「憂鬱だ…」
そう零した三郎を見て、雷蔵が苦笑をこぼした。
結婚が決まって、式だのちょっとしたパーティだの、新婚旅行だのの予定を立てていたのだが、ぐだっとテーブルに突っ伏して彼がそう零したのだ。
そう言えば最近はあまり調子が良くないと言っていたけれど。
まさか、こんなにまでとは思っていなかったのだ。
兵助は取材でちょっと遠くにいるし、竹谷は結婚式の前ということで仕事に追われて家には帰っていない。
最近移り住んだ4LDKには今、雷蔵と三郎の二人しかいないのだ。
「そんなに式が嫌なの?」
そう問い返すと、いや、と言いながら三郎が体を起こす。
目の前にある新婚旅行の予定表とパーティのそれを苦々しげに見れば、またため息をついた。
「むしろ、ちゃんと出来るか不安っていうか、なんていうか」
なんていえばいいんだろう、と言うように視線を書類へと移した。
そこに書かれている計画は4人でしっかり練ったものだし、実際不安と言ったって具体的にどうというのはないのだ。
あんまりにも沈んだ様子の三郎を見れば、雷蔵もどうしたものかと首をかしげた。
ここ最近、ずっとこの調子で所謂マリッジブルーの状態なのだ。
同性結婚は最近ではメジャーになっているし、身内でも結構な割合で結婚をしている。
だが、重婚というのは今でもまだ珍しいケースなのだ。
そのせいか、自分も結構会社や周りから騒がれたし、両親にも驚かれた。
だが、事と次第を話せばどの両親も難色を示しても、反対されたりはしなかった。
全員、何だかんだと幸せになればそれでと言ってくれたのだ。
だが、その他の騒ぎ方がひどく、一時期は会社に行くのも億劫だったのだが。
「もう、毎日毎日、いろいろ聞かれるし…おめでとうと言われるのは嬉しいけれど。正直疲れるよ」
そう言って、三郎はここ数日殆ど会社に行っていないのだ。
もともと話題の中心になるのは良いけれど、しつこくされるのが苦手な彼だ、そうなっても仕方がないのだけれど。
雷蔵は席を立って、ソファへと座った。
「三郎、こっち」
そう言って自分の膝を叩いて呼んでやれば、素直に隣に座って、そのままぽんと膝の頭を乗せた。
自分と同系色の髪にそっと手を触れれば、甘えるようにその髪が震える。
「…何を聞かれるの?」
「どうして結婚を決めたの?とか、彼氏さん達の何処が好きなの?とか」
「月並みじゃないか…」
気にする必要ないだろ?と続ければ、他にもあると言うように唇を尖らせた。
「…ハーレムみたいよね、それに夜は大変でしょう?とか、言われてみろ。下世話にもほどがあると思わないか?」
悪いと思っても、思わず雷蔵は噴き出してしまった。
何それ、と言うようにあはははと盛大に笑いだせば、がばりと三郎が起き上がる。
「笑い事じゃないだろう?聞かれるこっちの身にもなってくれ。何でそんなプライベートな事まで聞かれなきゃいけないんだ!」
おかしいだろう?!といえば、あぁごめんと雷蔵も何とか笑いを抑え込んだ。
それにしたって、と口元を押さえて小さく息を整える。
「ハーレムなんて…まるで三郎が僕らを嫁にもらうみたいじゃないか」
「同性に嫁も何もあるか!そりゃぁ…現状を見れば私が嫁になるのかもしれないけど…」
「まぁ、間違いないだろうね」
そう返事をすれば、はぁと拗ねたようにため息をついて三郎はまた雷蔵の膝へと頭を乗せた。
「でも、昼時にそんな話をされるんだぞ?しかも、男女関係なくどうだどうだと…もう沢山だ」
いやいやと言うように雷蔵の膝に額をついて、首を横に振る様子を見れば、苦笑をこぼしてしまう。
確かに、彼はそんなことを声高に言う方ではないのだけれど。
それにしても、職場によってそこまで違うのかと、もう二人の自分の"兄弟"を思い出す。
兵助は家で仕事をするからいいけれど、竹谷はどうなのだろうか。
ブルーなどという言葉からは程遠い様子だったから、話を振られても適当に流したり、嬉々として話しているのかもしれない。
「そんなの気にしなければいいじゃない。幸せになるんだ、良いだろう?って三郎なら言えるだろう?」
そう言って悪戯をするように首筋をくすぐってやれば、幽かに肩がふるえている。
「…最初は適当にあしらってたさ。でも、我慢の限界があるじゃないか、誰だって」
そう言われればまぁねと雷蔵も小さく笑った。
「有給も溜まっていたし、私は暫く引き籠りを楽しむよ。…結婚自体は嫌じゃないんだ」
それはわかってくれるよなと言うように、夫を見上げればあぁ、解るよと言うようにうなずいている。
三郎、と名前を呼ばれてそっと頬に手を添えられる。
それに甘えるように体を起こした。
「…そう。僕も長い休みを取ってるし、兵助は取材旅行中だし、ハチも出張だしね」
独り占め、といたずらっぽく言って雷蔵はそっと三郎の頬に口づける。
ちゅと音をたてて離れればふふとその肩が柔らかく揺れた。
「…雷蔵が言うと、なんかやらしいな」
「じゃあ、その、やらしいことする?」
そう耳元で囁いてやれば「夜にな」と返事が返ってきたのだった。