視線を合わせられない

「だから、私は絶対三郎にはピンクだと思うんだ」
これ、と差し出されたのは薄ピンクのウェディングドレスだった。
「僕は絶対こっちの青がいいって思うんだけどね」
そしてその隣に視線を向ければ雷蔵が水色のそれを持っている。
「俺は、やっぱりこれ!三三九度やりたいんだよなぁ」
ほら、とその隣で竹谷が白無垢を差し出していた。
さぁ、どれが良いと三人の夫たちは満面の笑みで、三郎に迫っていた。
「なぁ、どうして私もタキシードって選択肢はないんだ?」
「「「だって、三郎だし」」」
「どういう意味だよ!!」
「え、だって、」
「そりゃぁなぁ」
「まぁ、そのままっていうか…」
と、三人は三人で何か含みのあるようなことを言っている。
その様子に三郎ははぁ、とため息をついてしまった。
結婚式を挙げるとなってしまったため、彼らは今式場の衣装室へと衣装選びに来ていた。
同性同士の結婚も最近では普通になったので、男性用のウェディングドレスも置いているらしい。
それを聞きつけてここまでくれば、ずらりと並んだドレスの山が出てきたのだ。
しかし、普通よりも体格の小さい三郎は女性用のSかMくらいでちょうどいいということが判明してしまい、さらに多くの選択肢が用意されてしまったのだった。
それに機嫌を良くしたのは三人の夫たちだった。
ここぞとばかりに三郎にドレスを進めてくるのである。
全員でタキシードでいいじゃないか!と主張したけれど、披露宴をしないというのを条件にドレスを着る約束をしたと却下された。
それでも往生際悪く、時々はタキシードを勧めてみるけれど無駄であるらしい。
もういいや、と三郎は結局そのまま先ほどの会話を聞いていたのだが、彼らは誰も譲る気はないらしい。
「だから、三郎はこういうタイトな寒色系が似合うよ。ほっそりしてるんだから」
「だからだろう?こういう可愛いのも似合う。折角なんだから、フリルとかたくさん使ったドレスの方がいい」
「解ってねぇなぁお前ら。白無垢で清楚な方が絶対良いって」
「白無垢なんて三郎の顔が隠れるじゃないか。やっぱりこういうマーメイドドレスが」
「白無垢はいいんだぞ!あのちょっと顔が覗くのがいいんじゃないか。チラリズムってのが雷蔵には理解できねーの?」
「白無垢もマーメイドも両方却下。やっぱりこういうゴージャスなのがだな」
そんな問答を係員と遠くに聞きながら、三郎はふと隣を見た。
大量にあるドレスの中で、白くておとなし目のデザインのものを見つけたのだ。
胸元はそこまで広くはないが、そこにはきれいな刺繍があしらってある。
腰のあたりはほっそりした体格が目立つようになっているし、手首のあたりは眺めのフリルが付いていた。
「あぁ、こちらですか?お客様にはよくお似合いだと思いますよ」
「そんなに派手って訳でもないしなぁ」
「えぇ、こちらからもお勧めできますわ。男性の方でもきちんと着られる様に調整もできますし」
「じゃあこれを着てみ」
「だから!脱がすならこれが一番なんだって言ってるじゃないか!タイトなドレスから細いのが出てくるのだっていいだろう?」
「ばか言うな!着物だとお代官様ごっこができる!!あーれーとか男のロマンだって!」
「何で二人とも全部脱がすのが良いんだよ。こういうのはな、全部脱がさずに中で恥じらってるのを見るのがいいんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、三郎の中で何かが切れる音がした。
一体何の話をしてるんだ、とぎぎっと音がしそうなほどぎこちない様子で三郎は三人を振り返る。
その冷たい空気に流石に三人も気がついたのか、はっ、と息をしながらうなだれた。
視線が、合わせられない。
今、間違いなく彼は怒っているというのがはっきりわかるのだ。
結局お前らの行きつく先はそれなのか、という責めるような視線を感じながら三人は手にしていた衣装を係員に返すことになった。
そして、三郎の衣装は自分で選んだ真っ白のシンプルなデザインのウェディングドレスとなったのである。

end

ロマンスの番外編です。なんか思いついたから書いてしまいました。
新郎という名の馬鹿三人になってしまいましたが、ロマンスの三人は私これくらいで書いております(何)
まぁ、ほらあれです、恋は盲目ってことで…はい、すいません。