八左ヱ門の部屋は1DKのそれはそれは平凡なアパートである。それでもどうしても背もたれだけ欲しくて、座椅子を買った。それをベッドの横に置いて、そこに座ってテレビを見るのが八左ヱ門の日課である。
そうこうしているうちに彼には彼女―基彼氏かもしれないが―が出来た。愛しの鉢屋三郎である。彼は自分とは他に二人、付き合っている相手が居て、暇があればそこを止まり歩いていた。それが嫌ではないかと問われれば、八左ヱ門は「まぁ、全員合意の上だし」と苦笑いで返事をするだろう。
そんなわけで、今八左ヱ門の家には三郎がおり、そしてその愛しの彼は今、八左ヱ門の膝の上に居た。胡坐をかけと命令されて素直に従えば、三郎はそこにすとんと腰をおろして膝を抱えるようにして座った。そして、この日以降、二人でテレビを見る時はこの体勢になったのである。
だが、この日は少し違って、三郎が何処か青ざめた様子で八左ヱ門の所に駆け込んできた。手には大量の…AVを持って。
「三郎…お前さぁ…」
呆れたようにそのAVの山を見て、ため息をつけば三郎は真っ青な顔のまま「ヤバいんだ…」と、呟いた。何が、と尋ねれば三郎の眼にはうっすら涙の膜が張られている。
「私…女じゃ勃たなくなりそうで、怖いんだ」
と、そう落された言葉に八左ヱ門も一気に血の気が引いた。それはヤバい、と。確かに自分と三郎は恋人同士だが、厳密にはゲイではない。というか、バイでありたいのだ。しかも三郎も自分もかつては女性と付き合った経験もあるのだから、今になってそれが機能しないと言うのは正直、ショックである。それは勿論、八左ヱ門も同じだった。恐らく、これを聞けば雷蔵と兵助はあの端正な笑顔で「良い事じゃないか」と言い放つに違いなかった。
それが容易に想像できたのもあり、三郎は八左ヱ門の部屋に転がり込んできたのだろう。
「……だから頼むハチ、一緒にAV見よう」
そう言われて、八左ヱ門は「お、おう」とちょっとだけドキドキしながら肯いたのだった。
というわけで、八左ヱ門は今、膝に三郎を乗せたままAVを見ている。画面の中では、茶髪の女性が髪を振り乱してあえいでいる。それを視界に入れつつも彼は、膝の上の三郎の様子が気になって仕方がなかった。こういうので勃たなくなったらどうしよう、などと言っていた彼だが、久しぶりに見るものに釘づけになっているようには見えなかった。視線が画面に行くのは解るのだが、ぎゅと膝を閉じて視線は主にカーペットに堕ちている気がする。
「三郎?」
そう、耳元でささやけばびくんとその体が跳ねた。ぎゅ、と抱きしめる腕に力を込めれば首筋まで赤い顔が此方を振り返る。涙でうるんだその眼に、八左ヱ門が欲情しないわけがないのだ。こくりと、息を飲めばそのまま三郎の耳たぶに口付る。
「…ハチ、」
そう言って、きゅと袖を握られて甘えるように三郎は自分にすり寄ってくる。茶色の柔らかな髪が首筋に触れて擽ったい。
体を抱いていた腕をそのまま、三郎の足の間に滑らせれば、そこは布越しでも解るくらいに熱を持っている。何度も何度も撫で上げれば、切なそうな息が口から零れていた。
「ハチ、…声、が、」
隣に聞こえるとでも言いたいのだろう。壁はそこまで薄くはないんだけど、と思いつつも八左ヱ門の中に悪戯心が沸いた。今、画面ではAVの真っ最中、甲高い女の喘ぎ声が聞こえてくる。
「じゃ、音量上げるか」
そう言うと三郎は、え、と零した。近くにあったリモコンに手を伸ばして、音量を一気に上げて行く。テレビのスピーカーから聞こえる卑猥な音や声が、部屋中に溢れかえった。
「これなら隣だって、俺が女をつれこんでるって思うだろ?」
「…ホントにつれこんだら、殺してやる」
んなことしねぇよ、と言えば三郎はそのまま唇を寄せてきた。そのまま横抱きにするようになって、深く唇を合わせた。
結局、一方的に脱がされたのは三郎の方だ。せっかくAVあるんだから、と言われてそれの真似をしてみようなんて、八左ヱ門にしては斬新なアイデアだ、と三郎は少しだけ冷静な頭で考えた。部屋中に響く自分のものではない水音と喘ぎ声、それがやけに羞恥心を煽った。自分では女ではないから勝手に濡れることはない、おまけに柔らかい胸もない、何処か劣等感を覚えてしまうが、それを言えば彼は「そんなもん、いらねぇ」と言い切った。
自分を背後から抱えて、上から八左ヱ門自身の上に降ろされて、大きく足を開かされた格好になれば、流石に泣きが入りそうになった。だって、目の前では同じ格好の女が揺さぶられているのだから。
「なぁ、三郎、ちゃんとAV見て勃った?」
「…ん、ぁ、ぁ、勃ってない、なら、…こんなん、してなぁ、いっ」
「俺はさぁ、三郎、AV見てるお前に勃った」
そう耳元で囁かれて、きゅと立ち上がった自身を握られればびくと広げられた片足が震えた。
「なぁ、三郎、お前本当に、AVに反応したの?」
「…ど、いう、意味…、あぁ、んっ!」
ゆさりと体を揺すられれば口からはまた甘い声が零れる。本当は、違うのだ。八左ヱ門と一緒に見ているという状況に興奮した。後ろで感じる体温が段々と上がってきて、腰に当たる彼自身が熱を持って、その感覚に体が熱くなった。そして同時に画面に、大衆に向けられるこの女に嫉妬した。
「お前は俺に感じてくれてないのかなって思って」
こいつに嫉妬した、と八左ヱ門はじっと画面を睨みつけた。それが、暗い部屋の明るい画面にうっすらと映って、三郎はきゅぅと胸が痛くなる。あぁ、同じ事なのか、と嬉しくなったが、それを言葉になど出来なかった。ぼやけた思考の中で必死に、後ろに向かって腕を伸ばして、首を伸ばして、八左ヱ門の顔を捕まえる。そして、ちゅ、と音を立てて唇を重ねた。
「ハチ…もっと、して。…あの女より、酷く、私を、犯せよ、」
なぁ、と甘く艶っぽく、彼を誘えばその眼は獣の様な欲望の色を宿した。
そのまま床に四這いにされて、腰を捕まえられた。何度も何度も、力任せに、彼の欲望のままに腰を打ちつけられた。もう、テレビの事など蚊帳の外だ。何度も突き上げられて、前をいじられて、目の前が真っ白になっていく。羞恥などとっくに消え失せてしまった。
「三郎、…、好きだ、」
「ぁ、あん、ハチ、ハチィっ、もう、イくっ、ぁあああっ」
「俺も、三郎…」
愛してる、とその言葉は彼が自分の中に白濁を注ぐ時の言葉だ。びくん、と体を痙攣させて三郎はカーペットの上に熱い物を零して、中に注がれる同じものにうっとりと眼を細めた。後ろで愛しそうに頬を寄せてくる男に求められることを、幸せだとそんな風に思った。
「AVプレイ、僕もやってみたいな」
と、後日、もっと濃い内容のビデオを持って雷蔵に笑顔で迫られ、三郎は八左ヱ門をぼこる事を心に誓うことになるのだが。