4.押しかけられて、湯船の中で


三郎の至福の瞬間は風呂に入っている時である。兵助手製の夕飯を食べて、それからゆったりと湯船につかる。だから一番風呂は大抵三郎の物なのだが…。
が、今日は雷蔵が入っていた。
リビングで不貞腐れてテレビを見ていても、三郎の耳には水音が聞こえてきて不機嫌が増すばかりだった。
「たまには僕が一番風呂欲しいな」
と言われてしまえば、三郎は雷蔵相手では断れない。とはいえ、機嫌が悪くなるのは止められない。たまには一番が良いと言われてしまっても、あの少しだけ固い感じのお湯につかって、体の汚れを落とす感覚は今日は味わえないのだ。
「……雷蔵の為、だけど」
やはり我慢できない、と三郎はぎゅとクッションを抱きしめた。やっぱりあのお湯につかりたい、でも今更出ろとも言えない。なら、と三郎はソファから立ち上がった。
ぱたぱたと音がする、と久しぶりに一番風呂をもらった雷蔵が脱衣所を見やった。今日は家に二人しかいない、という事はまちがいなく三郎だ。ふふ、と彼は楽しげに笑みを零した。
(本当に、三郎はこういう所扱いやすいよなぁ)
と、雷蔵はこうもあっさり自分の思う通りになった事に満足した。からり、と風呂場のドアが開いて少しだけ顔を赤らめた三郎がタオルを持ってたっていた。
「三郎?どうしたの?」
と、わざとらしく尋ねてみれば三郎はやはり罰が悪そうに「私も、入る」と返事をした。それに良いよ、と楽しげに返事をすれば、彼は嬉しそうに中に入って、後ろ手に扉を閉めた。

体を洗い終わって、三郎はちらりと湯船を見つめた。雷蔵、何時まで入ってるんだろう、と…。三郎は体を洗うのが永い。丁寧に擦って、髪もちゃんとトリートメントまでするのだ。そして、雷蔵はそれを楽しそうに見ていたわけだが。それでものぼせるんじゃないのだろうか、と思う。
「雷蔵…、そんなに見つめられると入りにくいんだけど」
「一緒に入るって言ったのは、三郎でしょ?」
「そう、だけど…」
「ほら、入るんでしょ?」
一緒に、と続ければ三郎は「うん…」と小さくうなずいた。何だろう、この微妙に嫌な予感は、と三郎はじとりと雷蔵を見つめた。何かする気じゃないのかと言わんばかりの視線に雷蔵は笑いを抑えるのに必死だ。何せ彼のその予想は当たっているのだから。なにもしないわけがない。湯は後で張り変えればいいのだから。後で兵助に水道代とかガス代とかで言われるかもしれないが、その辺は話術で何とかしようと、やはり大雑把に事を構えている。
そろり、と湯の中に入ってくる三郎を見やりつつ、まだ我慢と自身に言い聞かせる。
「ほら、おいで」
そう言って彼の腕を取ってゆっくりと自分の膝の上に座らせた。お湯の力も手伝ってか、何時もより三郎が軽く感じた。がりがり、と言えば本人は怒りそうだが、肋が浮いている腹へと視線を下ろす。自分の膝をまたぐように座って、三郎は何処か居たたまれなさそうに視線を横へと滑らせていた。
「どうしたの?三郎?」
と、態と耳元へと息を吹き込むように囁いてやれば、びくりと体が震える。耳が弱いのは何時も通り、低く囁いてやれば彼が流されるのは知っていた。それが他の人間に対してもそうなのだからこれは少しばかり厄介だなぁと思っていた。
「どう…も、しない」
そんな申し訳程度の抵抗を喉の奥でだけで笑った。そう、と短く返事をして片方の手で、三郎の肩へと湯をかけてやる。ちゃぷり、と水が跳ねる音が何度も風呂場に響く。
(何も、してこない…)
とうの三郎はと言えば、警戒していたにも関わらず何もしてこない雷蔵に何処か肩透かしを食らった気分だった。さっき、耳元でささやかれた時はそのまま流されてもいいかもと思ってしまったのが余計に行けなかったのかもしれない。ぐずぐずと腹の奥で何かがくすぶっているような気がするのだ。
(居たたまれ、ない)
う、と口元をへの字に曲げてしまった。が、それを見て内心ほくそ笑んだのは雷蔵の方だった。三郎の事は何もかも、それこそ他の夫達よりも知っていると自負している(実際付き合いは一番長い)。もうひと押しかな、と雷蔵はお湯をかけている手をするりと肋へと伸ばした。くっきりと浮き上がった肋骨は三郎の性感帯の一つだ。と言っても、こんなのに気が着くのは雷蔵くらいだろう。体を支える振りをして雷蔵はその肋をなぞる様に手を滑らせる。するすると親指でその上を撫でれば明らかに三郎の肩が跳ねる。
「ら、いぞう…っ」
「肋、触ってるだけだよ?」
ほら、と言って今度はその肋に唇を寄せた。ぬるりとした舌が、お湯でぬれた三郎の肌を撫でる。背筋がぞくりとして、は、と甘い息がこぼれた。
「…ね、三郎。ここだけしか触ってないでしょう?」
そう、上目づかいに見つめられて三郎はやはり居たたまれずにぎゅとそのまま雷蔵の頭にしがみついた。あぁ、もうっ…!と声には出さないし、言葉に出来ない思いが頭を駆け巡る。
「三郎、ここだけでいいの?」
そうくぐもった声で問われて、三郎はぎゅうとまた雷蔵の頭にしがみつく手に力を込めた。
「三郎?」
ほら、言ってごらん?と肋よりも更に上にある乳首を食まれて三郎はもう観念するしかなかった。
「…他の所も、触って、雷蔵」
縋る様に声を零せば、此方を見上げる雷蔵の顔はやけに良い顔だった。


ちゃぷりとまたお湯が跳ねる音がする。風呂場は声が響くから嫌だと言ったのは随分前だった気もした。
「ほら、解る?お湯中に入ってるよ?」
「やっ…、やだ、雷蔵っ、あつい…」
湯の中で三郎の中に指を突っ込んで、その孔を開いてやればこぽこぽとお湯が中へと入っていく。それ潤滑油代わりに何度も中を突いてやればそのたびに声が上がった。もう既にぐったりと自分に体を預けている三郎の体を支えながら、雷蔵自身もその中に入りたくて仕方がなかった。でも、もう少し湯と指でもだえる彼を見ているのも悪くない。
「…ふ、やだやだ、逆上せる、から…っ、」
「大丈夫、そしたら僕が部屋まで連れてくから」
「……やだ、みんなに見られるっ」
「今更でしょ?あぁそれとも見られて発情されたら困る?そうだよねぇ、流石に4人相手とか三郎死んじゃうよね」
でも、一回やってみたいよね、みんなで。と不穏当極まりない言葉が聞こえてきて三郎の顔が真っ赤から真っ青に変わる勢いだ。幾らなんでもそれは無茶だ。一度だけ4Pはしたことがあるが、次の日二日酔いと腰の痛みで起き上がることもままならず一日ベッドで過ごした。その悪夢が頭をよぎる。
「や、全員ととか、む、りぃっ」
「でも誰かが仲間外れなんて可哀相でしょ?家族なのになぁ」
そんな事を言いながらも雷蔵の手は止まらない。お湯の力で奥まで届いた指は三郎の前立腺をぐりぐりと押しつぶしている。
「ひっ、ぁああっ、待って、雷蔵…、そこ、駄目っ、私、イっちゃうっ、お湯、汚れちゃうっ」
「後で張り変えれば大丈夫」
だから、いっちゃいなよ、と雷蔵は耳元で囁きながら更に指の力を強くした。ぎゅうぅと更に三郎は雷蔵に強くしがみついて、達するのをこらえようとする。ダメ、ダメ、とうわ言のように繰り返しながら、三郎は片方の手をそっと既に育ち切っている雷蔵自身へと這わせた。
「や、私、雷蔵と、するなら、これで、イきたいっ…、指でなんて、やぁ…っ!」
と、甘えるような声を出されて雷蔵は思わず舌打ちした。本当なこのまま一回いかせてからと思っていたのに。こんな風にオネダリされて我慢など出来るわけがない。
「らい、ぞう?」
怒った?と舌打ちを聞いた三郎が不安そうに問う。
「怒ってないよ、ただ、三郎がそんな事言うから」
「ぁ、あ、らいぞう、…っ」
ひたりと、お湯の中でも解るくらいに熱いものが指の代わりに三郎の中へと入ってくる。そのたびにぞくぞくと背筋に快感が走って、目の焦点が合わなくなる。
「僕も我慢できなくなっちゃったなぁって」
「ぁ、あああっ、あ、だめ、イっちゃうっ、イっちゃう、らいぞうっ」
びくりと自分の膝を跨いでいた三郎の足が痙攣して、同時に入れたばかりの自身が締め付けられる。きゅうと一気に収縮した内壁に雷蔵は息を詰めた。
あ、あ、あ、と精を吐き出している三郎を見上げながらこのまま揺さぶったらどうなるかなぁと雷蔵は考えた。


風呂から上がるころには三郎は完全に逆上せてしまって、既に立てなくなっていた。結局最初に行ったように雷蔵が部屋まで運んでいる。途中、次に入る予定だったらしい兵助とすれ違った。
「……雷蔵、せめて最後の時にしてくれよ」
と、呆れた様に言われて雷蔵は「あー…、ごめんね?」と苦笑を浮かべながら謝ったのだった。