さっき携帯を見ながら、彼は小さくため息をついていた。
きっと先輩からだ、来れなくなったごめんとでも書いてあるのだろうか。
それがタカ丸さんの表情から伺えれば私は出て行きたくなった。
待ち合わせの場所も、時間も、タカ丸さんはそれは嬉しそうに話してくれていたから。
だから、タカ丸さんが来るよりも先にここにいたのだ。
私も大概酔狂か馬鹿だと思う。
待ち合わせの場所で、自慢の前髪をくしゃりと掴んでタカ丸さんは座り込んでしまった。
それがあまりにも痛々しくて私は唇を噛む。
私はどうして久々知先輩がここに来ないのか知っている。
別に調べたわけではない。
ただ、なんとなくそんな気がしたのだ。
私はずっとタカ丸さんだけを見てきたから。
あの人が好きな待ち合わせの場所、それくらい知っている。
蹲ってしまった彼を見て、私はぐっと拳を握りしめた。
どうして、タカ丸さんの好きな人は私じゃないんだろう?
どうして、あの人はこんなに想われているのにこの人を選ばないんだろう?
私なら、私なら…こんな風に悲しい思いをさせたりしないのに。
そう思ったら体は勝手に動いていた。
一歩、一歩、私はタカ丸さんの方に歩を進めた。
その気配に彼もそっと顔を上げる。
「きはちろー?」
そう名前を呼ばれて私はこくりと肯いた。
「……迎えに、来ました」
「久々知先輩、やっぱり来てくれなかった」
「知ってます」
「見てたの?」
そう聞かれて私はやっぱり肯いた。
嘘を吐いたってどうにもなりはしない。
偶然来たなんて、そんな出来すぎた事なんてあるわけないんだ。
「…心配だったから」
そういうと、タカ丸さんはくしゃりと、悲しそうに笑って立ちあがった。
「じゃあ、どっか連れてってくれる?」
「タカ丸さん、デートコース考えてたんじゃないんですか?」
「久々知先輩と一緒に行く為に考えたところに喜八郎は行きたいの?」
そう聞かれて、私は迷いなく首を横に振った。
とんでもない、と言いたげなそれにタカ丸さんはふふと笑った。
「じゃあ、喜八郎が考えてくれなくちゃ」
「なら、どっか温かいところにでも行きましょう」
そう言って手を差し出すと、タカ丸さんはその手を取ってくれた。
きゅと、握ったその手は冷たくて、私の方が泣きそうになってしまった。

貴方が来ないなら、私がこの人をさらってしまおう。

end

後書き

ってことで、綾タカエンドです。
タカ→久々知はこっちだと絶対に報われないって言う…。
現パロの久々知は三郎命なので。
この後、二人はバカップルへと変貌していけばいいと思います(え)