「すっごく綺麗だよ、鉢屋君」
「ありがとうございます、タカ丸さん」
そう言って自分の髪を整えて、化粧までしてくれた友人の美容師へと視線を向けた。
自分で選んだ白いウェディングドレスを身につけて、白いヴェールで顔を覆った。
この日が来るのを心待ちに、なんて女性のような心境にはなれないが、幸せと言う言葉を否定することなど出来なかった。
隣の部屋では、既に三人の花婿がスタンバイしているらしかった。
両親に挨拶も済ませて、今彼らは会場へと移動していた。
家族と少ない友人達だけで、式だけ挙げると言うのが約束だった。
大勢を呼ぶ気はなくて、ただ、けじめをつけるためと言って式を上げることになったのだが。
いざ、こうして鏡の前に座って花嫁姿という、ちょっと前まで想像すらしていなかった事態に三郎は笑いしかこぼせなかった。
不思議な心境、というのが一番しっくりくるのだ。
後ろで笑っているタカ丸もそれを経験したと言う。
「俺だって、花嫁姿なんてあるわけないって思ってたんだもん。鉢屋君の気持解るよ」
昨日の夜、部屋に来て話をしてくれたのは本当に良かったと思う。
「さぁ、鉢屋君、時間だよ。花婿さん達が来るよ」
そう言われて三郎は小さくうなずいた。
「三郎―」
と、扉の向こうで自分を呼ぶ声が聞こえた。
ヴァージンロードを歩くなんて、死んでも嫌だと言い張ったのが良かったのか、式自体はキリスト教のそれとはかけ離れていた。
衣装はそれだけれど、四人で指輪を交換して、司会者の声を聞きながら両親たちへと挨拶をするだけ。
たったそれだけだが、微かにこみ上げてくるものがあった。
この間から不思議としか言い表せない感情だけが浮かび上がっては、全て幸せと言う言葉につながっていく。
ふと、手に暖かい感触があって、視線を其方へと向けた。
にこり、と隣で柔らかい笑みを浮かべて自分の手を握るのは雷蔵だ。
従兄弟で、生まれた時からずっと一緒にいた。
兄弟とも言えるような彼とは、今日から夫婦になる。
「あ、私も」
と、声が聞こえてもう片方の手にも温もりが触れて、三郎は其方へも視線を向けた。
大学で知り合った友人の兵助も、今や自分の夫だ。
悩み事とか、相談ばかりしていた気がする。
「あ、二人ともずるいぞ。俺だって」
そう言って悔しそうに此方を見てくるもう一人へも視線を向ける。
竹谷も兵助と同じで、大学で知り合った。
一番、一緒に馬鹿をやった気がする。
どうして、三人とも、自分なんかを選んで…自分を選んでくれたのだろうと悩んだこともある。
本当は夢じゃないのかと、あの告白された夜から自分は夢を見ているんじゃないかと思った事だってある。
でも、こうして自分の手を握ってくれるのも、声をかけてくれるのも…将来を誓ってくれるのも全部本当なのだ。
「…幸せになろうね」
そう言って、三郎は手をひかれた。
最後はブーケトスで締めくくろうと、提案したのは兵助だった。
今だって十分幸せだと言いたかったけれど、それは喉が詰まって言えなかった。
手を惹かれて教会の出口へと歩んでいく。
大きな鐘の音が響いて、目の前には青空とそこを舞う鳩が見えた。
「ほら、ブーケを誰かに。次の花嫁を決めないと」
「幸せは分けないとな!」
そう促されて三郎は肯いた。
背中を向けて、ぽーんと白いブーケを放る。
わぁという歓声と沢山の拍手の中で、確かに自分は幸せだと三郎は少しだけ泣きそうになった。