あくびをひとつ

勉強会をしようと言ったのは滝夜叉丸だった。
元々は忍玉になったばかりのタカ丸があまりにも成績が悪いので、そのテスト勉強を手伝うという名目だった。
しかしそのタカ丸に思いを寄せる喜八郎が「私も一緒にいる」と言い始め、それとそこそこ友好もあり、タカ丸とも面識がありおまけに滝夜叉丸のライバルである三木ヱ門も参加するとなったため、その二人だけのテスト勉強は四人で集まってやる勉強会へと姿を変えた。
場所は一人部屋を与えられているタカ丸の部屋である。
流石に滝夜叉丸と三木ヱ門が隣同士になることはなく、綾部はタカ丸の真正面を陣取った。
その結果、滝夜叉丸と三木ヱ門は正面に座ることになってしまったのだった。
そうなると、どちらかがどちらかにちょっかいを掛けるなど簡単なことだ。
五分に一回は二人の口論になるため、タカ丸の家庭教師はもっぱら喜八郎ということになった。
しかし、それはそれで喜八郎が満足という様子なので、机を半分に割って向こうはとかく平和だ。
「タカ丸さん、これは暗号になっているんです。だから、この部分はこういう風に読み解いて…」
「あ!あぁっ、なるほど!流石喜八郎、すごいねぇ」
「だから、ここはお前の読み方だと意味が通らなくなるじゃないか!何で素直な読み方をしないんだ!」
「なぁにをいう!この滝夜叉丸の解釈が気に入らないというのか!」
「当たり前だ!!」
ぎゃあぎゃあわいわいとお菓子を摘まみながら開催される勉強会は何だかんだと楽しいらしい。
タカ丸は隣の喧嘩を聞きながら、ふふと楽しげな声をこぼした 。
「二人は仲いいねぇ、喜八郎」
「そうですね。喧嘩するほどなんとやらです」
「「どこがだ!!」」
声が重なれば、それに反応して二人でまた言い争いを始めるのを見て、タカ丸と喜八郎はやっぱりなどと言っている。
どうやらタカ丸と喜八郎は一段落したらしく、お茶をすすってふぅと息をついていた。
そしてまた買っておいたカステイラを一かけ口に運ぶ。
「甘いものはやっぱりいいねぇ、喜八郎」
「そうですね、頭を使ったあとにはいいと思います」
隣の喧騒など完全に無視して二人は甘いものを食べている。
砂糖ではなくて蜂蜜を使った独特の風味のカステイラをそこそこ腹に入れてしまえば、どうやらタカ丸の体力と気力の限界を迎えてしまったらしい。
彼はまた筆をとろうとしたあたりで、ふわぁとあくびを一つこぼしてしまったのだ。
「おやまぁ、タカ丸さん、眠いんですか?」
と、喜八郎が尋ねれば「あぁ、うん、ちょっとね」と照れたように返事をした。
それは滝夜叉丸と三木ヱ門の耳にも入っていたらしい、漸く言い争いを止めて二人の方を見やった。
見れば、タカ丸のテキストはもうほとんど終わっているようだった。
「じゃあ、そろそろお開きに…」
しましょうか、と言われて喜八郎が自分の口を押さえた。
もしかして、と顔を覗きこめばその眼尻に涙がうっすらと溜まっている。
「喜八郎、おまえ…」
と言おうとして滝夜叉丸も三木ヱ門もまた二人してあくびをした。
それを見て、ふふ、とタカ丸が笑いをこぼした。
「みんなあくびしちゃったね」
「そ、そうですね。つられたようです」
と、恥ずかしそうに滝夜叉丸が咳ばらいをしながら答えた。
それに三木ヱ門も同じくというようにうなずく。
その様子に、タカ丸があ、と言葉をこぼした。
「じゃあ、もういっそのことみんなで昼寝しようよ。俺の宿題、みんなのお陰で終わったし。みんな宿題ないのに付き合ってくれてたんでしょう?だからここで、休んで行こうよ」
そう満面の笑みで言われて、喜八郎は「私は構いませんよ」と返事をする。
残り二人は、というように視線を向ければ滝夜叉丸と三木ヱ門は顔を見合わせた。
どうしようというように顔を見合わせれば、喜八郎とタカ丸が「どうする?」と問うてきた。
「あー…そうですね、たまには」
「良いかもしれないな」
そう言って、結局四人はその場で寝転がることになった。
あくび一つ、伝染すればこんなものかとだれともなく、小さく笑い声を立てたのだった。

end

仲良し四年生です。こいつらもわいわいみんなで女子高生みたいに遊んでいればいいと思うのです。
五年生は男子高校生だけど、四年生は女子高生。そして六年は大学生ですよ、集まると。