忠誠を誓う

貴方にこの身をささげよう。

尼子に仕えることになった日、三郎は経久の部屋へと出向いた。
親からの命令とは言え、元より仕えると決めた主は彼だけだったせいか、申し出は二つ返事で承諾した。
ぜひ、傍仕えの忍に…。
それが経久からの申し出だった。
最初に出会った時の印象は最悪だったが、今では自分の使えるべき主だと心から思っている。
恋仲の兵助とはまた違う、好意を抱いているのは確かだった。
心酔かと言われればきっと違うというのだろう。
ただ、きっと自分が死ぬなら兵助か彼のためなのだろうと、そんな確信ばかりがあるのだ。
部屋に入れば、経久は筆仕事に精を出していた。
するすると流れるように書状を書く後姿に「鉢屋三郎、参りました」と声をかければ、寝巻に羽織という姿の彼がこちらを向いた。
「こんな夜中に、何かあるのか?」
中にと言われれば、開けた障子を閉めて中に入った。
しぃんとした空気の中で、経久はじっと三郎を見つめている。
「今宵は…」
それを打ち破るように三郎が口を開けば、経久は何を言うでもなくじっと聞いているようだった。
「お館様に、見ていただこうと思いまして」
「……そちの、素顔か?」
そう問い返えされて、三郎はこくんとうなずいた。
鉢屋家の掟は、家を嫌っていても絶対だ。
特に、ここはお膝元と言っていい。
だが、それを差し引いても彼は経久に自分の顔を見ていてほしかった。
兵助には見せたけれど、彼にはいまだ見せていない。
命を捨てるに値する主君ならば、その忠誠の証に決して血縁にしか明かしてはいけないといわれている素顔を見せても良いと思ったのだ。
「私は、お館様に命を預けると決めました。ですから、私の顔を見て頂きたいと思って…」
それでここまで来たというのを暗に含ませる。
それに経久は驚いたようにかすかに目を見開いた。
「…そう、か」
漸く絞り出した経久の言葉はそれだった。
こちらもかなり動揺しているらしい。
まさか本当に見せてくれる気になったのだとは俄かに信じがたいのかもしれない。
「…父がお館様に顔を見せたのは知ってます。だから、というわけではないんです。私が心から仕えるべきだと思ったのが、貴方だから」
だから見せたいのだと視線で訴えれば、経久の顔から驚愕の色が消えた。
真剣な目で見つめられれば、三郎はすと自分の顔に手を当てる。
この下にある、おそらくは父によく似た自分の顔を相手に晒すのだ。
経久はそれをじっと見つめている。
髪は一度見せたことがある、だが、この下は…。
これが私の忠誠の証だと、三郎は自分の本当の顔で経久を見つめたのだった。

end

経久+鉢屋で忠誠を誓う、です。妄想の塊ページをご覧でない方には不親切になっちゃったんですが、ちょっとどうしても書きたくて書いてしまいました。