煙の中の駆け引き

どぉんという爆音が戦場に木霊している。
土煙が上がるのを遠目に見ながら、口を覆う布を軽く引いた。
吸い込む空気は少し埃っぽく、眉間に皺が寄った。
ここで人が死ぬのは何時ものことだ。
もはや、何時からそれに対して心を痛めなくなったのかなんて覚えていない。
最初に割り切ったのは三郎だった。
割り切ったというよりは、もう既に割り切っていたのかもしれない。
人が死ぬのは当然で、一々心を痛める必要などないと彼は言った。
それでもその眼は、今にも泣きそうだったのを覚えている。
その次は竹谷だった。
彼は人が死ぬのを見て「動物と一緒だ」と小さくつぶやいた。
はじめて人を殺した日、彼と兵助が同じ組で任務を共にした。
生物委員で、時々死にかけたり病気を持ってきた動物を殺すことがあった彼の言葉はやけに腹にきた。
胸ではなく、腹の底にずぅんとその言葉は落ちて、兵助の方が泣きそうになってしまった。
その顔を見て竹谷が慌てて「違う、変な意味じゃねぇよ。ただ、一生懸命生きて、死にたくないって思うのが動物と一緒って、そう思っただけでさ!」だから、泣くなよと続けられれば兵助はようやく自分が泣いているのに気がついた。
そして、次は兵助の番だった。
あれは戦場だったと今でもはっきり覚えている。
戦場での戦力調査の実習の時、目の前での殺し合いを見た。
自分で人を殺したことは幾度もあり、その度にその日の食事は喉を通らなかった。
ばたばたと内臓と血をまき散らしながら死んでいく人間は、まるで人形のようにも見えた。
一人が殺せば、彼の敵が後ろから獲物を狙う。
刃は血で錆びて、もう使い物にならないはずのにそれは彼らの唯一縋るものなのだ。
何と虚しく、何と馬鹿馬鹿しい宴なのかと思った。
戦場に渦巻くのは「死にたくない」という思い、それだけだった。
それが何故か、その日だけはすんなりと心の中に入ってきたのだ。
彼等は自分たちと同じなのだと、ふと今更にそんな事に気がついたのだ。
「私も死にたくないんだ」
その日の夕食はすんなりと胃に納まってくれた。
そして最後は雷蔵だった。
彼は人を殺すことも人が死ぬことも未だに嘆いている。
しかし、それでも刃を手にして殺す時は躊躇などしないのだ。
そして全部終わった後に嘆く。
そんな時、必ず三郎は兵助の部屋に泊まりにくる。
「また泣いてるんだ、アイツは」
と、小さくこぼした時の三郎の顔は、彼の方が泣きそうだった。
そんな雷蔵が泣かなくなったのは、彼自身に命の危機が迫った時だったらしい。
ろ組だけの実習の時、雷蔵は敵の忍者と対して、命を奪われそうになった。
帰ってきた時、彼は満身創痍で何とか一命を取り留めているという状態で、すぐに保健室に運ばれた。
慌ただしく保健委員や先生達が彼を手当てするのを竹谷と、三郎と兵助の三人で見守った。
雷蔵が目を覚ました時、最初に泣いたのは三郎だった。
彼の手を握り、「良かった」と繰り返すその姿には普段の飄々とした彼はどこにもいなかった。
それを見ながら雷蔵はぽつりと「…僕は、生きてるんだね」とそう言って泣いた。
それ以降、三郎が兵助の部屋に泊まりにくることはなくなった。
そんなことを思い出しながら、兵助は戦場を見下ろした。
ここからの景色は嫌いではない。
命のやり取りが行われるこの場には、生と死の両方があるのだから。
今、自分の仲間たちはあの噴煙の中でその取引をしているのだ。
それを自分も手伝わなければいけない。
きっ、と兵助はその戦場を睨むように見つめた。
断末魔と、血と、肉と、内臓と、生と死があふれる場所。
それに一度だけ息をのんで、彼は地面を蹴った。


end

後書き

久しぶりに降臨したのでがががっと休みを使って書いてしまいました。
久しぶりなのに、そう言う要素が全くなくてすいません;;
一応、雷鉢っぽくはあるの、だろうか?(ええっ)
でも、こういう語りとかが一番似合いそうなのは久々知だなぁと個人的に思っております。